太陽のカケラ...5



私立皇乃院学園。
中等部と高等部からなる全寮制の男子校だ。

全国から優秀な人材を発掘し、集め、又、良家の子息が多く通う事でも知られる俗に言う超のつくエリート校だ。
ただし、校舎は山奥にあり、男ばかりで問題を外に漏らさない様に隔離している、と言った方が良いかもしれないが。
一番近い街までは車で一時間もかかり、あるのは学園の側にある小さな村のみ。コンビニすらない始末だ。

「灰色の学校生活だよなあ。野郎ばっかでむさ苦しいだろうし」

なぜか荷物の中にあったパンフレットを片手に溜息しか出ない瑛麻だ。
大きな荷物はとっくに勝手に送られていて、今は肩掛けバッグに制服姿。
ベージュの、男子校なのに汚れが目立ちそうなブレザーにアイボリーのシャツ、黒のネクタイに黒のパンツ。
まあ見た目は良い感じの制服だが気乗りしない瑛麻にとっては制服すら面倒だの一言だ。

気の利く弟がパンフレットくらい見て!とバッグに入れてくれておいたおかげで、今になってようやく知りたくなかった事実を知ってしまった瑛麻だ。
一応、有り難く眺めているのだが、正直見なかった方が良かったかも知れない環境にまだ校舎にも辿りついていないのにうんざり顔だ。

そう、まだ校舎にも辿りついていない。
車で送ってもらって、一歩踏み出したのは良いものの、どうにも気乗りしない。
いっそ最初からサボろうか。でも寮だから瑛麻の部屋もあるはずで、まずそこが分からない。

「・・・めんどくせえなあ」

やる気なく見上げる先は桜並木と、その前にそびえ立つ刑務所かと思う程の門構え。これが瑛麻のやる気をそいでいるのだ。
だって、この中に入ったらしばらくは出られないだろうし、オツトメに入る気持になっても仕方がないだろう、と自分に言い訳してみる。
しかし入らなければ話は進まなく、でも入りたくない。
案外踏ん切りの悪い自分に思わず乾いた笑いが出てしまい。

「何やってんだよ!遅刻するぞ!」
「入学式はじまっちまうぞ!」

本格的にどうするかと悩みはじめた瑛麻の後ろから賑やかな声がした。
バタバタと駆け足の音と共に門の前で立ちつくす瑛麻の前でぴたっと止まる。

「新入生だろ?行こうぜ」
「最初くらいちゃんと出ないとだぜ」

はあはあと息を弾ませる2人組は瑛麻を見てにかっと笑う。

一人は瑛麻と同じくらいの身長に茶色の髪、黒フチのメガネだ。
目を引くのは両の耳に3つずつあるピアス。笑顔は爽やかで、美形、とまではいかないものの良い顔だ。
もう一人は和麻よりでかそうな、目立つ金の短髪をツンツンさせたガタイの良い奴。
制服よりも土方の格好が似合いそうで、これまた良い男の部類に入るだろう容姿だ。

突然現れた二人を眺めつつ、色もピアスも自由なのかと感心する。
しかし、いきなり何なんだと、じろ、と睨めば眼力のある瑛麻に臆することもない。

「お前外部生だろ?今着いたのか?随分のんびりだな。ほら、急ごうぜ」
「あ、何で外部かって分かるのはこんな時間に門の前で立ってるヤツなんかいないってのと、ネクタイが黒なのは1年だから俺ら同い年で同級生で敬語もいらないって事!ついでに2年が赤で3年が灰色ね」

何なんだこいつらは!
声を出す暇もなくデカイ方に背中をぐいぐいと押されて、メガネに手を引っ張られる。
随分と懐っこい、じゃなくて、本当に何なんだ。

「ちょっと待てって。おまえら何なんだ!突然すぎて訳わかんねえって!」

慌てて手を振りほどけばメガネがきょとんとして、でも背中を押すデカイ方がそのまま瑛麻をぐいぐいと押している。
勝手に進む足は止まらず、メガネの方がぽん、と手を叩く。

「俺、神野樹(かんのぎ)カオル。カオルでいいぜ。んで、後ろのでっかいのが夏樹遊佐(なつき ゆさ)」
「遊佐でいいぜ」

いや、自己紹介じゃなくて。
がっくりと肩を落とせばまたカオルに手を取られてぐいぐい進む。
急いでくれているのだろうとは思うのだが、意外な懐っこさで対処に困る。

「・・・俺は瑛麻。たぶん院乃都瑛麻。まあ、よろしくな」

悪いヤツじゃなさそうだし、と押されるまま足を進めて自己紹介すればカオルの首が傾く。

「たぶん?」
「親が離婚したばっかで苗字にイマイチ自身がねえんだよ。瑛麻でいいぜ」
「大変だったな。ん?院乃都って事は弟も転校してきただろう。大騒ぎだったぜ」
「何で兄ちゃんがこんな所でのんびりしてるんだ?」

屈託のない、と言う言葉が似合う2人だ。
瑛麻に対して何か思う訳でもなく、苗字に反応するでもなく、純粋に同級生だ!新しいヤツだ!と興味津々の様子だ。
それでも両親が離婚したと言えば悲しそうな顔になり、名前で良いと言えばぱっと顔を輝かせる。
今まで瑛麻の周りにはいなかったタイプで戸惑うばかりだ。

「あー。和麻な。先に来てるけど、俺はちょっとな。まあ、家庭の事情って事で。にしてもお前らは寮じゃないのか?」

そういえば全寮制だと言うのにこの2人は瑛麻の後ろ、学園の外から走ってきたはずだ。

「俺らは地元組だぜ。っと、ホントに急がないとはじまる!瑛麻、走れるか?」

地元組?分からない言葉だがカオルが腕時計を見て慌て、遊佐もカオルの時計を覗き込んで騒ぐ。
仲の良い2人だ。

「走れるぜ。でも場所がわかんねえ」
「案内するって。よし、行くぜ!」
「遅れたら運んでやるぜ」

どこまでも人の良い2人だ。
最初に出会えたのがこの2人と言うのも瑛麻らしくない気がするのだが悪い気持はない。むしろラッキーだろう。

「サンキュ。カオル、遊佐」

何となくこそばゆい気持だ。
そんな気持のまま笑みを浮かべれば2人組が目を見開いて同時に叫ぶ。

「瑛麻って格好良い!」

そんな輝いた顔で叫ばれても困る。
走りながら騒ぐ2人に、瑛麻にしては珍しくも照れてしまった。



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