太陽のカケラ...10



大騒ぎだったホームルームも何とか終了した。
結局、教師は何かの役に立ったのかと言えば何もしてないと言って良く、今更ながらに学園生活にうんざりする瑛麻だ。
けれど、カオルと遊佐は面白いし、教師を教室から文字通り蹴り出したサチにも囲まれてまあいっか、な気持になれた。

「瑛麻君って格好良いよね~♪兄さんには負けるけど」
「サチ、そんなにひっつくなって。暑いだろ?」

囲まれていると言うより一方的に懐かれた、と言うべきか。サチに。
美少女に懐かれるのは瑛麻としても嬉しいのだが、抱き付かれればやっぱり野郎の身体で堅くて嬉しくない。
でもふわふわの髪からはとても良い匂いがして微妙な気持だ。
ちなみに、椅子に座る瑛麻の上に横乗りになって抱き付かれている。

「別にいいんだけどさ。見かけによらず身体かてえのな、サチ」
「やだあエッチ。って、瑛麻君も結構良い体つきしてるよね。何かやってるの?」
「いんにゃ。深夜の喧嘩を少々くらい。で、何で誰もこの状況につっこまないわけ?」

こんな美少女に抱き付かれていて、とっても目立つのに誰にも突っ込まれない。
ついでに瑛麻自身も目立つと思われるのに。ぐるりと見渡せばどうやら皆揃ってサチが怖い様だ。
近づきたいのに近づけない。そんな空気になっている。

「まあいいんじゃないの。瑛麻初日だろ?いきなり囲まれても気の毒だし、サチだったら良い牽制になるんじゃない?」
「そうそう、ボクに抱き付かれるなんてなかなかないんだから♪」
「・・・いてえよサチ。固いんだってば。てか話が進まねえじゃねえか。ホームルームが終わったらどうすんだ?」

いつまでもここでサチに抱き付かれていても話は進まないのだ。
そう言えば職員室にと言われていた気もするが、恐らく担任の所だろうからなかった事にする。

「職員室に行ってもアレの所だし、いいんじゃない。何とかなるって。とりあえず理事長室と、寮かね」
「そうだな。担任はどうでもいいけど、理事長室は行った方がいいんじゃないのか?」
「理事長格好良いよねー。そう言えば瑛麻君とは親戚になるんだっけ?」

普通、職員室へ案内してくれるのが良い生徒だと思うのだが、3人ともさらりと職員室をスルーした。
その方が瑛麻としても嬉しいのだが、何だかなあ。

「理事長室ねえ。俺、用事ないんだけどな」

行った所で瑛麻にとっては赤の他人だ。できれば理事長室もスルーしてさっさと寮に行って休みたくもある。
まだ学園に着いて数時間だが疲れた。そんな瑛麻の様子に理事長室は行っておいた方が、なんて3人の視線が突き刺さり、溜息を落としたと同時に、廊下からものすごい悲鳴が聞こえてくる。

「何だ?」

妙な悲鳴に驚けば、ここでも驚くのは瑛麻だけでもう寂しくなってきた。

「そんな顔すんなって、瑛麻。ここじゃまあ良くある事だし、サチがいるからお迎えが来たんじゃないの?」
「・・・ああ、そういえば生徒会長が兄貴だって?」
「そうだ。兄さんと一緒に行く約束だったんだ」

きゅるん、なんて可愛く舌をだすサチに遠巻きにしているクラスメイトがぐらりときた様だ。
残念ながら一番近い瑛麻には何の効き目もないが。いや、いっそ感心しつつニキビひとつない顔を見ていれば悲鳴の元が教室に入ってくる。

やっぱり、生徒会長で、サチの兄。
言われてみればサチと似た兄弟だ。兄の方が体格も良く、兄らしい。瑛麻の所とは逆。ちょっとうらやましい。
そして、確かに悲鳴が上がる程の男前だった。茶が強い黒の髪はワックスで無造作にセットされ、男らしいけれど甘い顔立ちは整っているの一言。
颯爽と教室に入る姿はああ、これであの悲鳴か。なんて瑛麻も頷いてしまう程で。

「サチ、また美里先生を苛めただろう、廊下で騒いでいたぞ・・・っと、珍しいな」
「瑛麻君だよ。院乃都瑛麻君。いいでしょ~♪」
「サチでも懐くヤツがいるんだな」

すたすたとサチに近づいてきたと思ったら、瑛麻に抱き付いてるのを見て感心している。そんな姿も男前だ。

「そうか、彼が院乃都君か。はじめまして、生徒会会長でサチの兄で猛獣使いの京橋隆征だ。よろしくな。サチ、迎えに来たんだが、どうする?」

自己紹介が何かおかしい。今、猛獣使いって自分で言わなかったか?
サチに抱き付かれたままひっそりと感心していれば、ひょいとサチが退いて会長の腕にぶら下がった。誰かにひっつくのが好きなのだろうか。

「兄さんと一緒がいい♪じゃあね、瑛麻君、カオル、遊佐。またね♪」



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