天丸を先頭にして甲板に出た2人を待っていたのはまだ宴の雰囲気を残す集団と、困惑している集団と、その中心でなぜか顔色を悪くしているリュティカだった。
宴の雰囲気を残す集団とは要するに朝から酒盛りをしていると言う事で、大変賑やかで楽しそうだからこれは良い。問題は困惑の方だ。
翔雅と翔愛も困惑の方だからとリュティカを中心とした集団に近づけば周りが一歩引いて、顔色の悪いリュティカがなぜか甲板に寝台を運び込んで横になっているのが分かる。
「おはよー、翔雅、翔愛。二日酔いは辛いよねえ、頭痛い・・・」
どうやら二日酔いの様だが困惑はそれだけではない様だ。
周りを囲むのは流星群を見物に来ている城の者達で誰もがリュティカを見ては顰め面だったり溜め息を落としていたりで少々穏やかではない。
「何事だ?」
宴会をしている連中は楽しそうなのに、ここの空気は例えるなら灰色。晴天の青空の下、羽胤国民が何より愛する海の上だと言うのに灰色だなんて何事だと翔雅が問えばリュティカが口元を押さえながら起き上がる。
「ごめんねえ。あのね、その赤い糸はわたしの仕業らしいんだよ。他にもいろいろ。要約すれば流れ星に願った事が何となーく叶って困ってる人達に囲まれちゃってるって訳なんだけど」
「・・・は?」
「だからあ。あのね、怒んないでね?城の封印庫に預ける予定だった『星の石』なんだけど、ほら、やっぱり心配だし肌身離さず持ってた方が良いかなーって、持ち込んじゃった。で、流星群見てお願い事したでしょ。それに『星の石』の魔力が反応した上にわたしも酔っぱらって良い気分で、その・・・ちょっと、魔法をね。かけちゃったみたいでね、ええと、流星群が終われば効果はなくなるし、良くないお願いはそもそも流れ星には叶わない事になってるから叶ってるのは赤い糸で結ばれたい!とか、あの人の側に行きたいとか、美味しいご飯が食べたいとか、可愛らしいのだけだし・・・怒んないでよ!ごめんってばあ!」
言いにくそうに説明するリュティカを見る翔雅の顔が進むにつれ険しくなる。
翔愛には分からない説明だが、周りの者達も説明は聞いている様で灰色の空気が黒く染まる。
説明を終えてまた寝台に横になるリュティカに翔雅の黒い笑みが光った。
「リュティカ、二日酔いには海が一番だ。誰か、この阿呆を海に放り込め!そのまま沈めてしまえ!」
「えー!怒んないでねって言ったのに!ああ、怒鳴ったら頭が・・・」
翔雅の声で一斉に困惑の集団が雄叫びをあげてリュティカを寝台ごと運んでいってしまった。本当に海に落とすのだろうかと翔愛だけが慌てるが、寝台ごと運ばれたリュティカはそのまま、寝台ごと海に投げられてしまった。
一緒に海に飛び込む者達もいるから大丈夫だとは思うのだが、確か偉くて客人ではなかったのだろうか。
それに、先程の説明で理解できないのは翔愛一人。大きな溜め息を落として額に手をあてる翔雅の手を引っ張って、視線を翔愛に向ける。
「あの、翔雅さま。僕には難しい説明で良く分かりませんでした」
大きな瞳がじっと翔雅を見上げて困惑している。
翔愛の知識は未だ絶対的に足りていなく、常識であろう事も抜け落ちている事が多いから当然だと翔雅も気を取り直して翔愛の髪を撫でた。
「ああ。悪かったな。朝食と共に説明しようか。天丸、悪が頼んで・・・どこに行ったんだ?」
「天丸さまならとても嬉しそうに船室に向かいましたが」
2人を誘導してきた天丸が騒ぎの中で翔愛から見てとても嬉しそうな、まさに踊り出しそうな程に全身で嬉しそうにしながら船室に消えていった。
「そうか、天丸の願いは何だったんだろうな。いや、それは後だ」
ひょっとしたら天丸の願いも何か叶っていて、嬉しい事だったのだろうかとも思うが宴会に加わる中に珊瑚を見つけたので翔雅が呼ぶ。
「珊瑚!悪いが朝食を持ってきてくれるか?後説明の補足を頼む」
「もちろん良いですよ。朝はたっぷり食べなくては身体に毒ですからね」
この船にいる間は誰もが休みだから珊瑚も水着姿で腰に薄布を巻いただけの姿だ。
日に焼けた彼女は笑顔で了承して朝食の準備をはじめる。
周りで酒を飲んでいる者達もわらわらと集まってなぜか一緒に朝食の準備をしてくれて賑やかだ。