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星降る庭で...38 |
| 散々泣きじゃくった翔愛はそれでも初めての外と海に思いの外元気に遊んだ。 それは泣きじゃくった事で何かが吹っ切れたのかも知れない。 翔雅の言葉に何かが目覚めたのかもしれない。 羽胤に来てから初めて声を上げて笑った。翔雅も付き合ってくれて、天丸や椛も笑いながら翔愛と共に砂場で遊んでくれた。初めての海はやはり怖くて中に入るまではいかなかったけれど、足の先っちょだけを水につける事は出来た。 初めて触れる海と言う水は舐めるととてもしょっぱくて、そのしょっぱさに笑った。 そんな翔愛の、年齢よりも酷く幼い仕草に翔雅が苦笑する。遊びながらすっかりショールがずれてしまっているからと、手を伸ばして小さい頭に被せなおしてやると翔愛が翔雅を見上げて微笑んだ。 「ありがとうございます」 心から嬉しそうな微笑み。 こんな微笑みを見るのは初めてで、そのあまりに無垢な微笑みに流石の翔雅も目を見張る。 「・・・日焼けするからな、しっかり被っておけ」 「はいっ」 素直で明るい返答まで返ってきてしまって驚いた。けれど、これが本来の翔愛の姿なのかもしれない。 今までがあまりに抑圧されすぎたのだろう。あるいは全ての感情に蓋をしていたのかもしれない。そう思える程の過去だったのだ。 長い衣もショールもものともせずに元気に波打ち際で遊ぶ翔愛を眺めながら翔雅はひっそりと笑みを浮かべた。朝日がきらきらと海を照らしていて、その光に照らされた翔愛は酷く美しく見える。元から体力が無いから仕方がないのだろうが、少し動いただけでも息を切らせながら、それでも元気にはしゃいでいる。 「可愛いですね」 そんな姿に天丸も何か感じたのだろう。何時の間にか翔雅の隣に立って笑っている。翔雅も今の翔愛に暗い感情を抱く事は無く、むしろ素直に可愛いとさえ思えた。 「そうだな」 だから天丸に返した返答も素直な感想で、自分から言ったのに天丸が少し目を見開いた。そんな天丸を見て翔雅が呆れる。 「お前も同じ事を思ったんだろうが」 「ま、まあそうですが・・・翔雅様から素直にそんな言葉を聞くとは思ってもみませんでしたよ」 「お前なあ・・・俺を何だと思ってるんだ」 いくら何でもあの翔愛を見て悪態を吐く気は無い。呆れて天丸の頭を軽く小突くとまた視線を翔愛に合わせた。 今は椛が一人で相手をしていて、打ち上げられている貝を拾って翔愛に渡している。この海に流れ着く貝は特産品になる綺麗な形の物が多い。 青みがかった貝を受け取った翔愛は驚いた顔をして、それから綺麗に微笑んだ。頬を染めて嬉しそうに貝を両手で持つ。その姿に翔雅はゆっくりと翔愛の方に歩き出した。翔雅が近づいてくるのを見て翔愛も翔雅の方に来る。急ぎ足で、既にサンダルを脱いでいるから裸足でぱたぱたと駆け寄ってくる。 「翔雅さま、椛さまに」 嬉しそうに言いかけて、足を躓かせる。慣れない砂浜だ、案外足を取られやすく、慌てて翔雅が手を伸ばせば軽い衝撃が腕に寄りかかる。 びっくりして硬直している翔愛が真っ直ぐに翔雅を見上げている。同じ色の瞳が驚きでいっぱいいっぱいに広がって、そんな瞳に浮かぶ自分の姿を見ながら翔雅は思わず吹き出してしまった。 「砂浜では足を取られやすい。気を付けろ」 「ご、ごめんなさい」 翔雅の声で我に返った翔愛が恥ずかしそうに目尻を染めた。けれど視線は逸らさずに翔雅を見つめてくる。何時でもこの子供は相手をじっと見つめてくる。まるで瞳で会話をするかの様に見つめてくるのだ。同じ色の深い深い森の色。それが重なった時の色合いが一番好きだった。ふいに思い出した過去の記憶に、けれど翔雅は微笑んだ。 「これから気を付ければ良い。貝はどうした?」 「あ、これ、です。椛さまにもらいました。青くて綺麗です」 何処かたどたどしい言葉で両手に持っていた貝を翔雅に差し出した。小さな手には大きい貝は羽胤特有の貝で良く見るものだ。嬉しそうな顔をしている翔愛はまだ翔雅の腕の中で、翔雅もそれを不自然には思わなかった。 「この辺りに良くある貝だな。他にもいろいろあるぞ」 「他にもあるのですか?」 「ああ、薄紅色の貝もあるし、白い貝もある。瑠璃色の貝もあったな」 自然と顔と顔との距離が縮まり貝を眺めながら翔雅も見つめてくる翔愛に、翔雅は微笑みながら説明をしてやる。こうしていると本当に素直だと分かる。いや、育った環境を考えれば無垢と言った方が良いのだろう。あまりにも染める物が無かったから此処まで無垢なのかもしれないと、日に当たって赤くなった顔をしながら熱心に貝を弄る翔愛を見る。すると翔雅の視線を感じるのか、翔愛も翔雅を見つめてくる。あまりにも真っ直ぐな視線に自然と、また距離が近づいた。 「たくさんの貝があるのですね。初めて見るのでとても綺麗です」 「それは食っても旨い貝だ。他にもいろいろあるから椛にでも後で取らせるか」 「貝を食べるんですか?でも、固いですよね」 「その殻を食うんじゃない。中身を食うんだ」 「なかみ、ですか?」 小さな翔愛の為に背を屈めて小さな手の中にある貝を撫でる。翔愛も熱心に翔雅の説明を聞き、やはり嬉しそうに翔雅を見上げる。 何処までも真っ直ぐで素直で無垢。色に例えるなら真っ白な存在なのかもしれないと、近すぎる距離を不思議に思わず、翔雅は引き寄せられる様に翔愛の頬に触れた。 「翔雅、さま?」 真っ白い頬は今は赤く染まって少しだけ熱を持っている。日に焼けたのかと思いながらも何の考えもなく、さらに距離を近づけた。 翔雅の行動に驚きながらも抗うそぶりを見せない翔愛は少しの驚きで大きな瞳をぱちりとしている。 その瞳に、惹かれたのかもしれない。 「綺麗だな」 始めて、翔愛の瞳を綺麗だと思った。 同じ色が同じ色で交わる時。何よりも愛した瞬間。それを思い出しながらも、翔愛の色だとはっきり意識しながら、気が付けば顔を近づけて、驚きで少しだけ開かれていた唇に、唇を重ねていた。 |
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