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星降る庭で...76(完結) |
| 完全に日が落ちて、夜空に星が舞う。 手を引かれて長い長い道を翔雅と二人で歩く。 音はなく、深紅の絨毯が星降る庭まで敷かれていて、けれど、その上を歩くのは翔雅と翔愛だけ。 他には誰も居ないし、姿や気配すらも無い。 とても静かだ。 日の光が無いから壁には沢山の灯りがつけられて、幻想的な色を醸し出している。いや、色だけでは無い。雰囲気も普段の、人の気配を感じさせるものでは無く、無人で、けれど酷く澄んだ神聖な空気だ。 翔雅と繋がれた手がほかほかと温かい。婚儀と言うものを今体感しているけれど、どんなものか分からない。けれど緊張する事は無い。翔雅が側に居る。ただそれだけで心も身体も温かく感じる。 どれくらい二人だけで歩いただろう。城の出口が近づいた時、翔雅の足が止まった。 「これから星降る庭へ向かう。何も心配する事は無い。誓いの言葉は決まったか?」 「はい、きまりました。翔雅さまも、きまりましたか?」 「もちろんだ」 誓いの言葉は星降る庭で宣言する、互いに誓い合う言葉。 決まった形式は無く、自らの言葉を宣言するそれは過去に何度も有名な言葉を生み出していると聞いた。翔雅も翔愛も、それぞれ想う気持ちを言葉にする。それはもうすぐだ。 「行こう。暗いから足下には気をつけろ」 「だいじょうぶ、です」 繋がれた手が引かれる。ゆっくりと、足を進める先は優しい夜の暗闇。灯りが灯され、何処からか人の気配がざわめく、婚儀の空気。 翔雅の手がぎゅ、と翔愛の手を握った。その力強さに翔愛は自然と浮かぶ笑みのまま、同じだけ、翔雅の手を握り返した。 静かに、静かに、足を進めて星降る庭へ足を踏み入れる。 昼間見た光景とはまるで違う中庭は、確かに星降る庭と言われるにふさわしい場所に変貌していた。 城側にある高台の上にはさらに石で造られた、人の腰程の高さの台があり、その上には何も無い様に見える。それから、星降る庭は松明で柔らかく照らされて、その松明の側に何人もの人が居る。それは闇に紛れて沢山の様にも見えるし、少ない様にも見える。 一歩一歩、ゆっくりと足を進める。 松明と松明の間を進み、場の雰囲気が柔らかく翔雅と翔愛を包み込み、酷く暖かい気持ちで少しだけ翔雅を見上げれば、翔雅も翔愛を見下ろして森の瞳を柔らかく細めた。 進む先は誓いを立てる高台。向かうのは石で作られた台の向こう。誓いは海を見て星を見て行う。 静かに、静かに進み立ち止まる。 二人で海を見て、夜空を見る。 全てを見渡せる星降る庭は、星が手に届きそうでとても近い。松明の明かりは星空の邪魔にはならなく、海の音と星の輝きが星降る庭を暖かく見守ってくれているかの様だ。 「星に誓う。我が愛する者を翔愛ただ一人とし、生と死が分かつまで、愛を誓う。意を誓う。この星降る庭で全ての星に誓う。海に誓う。我が思いを誓う」 呪文の様な、けれど明瞭で静かな翔雅の声が星降る庭に響き渡る。 「誓います。星と海に。星降る庭で、僕の全てを翔雅さまに。僕は翔雅さまと共にある事を、誓います」 続いて、翔愛の声が響く。考えるより先に言葉は生まれて、この誓いまで一度の練習も無く、翔雅は何を言っても良いのだと言ってくれたから、その言葉に甘えた。 翔雅の言葉よりはずっとずっと、つたない言葉で、愛を誓う言葉では無いけれど、これが今の翔愛に誓える精一杯の事だ。 それでも翔雅は翔愛と繋いでいた手をぎゅっと握って、嬉しそうに小さな声でありがとう、と呟いてくれた。お礼を言いたいのは翔愛の方だけれども、言うより早く婚儀は進行してしまう。 台の上には何も無い様に見えたけれど、闇に紛れて小さな箱があったのだ。 「これは婚儀をしたと言う証になるものだ。右手を出して」 小さな囁きに従って手を出す。すると、親指に綺麗な青い色の輪っかが通された。 「俺にも同じ事を」 また囁かれて翔愛の手に青い色の輪っかが落とされるから、同じ様に翔雅の右手の親指に輪っかを通す。