流星群のある間だけの非日常だが誰もが楽しそうで(若干灰色の集団もいるにはいるが)時間があっと言う間に過ぎてしまう。
普段の忙しい日々も大切なものだがこの非日常もまた大切なものだ。
例えそれが、誰よりも長い付き合いである部下兼親友に酒をかけられつつ絡まれていようとも、大切な時間である事には間違いない。
「ほらほら〜。飲みましょうよ翔雅様。どうせ船から出られないんですから飲まなきゃ損ですよ〜」
「出られないのはお前だけだ天丸。雷吾はどうしたんだ雷吾は」
「雷吾ならおっきなお魚をさばいてまあっす。ほらほらほら〜」
夕暮れからはじまった宴は少々様子が違っていた。最初から天丸が酔っぱらって翔雅に絡んでいるのだ。
どうやら下船禁止が気に入らなかったと見えての事らしい。
なぜか絡むのは翔雅だけで、翔愛には普段とおりの優しい笑みを見せてくれる。なのに、翔雅を前にすると絡む。
「お酒、不思議です」
「いえいえ、不思議なのはお酒じゃなくて天丸殿ですよ翔愛様。あ、街で仕入れてきたデザートがあるんです、さ、こちらへ。翔雅様の隣にいると巻き込まれちゃうかもしれませんからね」
翔雅の隣でのんびりと夕食を摘んでいた翔愛が不思議なやりとりを見学していれば、珊瑚に手を引かれて避難する事になった。
街で仕入れたと言うデザートに釣られつつも絡まれる翔雅が心配だ。
「大丈夫ですよ、いざとなったら雷吾殿が回収してくれますから。翔愛様、こちらのクリームは果実水に入れると美味しいですよ」
避難先には星南と子由が一緒にいて、同じテーブルには葉多が苦笑しながら酒を飲んでいる。
星南は雷吾と同じ、城の料理人で白い長髪のとても綺麗な人だ。翔愛とはあまり接点はないものの、顔を見ればなぜか必ず小さな菓子を渡される。いつでも持ち歩いている様だ。
同じテーブルの葉多は親衛隊で子由の部下にあたり、翔愛の警備も担当してくれている。物静かで優しい空気を纏う大きな人だ。
「ありがとうございます、星南さま。美味しそうです・・・あ、お酒の味がします」
「ちょびっとだけクリームにお酒が混じっているのですよ。美味しいでしょう?」
「はい。美味しいです」
果実水の入ったグラスにたっぷりと混ぜられたクリームはほんのり甘い酒の味がする。飲めない訳ではない翔愛だ。にっこりと微笑めば星南も同じ笑みを返して自分のグラスを傾ける。
隣では珊瑚も同じクリームを酒に入れて満面の笑みを浮かべて空を見上げている。
日が暮れて星が出ている空は今夜も美しい。
「もうそろそろですかねー。今日は何をお願いしましょうかね」
残念ながら昨晩は願いの叶わなかった珊瑚だ。じーっと星空を見上げて真剣に悩んでいる。
流星群は3日間、絶えず続いているから今も星は流れている。ただ時間が早いのと宴が楽しいので誰も静かにしないだけだ。
「物欲は駄目だそうですよ。と言うか、特別な夜は昨夜で終わっていると思いますが」
「星南殿は夢がないです。本来の願い事はズルなしで流れ星に願うものなんですからね。あ、新しい水着に・・・」
「だから物欲は叶わないって言ってるじゃないですか。それこそ古来からの決まり事でしょうに」
悩む珊瑚を挟んで星南と子由が笑い、葉多も静かに笑んでいる。
翔愛は願いが叶った、と言うべきだろうか。
願ったのは翔雅の側にいられる事で赤い糸は付属品、と言うか珊瑚曰くズルの証だ。
「僕はどうしましょう・・・願い事」
一番大きな願い事が形に表れてしまったので思いつかない。首を捻れば珊瑚をからかっていた子由が翔愛を見る。
「流れ星に願う事は何でも良いんですよ。例えば健康とか、大きな魚を釣りたいとか、翔愛様は何を望んでいますか?」
「望み・・・」
願うことは翔雅と共にある事。では、望んでいる事は何だろうか。
今は健康であり、幸せな日々だ。もう以前の様な辛く悲しい想いはない。
その以前の生活でも翔愛にとっては思い出の一つであり、悲しみはあるけれど大切なものだ。
日々忙しく努力を重ねる翔愛にとって願望として望むものは直ぐには出てこない。元々何かを願う習慣と言うか常識の様なものが書けている翔愛だ。
望むものと言われて最初に浮かんだものと言えば。
「古代歴史の本なのですが100冊のうち5冊抜けているのです。願えば図書館に増えるでしょうか?その5冊があれば全て読み終えるのですが」
「・・・それは流れ星にではなくて担当大臣にご相談下さい。その方が叶いますよ」
珊瑚とあまり変わらない物欲だった。
とても真剣に考えたのになかなか難しい。
また首を捻れば船の灯りが暗くなった。ある程度、強制的に暗くして願い事をする時間を作っている。これはどの船もそうで、周りにある沢山の船も同時に暗くなった。願い事の時間だ。