星降る庭で...25



始めてまともに声をかけられた。それは優しい言葉では無いけれど、何故か胸がどきどきとしてしまう。翔雅に頭を抑えられて慌ててスプーンを取ったのは良いけれど、どうしてだか緊張してしまう。それは翔雅が翔愛をじっと見ているから。何かしたのだろうか?不思議に思って翔雅を見上げると翔雅も真っ直ぐに翔愛を見つめてくる。

「どうした?」

小さく首を傾げる仕草。けれど真っ直ぐに見てくれる。今の翔愛と同じ色のふわふわの金色と深い森の色。切れ長の瞳に翔愛の顔が映っている。

「何だ、俺なんか見てねぇで早く食っちまえ。ぬるくなったらマズイだろうが」

それは翔愛が手に持つデザートを指しているのだけれども、温くなったら不味いなんて知らない翔愛だ。翔雅の言葉にただ首を傾げるだけで、それでもじっと翔雅を見上げる大きな瞳は不思議と翔雅にとって嫌な物では無い。まるで赤ん坊みたいだ。思わずそう思ってしまって苦笑してしまう。

「いいから食っちまえ。俺も食う」

始めて翔愛に向けられた柔らかい翔雅の表情。それは苦笑だけれどもあの怖い表情では無い。

「はい」

小さな返事を返した翔愛は小さなスプーンをまたせっせと小さな口に運ぶ。そんな仕草も子供の様で、何の感情も挟まずに見れば微笑ましいく、可愛いと思える。

何だかなぁ。
妙に気が抜けてしまった翔雅は行儀悪くソファの背に深々と背中を押しつけて身体の力を抜いた。
何をこんな子供相手に苛ついていたのか。
まだ翔愛を巡る状況は分からない事ばかりだが、不思議と初めに感じた苛立ちは感じない。
すぐ側に居ると言うのに今の翔雅が感じるのはただ子供が居る、と言う事と、ほんの少しのくすぐったさだけだ。

ちらりと横目で翔愛を見ればまだスプーンをせっせと動かしている。量は多くないデザートなのに一度に口に入れる量が少ないからなのだろう。一心に食べ続ける姿に今までの己を思い浮かべて・・・少しだけ自己嫌悪に浸ってしまった。
後悔するつもりは無い。謝るつもりも無い。コレを花嫁にするつもりもない。
けれど、ほんの少しくらいは優しくしてやってもいいんじゃないか。
あまりにも子供にしか見えない翔愛に初めて翔雅の心に憎しみ以外の何かが沸いた。

そんな翔雅と翔愛を正面から眺める天丸も少々複雑だ。
あれ程までに翔愛を嫌っていた翔雅が初めて優しいと思える仕草を見せたからだ。
しかし元々翔雅は決して人当たりが悪い訳では無い。(口と態度は悪いが)むしろ賢王として名を知られる立派な王だ。そうでなければ羽胤の王は勤まらない。

下位の者に対する気遣い、部下に対する思いやり、言葉は厳しいが態度と仕草で国民から一心の尊敬を集め、他の国からの尊敬すら集めている、そう言う王なのだ。だから決して悪い人では無い。むしろ分類するなら良い人の方に分類されるのだろう。
己の傷を自覚しながらも、それでも傷ついた態度は一切表に出さずに政務に身を砕いている。そんな王だからこそ部下の信頼は厚い。そんな王だからこそ、幸せになって欲しい。この国に住む全ての者が強く願う事だ。
もちろん、天丸もそうで、幼馴染みだからこそ誰よりもその想いは強い。だから、幸せな結婚をして欲しい。強く強く願う。しかし実際には難しい。

「何難しい顔してんだ?天丸」

行儀悪くフォークを口に銜えたままで翔雅が首を傾げた。
瞬時に変わった翔雅の雰囲気は翔愛がこの城に来る前までの、いたって普通の翔雅なのだが。

「・・・何でもないです。早く食べちゃって下さい」

これはもう、深く考えても良い答えは出ないだろう。
何故か確信も無いのに確信できてしまって、翔雅に続いて天丸も己の在り方を少し考え直す事になった。





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