星降る庭で...27



今日のデザートは冷えたゼリーの上にフルーツを刻んだ物が乗っている色鮮やかなものだ。ぷるぷると震える半透明の青色。眺めるだけでも楽しいし、手に持つ器もひんやりと冷たくて火照った身体に気持ちよい。思わず小さな器を頬に押し当てれば隣から大きな手に小さな器を取り上げられた。

「冷えすぎるからよせ。つか、暖まったら溶けるからさっさと食っちまえ」
「あ・・・」

見上げれば隣に座る翔雅が苦笑しながら翔愛の持っていた器を摘んでいた。翔雅の手は大きいから翔愛みたいに器を持つんじゃなくて、摘んでいる様に見えてしまう。

「ほら、足りないなら俺のもやる」

大きな人だな、なんて見とれているうちに翔愛の手に返って来た器は2つに増えていて。

「翔雅、さま?」

両手に乗せられた小さな器を見て、また翔雅を見上げてしまう。

「俺は甘い物はあまり食わん。お前にやる」

翔愛にやると言われたのは翔雅の分のデザート。手の平に載せられた小さな器が2つ。その重みが嬉しい。

「あ、ありがとうございます」

翔愛に気を遣ってくれたのだろう。何て事の無い事だけれども、翔雅と話す時間はとても少ないからこうして翔雅の優しさを見せて貰えるたびに、感じるたびに嬉しくなってしまう。翔雅を見上げたままはにかんで例を言えばどういたしましてと言わんばかりに大きな手が翔愛の頭を軽く撫でた。

「仲良しさんですね」
「だな」

そんな2人のやりとりを正面から見ていた天丸と椛が顔を見合わせて笑う。

「煩せぇよ。つーかどうして椛が居るんだよ」

それはあまり質の良くない笑みで、くすくすと笑い会う天丸と椛を睨み付けた翔雅は食後の茶を飲みながら2人を睨み付けるがあまり意味は無い様だ。しかも天丸だけなら話は分かるがどうして椛までと顰めっ面をする翔雅に椛は勝ち誇った笑みを見せながら自らも食後の茶を口に含んだ。

「俺はこの後お姫さんに日焼け止めを塗ってやらなきゃいかんからな」
「日焼け止め?」

何だそれはと思わずまだデザートを一生懸命口に運んでいる翔愛を見れば、成るほど、白い頬がほんのりと赤くなっている。

「ずーっと窓にへばりついて外見てるんだ。日にも焼けるさ」
「・・・外を見ているのか?」

そう言えばいつこの部屋に戻っても窓際にクッションを置いて外を見る翔愛の姿があったなと感心する。
外へ出たいのだろうか?あまり考えた事も無かった思いに翔愛を見れば小さなスプーンを持ったまま、何処か恥ずかしそうに翔愛は俯いた。

「は、はい」
「ふうん。だったら窓からじゃなくてテラスに出たらどうだ?」
「・・・え?」
「外だよ、外。テラスだったら出ても構わんし風も気持ちよいだろう」

何気ない台詞だった。翔雅にとっては。
しかし翔愛にとってはとても重大な事だ。だって、翔愛は生まれて一度も自らの意志で外へ出た事は無いのだから。だから自ら窓を開けて外に出ようなんて思った事もなかった。それなのに翔雅はいとも簡単に外へ出たらどうだと言ってくれる。

「あ、あの・・」
「何だ?」
「僕は、外に出た事が無くて・・・」
「かといっても毎日部屋に籠もってたら腐っちまうだろうが。そうだな、食後の茶はテラスで飲むか。天丸」
「了解です。冷たいお茶を入れ直しますね」
「そうしてくれ」

戸惑っている間に話は決まってしまった様子で、天丸が席を立って部屋を出てしまうし、椛はにやにやしながら翔愛のまだ手を付けていないデザートもテラスのテーブルに運ぼうなんて言っている。
しかし翔愛はそう簡単に頷けないし喜べない。
だって、外なんて、出た事ないのに。

「・・・翔雅さま」
「何だ?ほら、さっさと行くぞ。天丸の足は速いからな」

足も速いが支度も早いぞと言って笑っているのは椛だ。
翔愛だけがついていけない状況で2人はさっさと立ち上がって窓を開けてしまう。そうしてそのままテラスへと出てしまった。
開け放たれた窓からは潮風が入ってくる。潮の香りだと教えて貰った。不思議な匂いに冷たい風。何も隔てる物の無い、外へ道。開け放たれた外への道。

「翔愛?」

何時まで経ってもソファに沈んだまま、外に出ようとしない翔愛に焦れたのだろう。
テラスから身を乗り出していた翔雅が戻ってきてしまう。

「どうした?」

小さな翔愛を覗き込む様にかがんで視線を合わせてくる翔雅に翔愛は答えられない。
だって、外に行けるのだ。今までどんなに焦がれても一歩も出る事が出来なかった外へ。何の障害も無く、外へ行けるのだ。

「しゅうが、さま・・・」

それは、恐怖にも似た高揚感。
どくどくと心が跳ねてどうしても足を踏み出せない。
行きたいのに、自ら行けない。外へ出た事のない翔愛には最初の一歩がとても怖くて、進めない。

「何だ、変な奴だな」

そんな翔愛に翔雅は何を思ったのか、珍しくもくすりと笑うと固まっている翔愛に手を伸ばして抱き上げてしまった。

「きゃっ」

思わず上げる悲鳴に翔雅が今度こそ珍しくからからと笑って翔愛をしっかりと支えてくれた。

「落としゃしねぇよ。ほら、アレが羽胤の海だ」

すたすたと翔愛を抱えているのに淀みない足取りで翔雅はテラスの端、柵の上に翔愛を抱き上げたまま軽く腰掛けた。

「う、み・・・」

それは窓から眺める景色とは比べ物にならない程の広さ。
視界一杯に広がるのは何処までも青い、青い海。

「そうだ。海だ。見える領域は全て羽胤の海だ」

何処か誇らしげに笑う翔雅は呆然とする翔愛を見ながら優しい微笑みを浮かべた。





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