太陽のカケラ...7



学園のクラス割は少々変わっているそうだ。

まずは普通に成績順のクラス編制。頭の良い順でAクラスからDクラスまで。
その他に学園らしい特待生のクラスにはSが付く。
S1クラスが体育系の特待生クラス。S2クラスが文化系特待生クラス。
そして、SSクラスが文武両道、全てにおいて優れた者が集まるクラス、との事だ。
元々はS1クラスで勉強もできる者が運動だけじゃなくて勉強もしたい!が設立理由だとか。

カオルの説明によればS1が筋肉馬鹿、S2が紙一重、SSがキラキラ、と言う事だ。確かに覚えやすい。

「そんで、俺らはみんなBだ!やった!遊佐と同じクラス!瑛麻も一緒だ!」
「お、離れなくて良かった。3人とも一緒か」

クラス割りは廊下に張り出されていて、入学式が終わった今、ぞろぞろと生徒達がクラス割りを見て妙な悲鳴を上げている。そんなに重要なのだろうか。
カオルと遊佐は一緒だと手を叩いて喜び合っていて大変微笑ましいが。

「まあ後でたーっぷり説明してやる。さ、教室行こう」
「俺も教えてくれるんなら有り難いんだけどよ、さっきから妙に私服がいるのは何でだ?」

そう。入学式では制服だけだったのに、なぜか会場から教室へ移動する間に私服が増えているのだ。
おまけに、なぜか瑛麻達3人はとっても注目を集めている様で、若干ひそひそ声が聞こえるがこれは気にしない方向で。

「ああ、制服着用義務は式典のみだからね。後は私服で良いんだよ、ここ。
俺らは帰るだけだから制服だけど、めんどい奴らは式が終わって直ぐ着替えるんだ。
そういや瑛麻って寮だよな?その様子だとまだ行ってないっぽいけど」
「来たばっかで何が何やら。お前ら地元組って言ってたよな。寮じゃないのか?全寮制だろ、ここって」

全寮制なのに地元組とはおかしな話だ。
首を捻ればまた遊佐に背中を押されて教室の中に入ってしまう。
そう言えばBクラスと言ったか。クラス編制から言えば丁度真ん中あたり。
うん、狙った通りだ。

クラスに入れば流石に教室はごく普通で、見慣れた机に教壇、黒板。
見知らぬクラスメイト達は半分くらいだろうか。
にしても遊佐に押されるまま足を進めれば、どの席かなんて分からないのに勝手に空いている所に着席してしまった。
後ろから3番目、窓際の席に瑛麻、その隣にカオルで、後ろが遊佐だ。

「不思議そうな顔もなかなか♪席順は早い者勝ちで、俺らが地元組ってのは寮生じゃないんだよ。
地元の村から通う奴らは別区切りなんだ。って言っても人数少ないし、1年は俺と遊佐だけで2年が1人。3年に3人しかいないんだ」

カオルの説明にうんうんと遊佐が頷く。
どうやらこの2人は主にカオルが喋って遊佐が補助、の様な役割らしい。
デコボココンビにも見えるが気が合っている様で、何て言うか、夫婦みたいだ。

「説明は追々ちゃんと聞く。サンキュな、カオル。んで、お前ら付き合ってたりとかすんの?」

カオルと遊佐は仲が良いが恐らくは違うだろう。
けど、気になってはいたのだ。男子校なのに、むさくるしいのに、なぜかピンク色の空気がちらほら見えてしまった事に。
じっと隣の席に座るカオルを見ればぽかんと口を開けて間抜け面を晒してくれる。遊佐も同じ表情で、申し訳ないが笑える。

「あー・・・気付いちまったか。瑛麻聡いなー。顔もイイし、こっちの説明の方が先かね、遊佐」
「その方が良いだろ」

なのに2人で顔を付き合わせてひしょひしょとやっている。
大変仲良しで良い事だが、ピンク色の空気はない。

「いいか、よーっく聞けよ瑛麻。俺と遊佐は幼馴染みで疚しい関係は一切ないし、遊佐の狙いは俺の妹だからな。
でも、確かにそーゆーのは良くある関係だ。男子校だし、中学の時から隔離されてるし、外部生なんか滅多に来ないし、すごいぞ」
「カオル、それじゃ説明になってないだろ。ついでに俺の目標をさらっとバラすんじゃない」
「確かに説明になってないよね。はじめまして、院乃都君。お会いできて光栄だよ。僕は近藤尚太(こんどう なおた)。よろしくね」

