太陽のカケラ...9



そして、恐怖の親玉、サチが立ち上がれば教室がしんと静まった。

「京橋佐知。今年も一年よろしくね。
最初に言っておくけど、兄さんへの渡りとか、告白とか、ボクへの告白とか襲いたいとか。
そんなのがあったらいつでも遠慮なく来てね。返り討ちにしてあげるから♪」

ふふ、と微笑む様は見事な美少女なのだが、発言が頂けない。
確かに妙な迫力があるなあと感心するばかりだ。

そんな自己紹介も最後の瑛麻の番になった。
外部生だからと最後にされたのだ。当然、注目度は一番でクラス中の視線が突き刺さって痛い。

「たぶん院乃都瑛麻だ。俺の事は俺よりお前らの方が詳しいと思うから割愛。
半月前に親が離婚して院乃都になったばっかだから俺に聞かれてもわかんねえからな。まあ、よろしく。それとサチ、でいいか?さっきはサンキュな」

妙な自己紹介にクラスがざわめく。
本当の事を言っただけなんだがなあと髪を掻き上げればサチが可愛らしく微笑んで手を降ってくれる。

「格好良いねー。よろしく♪」

外側だけなら文句のない美少女なのに。
ちょっと勿体ないな、なんてサチに知れたら蹴られそうなことを思いつつ座ろうと思えばカオルに止められる。

「瑛麻ー。趣味とか好きなのとか、抱負とかは?」
「あ?名前は言ったぞ」
「それじゃわかんなすぎだって」
「しょうがねえな。あーっと、そうだな。好きなのは俺優位の喧嘩と夜遊びと味噌汁な。それと、ああそうだ。
院乃都って言われても全然馴染まねえから俺の事は瑛麻って呼んでくれ。苗字で呼ばれても振り向かねえからな」

それじゃあ改めてよろしく。
なんて瑛麻とすれば当然の事を言ったのになぜかクラス中に妙なざわめきが走って、カオルと遊佐が深々と溜息なんか落としている。

「んだよ」
「いやあ、何となく瑛麻らしいなーって思っただけ」

ようやく座れる瑛麻にカオルがにやにや笑って遊佐も以下同文だ。
クラスの雰囲気もおかしな空気で、瑛麻一人で首を捻れば教壇で、やっと先生らしくなった美里がパンパンと手を鳴らして注目を集める。

「自己紹介も終わった事だし、委員長決めたらホームルームは終わりだ。それと、院乃都、終わったら職員室に来いってのは本当だからな。
お前外部なんだから説明しないと何も分からないだろ、っと、サチ、そんなに睨むなよ。おっかねえんだよお前は!」
「だよねえ。2年前にボクに足、折られちゃったもんね、みーちゃん♪」
「ちくしょ、女だと思っただけじゃねえか!」
「ふうん、今度は腕の骨、イってみる?」

ようやく教師らしい所を見られるかと思えば違う様だ。
サチに微笑まれながら美里の顔色がざあっと変わって、いったいあの二人は何なんだと思えばどうやら慣れっこらしい。

しかしこれでは話が進まない。仲良く(?)言い合いを続ける美里とサチに唖然とする瑛麻だが、皆は慣れている。

と言う事は、話は生徒で勝手に進むもので。
ガタンと立ち上がったカオルが両手を腰にあて、クラスをぐるりと見回して、2人の生徒に目を止める。

「工藤と林野!前も委員長だったから今度もやる?」

声を掛けたのは、一番後ろの席の生徒と一番前の生徒。2人とも私服だがなるほど、委員長タイプの生徒だ。
二人もカオルを知っている様で、と言うより恐らく顔見知りでないのは瑛麻だけなのだろう。勝手に話が進んでいく。

「別に良いんだけど・・・いいの、あれ?」
「俺らは別にいいんだけどさあ」
「じゃあじゃんけんで勝ったら委員長にでもしようか、林野君」

やれやれ、と二人が席に座ったまま腕だけ上げてじゃんけんをして、勝ったのは工藤と呼ばれた生徒だ。
工藤も林野もそう残念がる様子もなくじゃあ委員長と副委員長ねなんて軽く喋って、本当に生徒だけで話が進んでしまった。
そしてカオルは一人ご機嫌でにこにこしながらどうしてか瑛麻の頭をぱしっと叩く。
抗議するにも気が抜けてへちゃっと机に沈めばからからと笑われて。

「けってーい!早く飯食いたいんだよ。もー俺の可哀想なお腹がぺちゃんこになっちゃうだろ」

カオルが嘆いたのになぜか腹が鳴ったのは遊佐で、クラス中が大爆笑になる。



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