太陽のカケラ...11



台風一過。何にしても目立つ兄弟だ。
兄を見るからに、数年後にはサチも立派な男前になっていそうで少々憎たらしい。
なんて感想をカオルと遊佐に言いながら今は移動中だ。やっぱり理事長には挨拶しないと、と言う結論でしぶしぶだが。


しかし広い学園だ。
カオルの説明によれば理事長室は別棟になっていて、教師棟と言うらしい。
他には高等部の校舎に中等部の校舎、それぞれに伴う運動場や部活棟に道場。正直数えるのが面倒なくらいだ。
それ意外に寮もあるから、敷地は膨大で初心者は必ず迷うから案内担当の生徒も数多くいるらしく。

「あの黄色の腕章が道案内の人だぜ。分からない所があったらあの人達に聞けば教えてくれるし案内もしてくれるぞ。まあ、聞くのは中等部の新入生が多いけどな。ほら、泣きそうなチビっ子がいっぱいうろちょろしてるだろ」
「授業以外は全校生徒があちこちうろちょろしてるからな。寮も中等部と高等部が隣り合わせで行き来も多いぜ。食堂も一緒だしな」
「はー・・・覚えるだけで頭痛えなあ」

それにしてもカオルと遊佐は全校生徒に知られているのか。
説明しながら歩いているだけなのにやたら手を降られたり声をかけられたりしている。

「んで、何でお前らはそんなに有名な訳?なんかあるのか?」
「ふっふーん。直ぐに分かるよ、俺らの事。ってゆーか、地元組の事?」
「もうすぐだしな。まあ楽しみにしてろや。瑛麻は体力ありそうだから嬉しいぜ」
「さっぱり分からん。まあいいけど。いろいろサンキュな。正直右も左も分からんから助かってる」

瑛麻を中心に右をカオル、左を遊佐に挟まれて歩きながらちゃんと感謝する。
最初に出会えたのがこの2人で良かったと、瑛麻だって素直に感謝する時はするのだ。

両脇を見ながら浮かんだのはとても自然な笑みで、そんな瑛麻の笑顔にカオルと遊佐が見惚れる。

「へー。そんな顔もするんだ。こりゃあ役得かもな、遊佐」
「全くだ。俺らも運が良かったな。気が合いそうで何よりだ」
「門の前に突っ立ってる変なヤツ捕まえたら瑛麻だったなんてなー。お得お得♪これからもよろしくなっ」
「俺も、よろしく。瑛麻」

今更正式な挨拶か。
それもまたくすぐったいのに、自然と湧き出るのは腹の底からの笑い声だ。



高等部の校舎から徒歩15分。
教師棟にあると言う理事長室は偉い人と何とかは、で最上階との事だ。
と言っても最上階は3階で、棟にまで辿り着けばすぐ。階段を上がればすぐ。
なのだが、理事長室の前に瑛麻を今か今かと待ちかまえていた人物が広い廊下にいた。

制服を嫌味な程にぴしっと着こなした、見かけだけは上級生に見えてしまう可愛いアイツ。

「兄ちゃん。待ってたよ!」

和麻だ。瑛麻を見つけた瞬間、思い切り駆け足で飛び込んでくる。
兄より弟の方が大きいから支えきれずに数歩後ずさって、それでも何とか抱きついてくる和麻を支える事に成功する。
そう言えば暫く会っていなかったなあと思い出して頭を撫でてやれば面白いくらいにぎゅうぎゅうと抱きつぶされてちょっと痛い。

「和麻、飛びつくなって。デカイんだぞお前の方が」
「だって久々だもん!待ってたのに兄ちゃん全然来ないし!入学式の前に理事長室だって言ったのに忘れてるし!来なかったら迎えに行こうかと思った」

例えるならばごろごろと喉を鳴らす猫か、尻尾を振りまくる犬か。
和麻の外見だと犬の方が正解だろう。見えない尻尾が見えそうな勢いだ。

しかしどうして今、待ちかまえているのか。瑛麻が理事長室に向かう事は言っていないし、なんて和麻相手にそんなツッコミは無駄だ。
いる時には必ずいる。それが和麻だ。
今更驚きもしないけど、絶対どこかしらに何か仕掛けられていると思う瑛麻だ。

「こっちの兄弟もラブラブだなあ」
「弟の方がデカイんだな。会長の所とは反対か」

そんな兄弟をにまにまと眺める影2つ。驚きもせずに観察するカオルと遊佐だ。
なんでこの2人は何にも驚かないんだか。抱き付かれながら観察すんなと足を出せばけらけらと笑われる。

「そんじゃ俺ら寮の食堂に行ってるな。寮までは黄色の腕章捕まえてな」
「今日は黄色の人数も多いからすぐ掴まるぜ。じゃな」

そして、すちゃっと敬礼らしき動作をするとバタバタと駆け足であっと言う間に消えてしまった。
仲良く、手を繋いでいる訳ではないが、そっちこそ。

「お前らだって仲良いじゃねーか」

全く妙な2人だ。
それでも悪い気はしないまま見送れば和麻が複雑そうな顔で一緒に2人を見送りながら瑛麻の肩に顎を乗せてくる。

「兄ちゃん、あの人達、友達?」
「そうなるか?初っ端から運が良いみたいだぜ、俺。和麻の方はどうだった?」
「何か大変だったよ・・・」
「疲れてるなー。我慢できなかったらいつでも来いよ」
「ん。ありがと、兄ちゃん」

そう言えば遊佐が大騒ぎだったと言っていた様な気がする。
まあ、この外見だ、確かに大騒ぎだろう。今は迷惑な苗字もくっついてるし。
でも、兄の前以外ではしっかり者の弟だ。じき慣れるだろうと思いつつも瑛麻も久々の弟の感触をひっそりと楽しんでから、ゆっくりと理事長室に入る事にした。



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