少し震えてしまったけれど、輪っかはすんなりと翔雅の指に填ってくれた。 胸がどきどきと鳴る。翔雅の指に填めた輪っかと翔愛の指にある輪っかが同じもので、今、確かに繋がれたのだ。 視線が自然と上を向き、翔雅と見つめ合う。微笑みが浮かんで、どうしようもなく嬉しくなる。翔雅も嬉しそうに微笑んで翔愛の頬を軽く撫でてくれた。そうして、前を向いて高らかに声をあげる。 「証を持って婚儀と成す。皆、この場に有る事に礼を言う。これで婚儀は終わりだ!ありがとう!」 言い切って、星降る庭に歓声があがる。沢山の声がおめでとう、と庭に響いて反響する。その声は星まで届きそうで大きな渦になり星降る庭を響かせる。あまりの歓声に翔愛は身体を震わせて驚いてしまったけれど、翔雅の手が翔愛を抱き寄せてくれて、また微笑み合う。すると、沢山の歓声の中から良く知った声が一層大きく響いた。 「キスも無しに終了だなんて、あまりにあっさりし過ぎです!」 天丸の声だ。怒鳴る様に大きな声は庭に広がり、その場を一瞬にして沈めた後、すぐにまた大きな歓声が出る。 「そうだそうだ!一発かましたれ!」 椛の声だ。天丸よりも大きな声で、周りも賛同してさらに歓声が大きくなっていく。そのうちどうしようもなく声は広がって止まらなくなっていく。翔雅は顰めっ面をして天丸と椛の居る方を睨み、けれど何処か嬉しそうに暗闇でもうっすらと分かる程に顔を染めた。 「翔雅さま・・・」 騒ぎの大きさに翔愛は驚きっぱなしで少し怖くなってしまう。賑やかな声は広がる一方で全く収まる様子が無いのだ。 「全く。煩い奴等ばかりだ」 翔愛を抱きしめながら翔雅は苦く笑って、翔愛を抱き寄せながら顔を近づけてくる。 口付けされる距離になって、自然と瞳を閉じると騒ぎがぴたりと収まった。けれど翔愛にはもう騒ぎは聞こえない。全てが翔雅ただ一人になって、柔らかく落ちた唇だけが全てになる。 それは唇と唇が軽く触れあうだけの優しい口付けだったけれど、翔愛には十分だ。翔雅の温もりがじわりと唇から広がって離れてしまうのが寂しいと思える程に翔雅の温度は翔愛を離さない。 「愛している。翔愛を、愛している・・・とても、愛おしく思う」 掠れた翔雅の声が聞こえたと同時に瞳を開ければ闇の色を映し込んだ森の瞳が翔愛を捕まえる。震える唇で翔愛の声も自然に零れ出た。 「僕も、すき、です・・・翔雅さまが、とても、好きです」 小さな小さな声は二人だけに届いて身体の奥からもじわじわと暖かく、熱くなっていく。 触れあう距離が心地よく、このまま一つになれたら嬉しいのに、と思った瞬間、なお一層、大きを増した歓声が二人を包み込んで、間違いなく星降る庭を震わせた。 end 感動等はメールフォームか↓へお願いしますですー。。 こんなにも長い話を読んでくださってありがとうございました! 連載開始から早二年弱・・・もうちょっとで二年にかかるところでした(汗) 基本的に最初と最後だけを決めて連載を初めてしまうので途中ううーと悩みつつも皆様の言葉に励まされ、頑張れました。ありがとうございました! とは言え。まだ全部が終わった訳では無く。 この後すぐ新婚旅行編と言う名の(ちゃんとした)初夜編へと続くのです(笑) でもって、番外編も書きたくてしょうがないのでまだまだ終わる気配はありません。 本編の中で書けなかったちょっと巫山戯た感じの番外編、ネタは山の様にあったりで、まだまだ・・・終わらないのです。 もう少し、気の向いた時にでもお付き合い頂ければ嬉しい限りです(*^_^*) 順序としては、短編の番外編をいくつか。その後新婚旅行編を書きたいと思ってます。 ひとまずは本編終了。本当にありがとうございました! >>追記。2007.01。全話分、誤字脱字訂正しましたー。これでちょっとは良くなっているはず・・・です(汗) |
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