太陽のカケラ...14



離れがたくて。じゃなくて、手を繋いでいる事を忘れてそのまま寮に到着した。
予想はしていたけど、寮もあれだ。テーマパークだ。
赤煉瓦の、時代がかった造りの3階建て。重厚と言うよりかは繊細さが際だつ見事な建物で、それが2棟と、挟まれる様にしてドーム状の建物が1つ。

「左が高等部の寮で、右が中等部。真ん中が食堂だよ」
「はー・・・こりゃすげえな」

和麻に引っ張られながら食堂へ向かう。
各寮の入り口と食堂の入り口はまた別になっていて、生徒の姿が沢山見える。
ホームルームも終わった事だからと成長期の少年達がせっせと昼食をかき込んでいる様だ。
そう言えば理事長室に寄っていたから時間も程良く進んでいて丁度お昼。
瑛麻も和麻も育ち盛りだ。当然食堂を見ればお腹が空いてくる。

「腹減ったな。何食う?ってか、ここってどうすんだ?」
「生徒用のIDカードを食券の機械みたいなのに入れればいいんだよ・・・って、兄ちゃん、ひょっとしなくてもカード持ってないよね」
「おう。知らん」
「・・・本当は担任の先生に貰うはずなんだけど」
「あー、それで職員室って言ってたのか、みんなでスルーしたから分からんかった」
「その様子じゃ教科書とかも」
「知らん!」

胸をはって言い切る兄に弟はがっくりと、はしないけど少々不安になる。
この兄は僅か数時間でいったい何をしでかしてきたのか。
じいっと小さな頭を見ていれば握っていた手をぎゅっと握りなおされて、悪い気がしないのが兄馬鹿な弟で。

「食堂は僕のカードで大丈夫だけど、後でちゃんと職員室に行ってね?教科書とか、いろいろ先生から説明があるはずだよ」
「アイツが説明ねえ・・・サチでも引っ張ってくか」
「もう、あんまり先生苛めちゃダメだよ。可哀想でしょ」
「いや、苛めてるのは主に俺じゃなくてサチの方。っと、しかし人数多いな」

瑛麻はまだ知らないが食堂は中高共通で、一番人が集まる所だ。
よって、かなり広い上に人が多すぎて誰が誰やら状態にもなっている。

そんな中でも集団に埋没できない兄弟はとても目立つ。主に目立っているのは見た目の良い弟の方で、手を繋いでいる事だけれども。
なんて気付かない、気付いても知らないフリな瑛麻はゆっくりと和麻と一緒に食堂内を歩く。

「食堂はいつもこうだよ。人が多くてうるさいの。早く行こう、兄ちゃん」
「おう」

カオルと遊佐が食堂に行っているとは言っていたけど、これじゃ見つけられなさそうだ。
瑛麻は人混みに埋もれる様に、和麻は頭一つ出て移動していればやっぱり視線が突き刺さる。

「そりゃ目立つもん。遅かったな、瑛麻」

なのに軽くカオルに声をかけられた。この人混みの中で見つけられたのか。

「カオル、良く分かったな。あ、弟の和麻な。中学3年」
「さっきも会っただろ。つーか、二人揃って目立つからすぐ分かった。ラブラブだなあ」

こんな時でも妙に爽やかなカオルに周りがざわつく。
何て事はない。堂々とラブラブだと言ってのけた事に対するざわめきだ。
いや、食堂の中でもピンク色の空気はちらほらと見えているが、こんなに堂々と手を繋いでいるのだからそりゃ目立つだろう。
ついでに和麻の男前っぷりも加算されてずーっと食堂内では二人の噂話を堂々としていたのだから。
知りたくもなかった注目されている原因が分かった瑛麻だが、だからと言って別にいいじゃないかとも思う。

「いいだろ、ラブラブだぜ。和麻、こいつがさっき会ったカオルな。えーっと」
「神野樹カオル。瑛麻のクラスメイトで地元組な。よろしく、和麻」
「院乃都和麻です。よろしく、です」

和麻の方も手を離すつもりはない様で、兄にぴったりとひっつきながら、気持小さな背中に隠れる様に挨拶すれば思いっきりカオルに笑われて、けれど嫌味のない笑い方にきょとんとしている。

「こーゆーヤツだから楽しそうなんだよ。遊佐もいるのか?」
「ああ、テーブル1つ取ってるから一緒に行こうぜ。サチ兄弟とナオもいる」
「・・・そっちの方が目立つんじゃねえか」
「そこに瑛麻兄弟も加われば目の保養だな。そういや担任がIDカード寮に渡しておくって、サチじゃなくて会長にお願いしてた」
「・・・意外と苛められっ子か。ちょっと優しくした方が良いのか、あの担任」
「いいんじゃね?すぐ調子乗っちゃって学年主任に説教くらってるし。まあ楽しいぜ、あれでも。和麻の方はどうだ?学園生活も慣れない事ばっかだろ?」
「僕は、静かな方が良いけど、ここは賑やかでちょっと困る」
「あはは。その顔と名前じゃな。同室は?友達は?」
「同室はクマみたいな人だった。友達は・・・どうなんだろ、難しい」
「直ぐに出来るさ。できなきゃ無理矢理巻き込んじまえ。折角の学園生活だもん、楽しんだ方が得だぞ?」
「ん・・・そうだね。頑張る」

屈託のないカオルに和麻も少し安心したみたいだ。
初対面の人にこんなすらすら会話するなんて。内心兄らしく(?)感動しつつも誘導されるままに移動すれば、やっぱり、とても目立つテーブルに案内された。
そりゃ目立つだろう。座るメンバーが派手すぎる。最も瑛麻も和麻もその派手の部類に入るだろうけど。

まるいテーブルにいるのはキラキラ輝く会長兄弟に知的な雰囲気のナオ、それに金髪頭の遊佐。うん、派手だ。

「お、そっちも兄弟か。ラブラブだな」
「ラブラブだね。兄さん、ボク達も手繋いでみる?」
「お前は握りつぶそうとするから嫌だ」
「弟君の方が大きいんだね。カオル、お茶おかわり」
「自分で行けっての、ナオ」
「嫌だよ。カオルが行った方がオマケが多いもの」
「遊佐でも一緒だろ?遊佐、行ってこい」
「何で俺に来るんだよ!」

何ともまあ賑やかだ。
空いている席に腰掛けつつ感心してしまう。

和麻の方は警戒が入っている様で、握った手が少し汗ばんで可哀想だ。
そりゃそうだろう、突然こんな派手なテーブルだなんて。まあ、和麻も十分馴染めそうだけど。

「お前ら飯食ったのか?俺ら今からなんだけど」
「じゃあ早く行った方が良いね。ここね、食堂だから売り切れる事はないんだけど、早くいかないと人気なのはなくなっちゃうからね」

ぐるりと生徒会長兄弟にカオル、遊佐、そしてナオ。その隣に瑛麻兄弟で、ナオがオムライスを突きながら教えてくれる。
ちなみに、会長が焼き肉定食とケーキ2種類でサチがどう見ても生姜焼き定食にカレーうどんとざる蕎麦。どんだけ食うつもりなんだ。
カオルがハンバーグセットらしきもので遊佐がパスタとピザ。同一感もゼロならイメージも違う食いっぷりだ。

「行ってくる。席サンキュな」

ぱっと見ただけでもいろいろありそうで楽しそうだ。
和麻を連れて席を立てば全員がひらひらと手を振ってくれた。



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