星降る庭で・番外編/城下町にて...02





結局、外に出るには着替えなければいけないからとご飯の後にもう一度着替える事になった。

長い髪は一つに纏めてゆるい三つ編みにしてもらって。
銀の飾りはそのままつけて、服もそのままじゃ動きづらいだろうからと新しい服になった。
いつものふわふわの衣装では無くて、少し固くて深い海の色だ。

普段の様に頭からすっぽり一枚で被る服では無くて上下に分かれていて、上は袖が長くて裾が広く、下も足首までゆったりとしているズボンだ。今までズボンなんて履いたことの無い翔愛はそれだけで興味津々で、履き慣れないその形と着心地よりも何時も翔雅や天丸が着ている物と一緒だと言う事に少し嬉しくなってくる。その上から同じ色の薄布をくるくると巻いて、それだけがいつもと同じ。でもいつもと違う衣装で何だかうきうきしてきて。思わずその場でくるくると回れば翔雅の笑う声が聞こえた。振り向けばソファに居る翔雅も着替え終えていて翔愛を手招きしている。

「翔愛、それで終わりじゃない」
「日焼け止めを塗ってサンダルを履きましょうね。こちらへ、翔愛様」

呼ばれるままにソファまでぺたぺたと近寄れば正面に座れと促されるから、そのまま絨毯の上にぺたりと座った。
見上げるかたちになった翔雅も着替えた様で、いつもの衣装では無く、薄い灰色の衣装だ。
普段は金色の、肩くらいに伸ばしている綺麗な髪をそのままにしている翔雅だけれども、今はきっちり一つに結んで、青い色の小さな飾りを垂らした前髪に付けている。金色に海の色がとても似合うから、ただ純粋に綺麗です、と呟けば何故か頬の辺りを赤くした翔雅が苦笑して翔愛の頭を撫でてくれた。
それから、床に跪いた天丸に日焼け止めの軟膏を少しだけ出ている手やら足やら顔に塗ってもらって、白いサンダルを履かせてもらう。暖かい羽胤国ではサンダルが一般的な履き物で、翔愛のサンダルは華奢な造りだけれども、革紐でしっかりと結ぶから結構丈夫なのだ。

「ほら、頭からしっかり被れ。じゃないとまた日に焼けるぞ」

衣装と同じ色の薄布を頭からすっぽりと被せられる。以前外に出る時に被ったものと同じだ。
これも翔愛の日焼け止めなのだろう。言われた通りにしっかりと被れば翔雅が微笑みながらもう一度頭を撫でてくれて、その手が翔愛の手を取って一緒に立ち上がった。

「後は頼むぞ、天丸」
「はいはい。ごゆっくり。お土産忘れちゃ嫌ですよ、翔雅様」

ひらひらと微笑みながら手を振ってくれる天丸に手を振り返せばもう片方の手を翔雅にくいと引かれて一緒に歩く。とは言っても一歩王の私部屋を出れば翔愛は翔雅に抱えられてしまうのだ。
王の私部屋から城内までは細く長い迷路になっていて、その道のりが結構長い。ゆっくりと時間をかけて歩くのなら良いのだけれども、何か用事のある時には抱えられて運ばれてしまうのだ。
そのうち、自分一人でさくさく歩ける事が今のところの翔愛の目標だったりもする。でも、冷たい石の造りの廊下は長く長く、くねくねとしていて、翔愛には全く道順が覚えられないし、機密事項であるこの迷路の正解は極限られた人しか知らない。道順を覚えるのは大変そうだけれども、そのうち絶対、一人で自由に歩ける様になりたいのだ。
だって、何時も誰かに迷惑をかけてしまうから。翔雅の役に立ちたいと思うのに一人で歩けないのではお話にならない。だから翔愛は頑張る。今も翔雅に抱えられながら細い指を一本二本と折って道順を覚えようとしている。そんな翔愛の密かな頑張りが微笑ましいと翔雅は柔らかく微笑む。

「城下町は賑やかだからな。絶対に、俺の側から離れるなよ」
「わかりました」

ちょっぴり気合いを入れてこくこくと頷く。少しだけ以前より重くなった翔愛だが相変わらず翔雅には軽いらしい。歩く速度も速いから海から流れてくる風がふわふわと翔愛の髪を揺らす。

「まあこうして行っても良いんだが、流石にそれじゃあつまらないだろうからな」
「頑張って、あるきます」

もう以前の様に痛みは無い。
城に入れば皆手を振ってくれて見送ってくれる。抱えられたままおずおずと手を振り返せば何故か皆に微笑まれた。そのまま城を出た所で翔雅から下ろしてもらって翔愛は今日も青々と広がる空を見上げて目を細める。

良い天気だ。
空は青く風は気持ち良く、何処からかふわりと花の香りが鼻をくすぐる。そんな天気だ。
丁度良く暖かくて気持ちもはずむ。翔愛の足に合わせてくれる翔雅の歩みもゆっくりで、のんびりと手を繋ぎながら道を進む。
城から城下町までは一本道で、少し高い位置にある城からの緩やかな下り坂だ。
距離はさほどでも無く、広い真っ直ぐな道のあちこちに大きな家が建っている。この場所はお城に勤める偉い人が住む地域だと教わっていて、椛の家もこのどこかにあって、天丸は城の中で、倫斗と珊瑚は城下町に住んでいると教わった。

翔雅に手を引かれてゆっくりと歩く。この通りはいつも静かなのだそうだ。
確かに人通りは無く静かで、けれど通りの向こうからの喧噪が届いて音が無い訳では無い。
この通りを抜ければ城下町だ。真っ直ぐな道の先に城下町に入る入り口が見える。入り口は大きなアーチになっている。そのアーチにはたくさんの花が咲き誇ってとても綺麗だ。アーチだから閉じる事は無く、そのまま城下町の大通りが見える。
近づくにつれ人の多さと賑やかさがじわじわと感じられてきて知らず翔愛の手が翔雅の手をぎゅ、と握りしめる。そんな翔愛を見下ろした翔雅はくすりと笑うと翔愛の手を強く握り返してくれた。






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