新しい顔がひょこっとカオルの向こう側から来た。
にこやかに笑むのはネクタイの色が一緒だから同級生で、男のくせに随分と線の細いヤツだ。
綺麗に整えられた黒髪にノンフレームの眼鏡。
院乃都の名前を強調すればクラスがざわめき、かと言って本人に悪意は見えない。変なヤツだ。

「あーっと、アンタ誰?」

自己紹介はされたけどさっぱり分からない。
肩を竦めて見せればカオルと遊佐が吹き出して、近藤と名乗った生徒も笑いながらひょいとカオルの机に腰掛けた。知り合いの様だ。

「ナオ、そんな自己紹介じゃ警戒されて当たり前だろ?見ろよ瑛麻の顔、おっかねー顔してるぞ」
「そうだぜ、ナオ。もちっと穏やかにしろや」
「あはは、ごめんごめん、でもほら、一応院乃都ならご挨拶しないとさ。って、あれ?良く分かってない顔してるね」
「残年ながらつい二週間前までは一般家庭の不良息子だったもんでな。で?アンタは何?ナオって呼んだ方が良いのか?」

最初の取り繕った雰囲気がさらっと消えた近藤、ナオは年相応の少年らしい笑顔でカオルの頭を掻き回している。

「僕の事はナオで良いよ。僕も瑛麻君で良いかな。それで、一応僕の家って院乃都のグループの一つなのね、だからお会いできて光栄だよ。
でも、噂は本当だったんだね」
「噂?」

きょとんと呟くのは髪の毛をぐしゃぐしゃされたままのカオルだ。
後ろから遊佐が手を伸ばして直している。

「本社の社長が突然変わって、それが大昔に勘当されたご子息だって話。その様子じゃ何の説明もされてないっぽいね。
僕で良かったら説明するよ。ああでも、そのまえに学園の説明の方が先だけどね」
「・・・めんどくせえなあ」

何から何まで面倒臭い話になりそうだ。
けっと悪態をつけばまたクラスがざわめいて注目を集める。やっぱり注目の元は瑛麻か。

確かに良く目立つ容姿、とまではいかないが不思議と目を引く雰囲気で瑛麻本人の所為でもあるのだが、
一緒にいるカオルと遊佐も注目度が高そうでもある。ナオもまた目立つ様だ。
ちらっと腕時計を見る仕草なんかいかにもお金持ちの躾の良いお坊ちゃんだし、姿勢もピンとしていて見ていて気持ち良い。

「まあ説明しなくても追々嫌でも分かると思うけどね。っと、残念だけど時間だ。また後でね」

ひらりと一度手を振ったナオがさっさと教室から出て行ってしまう。
説明はどうした、と突っ込む前にチャイムが鳴って、周りのクラスメイト達もざわざわと空いている席に慌てて座りはじめている。

「またねって、アイツのクラス違うのか」
「ナオはSSだよ。わざわざ瑛麻の顔見に来たんじゃないの?」
「お前ら知り合いなんだろが。お前らの方に会いにきたんじゃないのか?」
「それもあると思うけど、やっぱ瑛麻だよ。話題の人だしさ」
「話題って・・・ああもう、めんどくせえなあ」
「そうぼやくなよ。慣れれば楽しいぜ」

カオルと遊佐が同じ顔でにやにや笑っているからふん、と顔を背けてクラスを眺めれば未だバタバタと賑やかだ。

こういう時、席が先着順と言うのも混乱の一つだと思う。
一番後ろの席は早い時間に埋まっているし、当然ながら一番前は不人気だ。
なのにお喋りに夢中で席に座っていなかった奴らが慌ていて、一番前!?とか頭を抱えている。
見ていてちょっと楽しい。

そんなに慌てるなら最初から良い席を取っておけとは思うのだが、まあいろいろあるのだろう。
にやにやとクラスを眺める瑛麻にカオルと遊佐も笑って、楽しいだろ?と言われてしまった。



back...next