太陽のカケラ...4



「なあ、俺達は、いったい何だろうな」

笑みすら浮かべる瑛麻の表情はとても静かで、けれど違うもの。
見つめられた父は冷や汗を自覚しながら自分の子供なのに、無意識に怯える。

「お、俺の息子に決まってんじゃねえか」

掠れた声に瑛麻が静かに笑う。それは、子供らしからぬ色の滲むものだ。
首は痛いけれど、痛くない。

「俺や和麻の話を一つでも聞いたか?いきなり離婚で引越で、進路まで変えやがって。アンタの自由に動かせる、モノ、だろ?」
「もう一つ追加があるよ兄ちゃん。苗字も変わってるって」

誰もが動けない中でちゃっかり和麻だけが優雅に紅茶を飲んでいる。
兄のこんな姿に驚きもせず、でも首の怪我は心配そうに見上げている。

「まあ離婚したんだから変わるんだろうな。んで、答えは?」

瑛麻は子供だ。
両親が離婚すれば当然どちらかに引き取られるし生活も変わるだろう。

そんな当たり前の事を怒っているんじゃない。
この怒りは理不尽さ。一言もなく勝手に全てを変えた傲慢さに対するものだ。

もしここで黒服が動いたり、父の答えに満足いかなかったらこの豪華な客室を血に染めるだけ。
ある意味卑怯な脅しだが、こうでもしなければ対等に近い話なんてできないと瑛麻は思っている。

「お、俺の息子だっ。早くその手を下ろしてくれ!血が出てるだろうが!」
「うるさいよ。話はまだ終わってねえんだよ。何で勝手に全てを進めた?俺の意見は?和麻の意思は?なあ、アンタの一言で全部綺麗に収まると思った?全部素直に言う事聞くと思った?」

けらけらと上がる笑い声は瑛麻のもの。笑っているのに笑っていない。
ぎゅっと和麻が眉間に皺を寄せて、父は惚けた様に瑛麻を見上げる。
こんな息子だっただろうか。惚けた顔にでかでかと書いてあって本気で笑えてくる。

「聞いて、くれると思った。俺の息子達だ。直系で、候補者にもなれるし、悪い話じゃないと思ったんだよ!」

だって将来も安泰だろ!と叫ぶ父に冷めた視線が突き刺さる。瑛麻と、和麻の視線も冷めきっている。

「もういいんじゃない、兄ちゃん。これ以上苛めたら泣いちゃうよ、お父さん」
「まあ、俺も子供だし?親のスネは囓りたいから高校だけは妥協してやるよ。だけ、はな」

嘲笑を親に向かって浮かべるなんてあまり良い気分ではないけど仕方がない。
和麻が立ち上がってそっと手を伸ばせば瑛麻も素直に破片を渡してソファに沈む。
少しばかり血が出ているが深いものではない。
腕を組んで深く座れば、額に汗を浮かばせた父が身体を緩めて、黒服達も詰めていた息を吐いた。

全く、仰々しい名前の割には情けない連中だ。
なんて、可哀想だから言わないけど、もう夜明けの光が差し込む豪華な窓を見て深々と溜息を落とす瑛麻だった。





そんなやり取りを経て4月。
咲き誇る桜並木を前に瑛麻は一人深々と溜息を落とす。

「聞いてねえぞ、男子校で、全寮制だなんて。ただのエリート高じゃなかったのかよ・・・」

結局、父の実家に拉致されても瑛麻は瑛麻で、ロクに話も聞かず冷戦状態だった。
とは言え、お小言を漏らすあの瑛麻を嫌う秘書には完勝で、父にも圧倒的な一方試合だったが。

ともかくロクに話もせずに拉致された日から数えて2日後には入学式だと、ついさっき無理矢理車で送られてきたのだ。
和麻は瑛麻が発見された翌日にはあっさりと中等部に出発していて、甘ったれの割には自分に有利な方に動く立派なヤツだ。

「めんどくせえなあ。今から逃げんのもめんどうだし、後で抜け出すかあ」

はーっと溜息を落とした瑛麻はしぶしぶと、重い足を踏み出した。



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