星のおくりもの. 16



気持は快晴ではないものの、羽胤の海は今日も快晴だ。

 

朝の騒動から一呼吸おいて。

騒ぎがあろうとも快晴の海に船で出ているのに悩んでいるだけと言うのももったいないからと翔雅と翔愛は2人で海に出た。

翔雅は羽胤国民とあって泳ぎも得意でどこまでも深く潜れる。

しかし翔愛は違う。

泳げる様にはなっているがあまり長い時間は無理で、そもそも日焼けしやすい肌を持っているから海に出るだけでも注意しなければならない。

従って、小舟よりも小さな、空気を混ぜて作られた遊ぶ様ではない皮の浮き輪(主に海上で物資を運搬するのに使用される、浮き輪としては大きめの円盤状のもの)に傘を取り付けて肌を守る薄布を羽織ったまま水着姿の翔雅に運ばれている。

船は近くに見えている距離で、周りにも海で泳いだり小舟を出してくつろいでいる者達が数多く見られる。

 

「海はいつでも気持良いな。昼食は魚と貝を焼くか」

「楽しみです。風が気持ち良いです・・・あ、翔雅さま。あの奥に大きな貝があります」

「なに、では捕ってくるか」

 

透明度の高い海は太陽の光を受け底まで見える。

翔愛が海底を覗き込んで指差せば翔雅が潜って貝を捕り、泳ぐ魚もついでに捕って食料の確保だ。

当然ながら翔雅が離れても繋がれた赤い糸はそのままで本当に不思議だ。

繋がっている感覚は海に潜る翔雅にも、浮き輪で待つ翔愛にも感じられる。

繋がれているのが僅かにくすぐったく、嬉しい気持で赤い糸ごと手を太陽にかざせばじりりと焼ける。

 

「暑いです。僕も、ちょっとだけ」

 

泳げない訳ではない翔愛だから翔雅が潜っている間に自分もと、薄布を纏ったまま海に入ってほっと一息。冷たくて気持ち良い。

浮き輪に掴まってちゃぷちゃぷと遊んでいれば翔雅が上がってきて抱き寄せられる。

 

「ほら、上手そうな貝と、魚も一緒だ。少し泳いでみるか?」

「はい。泳ぎたいです」

「疲れるから少しだけだな。今夜も流星群だからな。と言うか人の目には見えないが今も星は流れているそうだぞ」

「今も、ですか?」

 

信じられない話だ。

この晴天を星が流れているなんて。

見えない流星を眺めようとすれば太陽に焼かれて眩しくなるだけで、翔雅が笑って抱き寄せながら翔愛の視界を遮った。

 

「だから見えないと言っただろうに。それから、願い事は星空と決まっているから昼の空に願っても駄目だぞ」

「そうなのですね。では今夜、またお願いします」

「そうだな。あと2日もあるのだから願いたい放題だ」

くすりと笑って貝と魚を入れた網を浮き輪に置いた翔雅がゆっくりと泳ぐ。

立ち泳ぎを変化させたもので、両手を伸ばして翔愛が捕まる。

そのままゆっくりと移動しながら遊んで、疲れればぷかりと浮かんで休憩し。

 

「腹が減ったな。そろそろ昼時か」

「お昼ご飯は船ですか?」

「そうだな。一度戻って休憩するか」

 

ぷかぷかと浮かぶ翔雅の腹に翔愛が乗りかかって、微かに腹の鳴く音が聞こえて笑う。

 

「お腹の音がしました」

「ずっと動いていたからな。どれ、戻るぞ」

「はい」

 

船は見える位置にあるが近い距離ではない。

泳いで行くにも翔愛では無理な距離だからと一度浮き輪に乗って翔雅が運ぶ。

流石、としか言い様のない泳ぎっぷりに翔愛が見惚れていればぐんぐんと浮き輪は進んで船に戻る。

大きな船は上がるにも一苦労だと思われがちだが、海で遊ぶ者が多い為にある装置を備え付けている。

船にぴたりと浮き輪を付けて翔雅が合図をすれば何本かのロープが下りてきて、手際よく規定の位置にくくりつける。

 

「よし、翔愛、手を貸してくれ」

 

ロープを結び終えた翔雅が翔愛の手を取って浮き輪に乗って、また合図を送れば勢いよく浮き輪が船の上に引っ張られる。

空を飛ぶ感覚で、翔愛は慣れずに翔雅にしがみつき甲板に下ろされれてようやくほっとできる。

甲板にはロープを持った男達が笑顔で迎えてくれて丁度昼時だからだろうか、反対側からも合図の音がして男達が気合いの声と共にロープを思いきり引いて小舟が甲板と同じ高さに釣り上げられ、海で遊んでいた者が下りてくる。

 

装置、と言っても人力なのだが便利ではあるし訓練にもなっているとの事だ。

 

人力の船に上がる装置は側で見ていれば圧巻の一言だ。

何本ものロープをマストに渡し、暇な者達が合図を聞いていそいそとマストに登る。後は人の体重でもって数人がロープを身体に巻き付けて飛び降りる。海から上がる者も船で人力になる者も楽しそうだ。

 

「残念だが翔愛では体重が足りないから珊瑚と一緒に貝を焼くのを手伝ってくれ」

「はい。ちょっと残念ですがお手伝いしてきます」

 

この人力になる者には一応の体重制限があって、もちろん重い者が重宝される。

逆に翔愛や珊瑚の様な軽い者は駄目だ。

翔雅もいそいそと昼食ができるまで人力になりに行ってしまったので翔愛は言われた通り、甲板で昼食の準備をする集団に加わる。

広い甲板だから竈を作っても船に支障はなく、海で捕った魚介類が思うままに調理されている。

 

「翔愛様も調理組ですね。あれ、楽しそうですよね」

「楽しそうですけど、僕は軽くてお役になてなさそうです」

「私もですから一緒に貝を焼きましょう。魚も沢山で豪華な昼食ですね」

「美味しそうです」

珊瑚の隣で貝を焼き石の上に乗せればふわりと良い匂いがして薄っぺらい腹がなりそうだ。

周りを見れば調理に加わっているのは翔愛や珊瑚程ではないが明らかに人力組とは違い細い者達ばかりだ。

羽胤国民であれば誰でも海産物の調理は手慣れたもので次々に料理が完成していく。

翔愛に調理はできないが焼き石に乗せるくらいならできる。

後は果物を盛りつけたり茶を用意したり。

それなりに忙しく働けば昼食を船で取る全員が乗船し終えてまた宴となった。



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