太陽のカケラ...16



もうちょっと感動していたかったのに。

「気持は分からないでもないけどねえ。こんなんだし、ここ。でももう寮長挨拶がはじまっちゃうからね。あ、座るのはどこでも良いよ」
「寮長挨拶ねえ。しっかしどこも人が多いんだな」
「今日だけだよ。明日からは割とばらけるから我慢我慢。ほら、あれが寮長だよ」

連れられた先は人混みの中で、全寮制だから高等部の全員か。
そりゃむさくるしくもある上に、寮だからだろうか、パジャマ姿がちらほら見える。
と言う事は入学式をサボっている奴らもいると言う事か。
着ぐるみパジャマもあちこちにいる。

椅子なんてどこも空いてないから適当に元はロビーの机だろう所にナオと一緒に腰掛ける。
ナオに指差される寮長はロビーの奧、なぜか机をいくつか重ねた高い所に立ってメガホンを持っている。

いや、机を重ねて立っているの理由は直ぐに分かった。小さいのだ。
きっと瑛麻より10cm以上は小さそうで、寮長と言うからには先輩だろうに妙に可愛らしい雰囲気の人だ。
サチには負けるけど、同じ様な、こっちはあちこちに跳ねたふわふわの茶色の髪にでっかい目。体格も華奢で、なぜか真っ白いうさぎの着ぐるみパジャマだ。
いや、とても似合うのだが。

「3年生の高塚先輩ね。S2クラスのある意味天才。面白いよ」
「S2クラスって言うと」
「特技コースの文化系。紙一重って言った方が早いかな」
「ああ」

天才と何とやら、のクラスの人か。
特技コース、文化系とは何かしらに秀でた物を持つ者のクラスで、ある意味よりどりみどり、との事だ。
高塚は理数全般が得意との事で。

「理数系の天才ねえ。見かけによらねえんだな」
「全国模試はトップクラス。でも文系が、特に漢字が全然ダメだって話だよ」
「そんだけ出来れば漢字くらい何て事なさそうだけどな」
「僕もそう思うんだけどね」

テーブルに腰掛けながら好き勝手言っていたらメガホンのスイッチが入る音がして、ざわついていたロビーが一瞬だけ静かになる。

「はーい、はじめるよ!適当に座るなり立ってるなり踊ってるなりしててね!寮長の3年S2の高塚尊(みこと)だよ。よろしくね!」
「高塚ちゃーん!抱きしめさせてー!」
「ミコトちゃーん!もふもふさせて!」

またもや雄叫びだ。野郎のみの黄色い悲鳴と野太い悲鳴が嬉しくない。
けれど机の上の高塚は楽しそうだ。着ぐるみ姿でちょこっと踊って愛嬌を振りまいて、またロビーが野郎の悲鳴で揺れる。

「まずは新入生、高等部へようこそ!規則は中等部と一緒!じゃあ何で集めるんだって言うと最初だからだよ!何かあったら寮長の僕か、その辺で転がってる寮内委員の腕章の人に相談!色は青色ね!これだけ覚えておいてねー!あと、週末は楽しいレクリエーションもあるからね。絶対来るんだよ!食券プレゼントがかかってるんだからね!僕の挨拶はこれで終わり。で、後もういっこだけ、今年は久々に外部からの入学生がいまーっす!えーっと、院乃都瑛麻君!いたらこっちきてー!」

げ。名指しだ!
わっと湧くロビーの中で一人だけご指名。とってもありがたくない。
いっそ逃げたい気持になった瑛麻だが、直ぐにサルとクマの着ぐるみパジャマに両脇をがしっと押さえられてしまった。

「あ、そうそう。4月一杯は寮内委員の、青腕章の人達、着ぐるみだから。分かり易いでしょ?」
「そう言う事は先に言ってくれナオ」

だから着ぐるみパジャマがあちこちにいるのか!分かってたら逃げようもあったのに。
こんな大人数の前に引っ張り出されるなんて気が進まないけど、逃げられない。
そのまま人混みの中を連行されて、辿り着いたのは高塚の立つ机の前。小さい手が瑛麻に差し出される。

「まさかそこに乗れってのか?」
「意外と丈夫だから5人までだったら大丈夫!ほらほら、みんなに紹介するんだから」

近くでみればより一層可愛い先輩だ。
サチよりも線が細い分、より女の子。悪い気はしないけど、これも間違いなく野郎だ。

「はーやーくっ。ほらほら」

小さな手がひらひらと振られて、引っ張り上げるぞっ、と言う気合いが見えるが流石に体格差を考えれば無理だろう。
仕方がない。溜息一つ落とした瑛麻がが机に手を掛けて、ひらりと上にあがった。

「わ、格好良い!身軽だねー」
「どうも」

綺麗な動作に高塚が目を輝かせる。
今日は小さくて可愛い子に運があるのだろうか。男だけど。
しぶしぶと机の上に立った瑛麻にまた高塚がメガホンを構える。

「はいみんな、院乃都瑛麻君だよ!外部からの新入生だから案内よろしく!ちゃんと説明してあげるんだよ!苛めたら僕特性のオシオキだからね!」

わっと上がる歓声は歓迎のしるしなのだろうか。何にせよ何かとノリの良い生徒達だ。
ロビーを見渡せばどこもかしこもむさくるしいけど、楽しそうでもある。



back...next