太陽のカケラ...6



「・・・校門から入学式の会場まで走って20分もかかるって・・・」
「広さだけが自慢だし。間に合って良かったー」

ぐったりとパイプ椅子に沈む瑛麻に対し、けろっと笑うカオルは何の疲れもなさそうだ。
瑛麻だって疲れている訳ではないのだが、精神的に疲れた。
いやだって、まだか全力ダッシュで20分もかかるだなんて!
しかも到着した入学式の会場は式典専用のこれまた豪華すぎる建物で。
あれだ、テーマパークの中心にあるっぽい建物で。

ちなみに、席は学年で固まっていれば自由な様で、瑛麻達は空いている1年の席に3人仲良く並んで座っている。

座る順番はなぜかカオル、瑛麻、遊佐だ。
なんで瑛麻が中心なんだと一応は抗議したものの爽やかな笑顔の2人は不思議と押しが強くて瑛麻が負けてしまった。
これもまた滅多にない事で何だかなあと言う気持だ。

「今挨拶してるのが理事長で、俺らとは反対側が中等部な。そういや理事長も院乃都だから親戚になるのか?」

せっせと学園の事を説明してくれているカオルは面倒見が良い、ではなくて世話好きなのだと遊佐に教えてもらった。

言われてみれば遠くの壇上でそれらしい挨拶をしているおっさんも院乃都だと言う。
と言う事は瑛麻にとって親戚になるのだろうが、生憎と、ついこの間まで両親は天涯孤独だったから全く分からない。
いや、そういえば。

「ん?そういや親父の弟だって言ってた様な」

家を出る時に瑛麻と和麻に怒られっぱなしで、すっかりしょぼくれた父が言っていた様な気がする。
ついでに学園に通うのであれば一度挨拶して欲しいとも。それは聞かなかったフリで忘れている事にするが。

「じゃあ叔父さんじゃない?格好良いよな、理事長も」
「も、って何だ。似てねえぞ」
「いや、似てると思うけどな」

にこにこ。本当に良く笑う2人だ。
くったくのない笑顔にすっかり毒抜きされた気持の瑛麻だが、理事長の挨拶が終わり、淡々と進む入学式の終盤。ふと会場の空気が揺れた事に気付く。
何だ?

「次は生徒会長挨拶って事で、耳、塞いとけ」
「いきなりじゃ分からないって。はい、耳栓あげる」
「・・・は?」

遊佐が耳を塞ぐフリをして、カオルにはなぜか耳栓を貰ってしまった。しかもポケットから何個も出てくる。
って、ええ?耳栓?

「いいから早くつける。じゃないと一日中耳がきーん、になっちゃうって」
「カオルの言う通りだぜ」

訳の分からない瑛麻に二人が親切にも勝手に耳栓をつけてくれた。
いやだから、耳栓って。
瑛麻らしからぬ戸惑いっぷりに、けれど慣れた2人はさっさと動いて説明もしてくれない。
いや、一応遊佐の言葉が説明になるのか?

「それでは、生徒会会長よりの式辞です」

アナウンスが流れて、壇上に一人の生徒が上がる。
その途端、文字通り会場が揺れた。

「会長ー!素敵ー!」
「カイチョー!格好良い!抱いてぇ!」

ものすごい、声援にしては野太い声オンリー。ものすごーく聞きたくない台詞が多い歓声だ。
しかし男子校で歓声だなんて、しかも聞きたくなくても聞こえる野郎なのに黄色い悲鳴って。
唖然とする瑛麻に両隣の二人は慣れたもので、周りと一緒に手なんか振って楽しんでるみたいだ。耳栓つきだけど。

「静かに。皆さん、入学式から元気そうで何よりです。春休みは楽しかったでしょうか?新入生の皆さんは驚かれたでしょう。
高等部生徒会会長、京橋隆征(きょうばし たかゆき)です」

壇上に立つのはこれまたとびっきりの男前、みたいだ。
遠くて顔の細かい所までは分からないが人気っぷりがものすごい。と思っておこう。
耳栓を貰って心の底から良かった。唖然としながらも何となく分かってきた雰囲気にげんなりする。
そんな瑛麻にカオルが楽しそうに笑った。

「すごいだろ。会長、格好良いし人格者だしこの人気。で、瑛麻の表情通り、ここは楽しいぞ~♪」
「暇になる事がないからな」

遊佐も楽しそうにしている。この状況で楽しめる2人は意外とすごいヤツなんじゃないだろうか。
なんて思ってしまうのだが、本当にすごい2人だと知るのはもっと先の話で。

「俺は楽しくねえよ。しっかし賑やかすぎだろ。入学式じゃないのか?」
「入学式だから楽しいんだって。今日は式とホームルームだけだし。クラスも一緒だといいな」

心の底から入学式を楽しんでいる2人には悪いが、瑛麻はもう帰りたくなってきた。

帰ると言ってもあの豪邸じゃなくて、ちょっと前まで住んでたアパートに帰りたい。
盛大に溜息を落としたらなぜか遊佐に頭を撫でられてしまった。



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