星降る庭で・番外編/魔法の指先02...後編
※翔愛がまだ羽胤国に来る前の話です※







甘い甘いデートの時間はあっという間に終わってしまう。何せ休み等無い天丸と、同じく毎日料理を作ることが仕事な雷吾だ。今日みたいに市に降りる時以外には月に1度、休日が取れれば良い方で、そんな休日でさえ様々な理由で無くなってしまっている。だからこそ、こう言う僅かな時間でもとても大切なのだ。

甘い空気を引きずったまま城に帰って調理場へ入って。そこで雷吾の作る料理を食べたりするのが何よりも大切な時間であるのに。
それなのに。

「どうして僕達の邪魔をするんですか、翔雅様」
「あ?何が邪魔だ。俺は雷吾に用があるんだよ」
「それが邪魔だって言うんです」

調理場に入った途端、居るはずのない国王、翔雅がむすくれた表情でどかりと調理場の端にある椅子に腰掛けていたものだから天丸の機嫌は一気に下降してしまう。どうして一国の王がこんな所に、なんてこの国では通じない。例え国王であろうと身の回りのことは全て自分でするのだから、翔雅が何の気まぐれで調理場に居てもおかしくはないのだ。けれど、折角の、数少ない甘い時間を邪魔されるとあっては、どうしたって機嫌は悪くなる。

「翔雅?どうしたんだ?」

しかし雷吾は見た目の怖さに反して案外人が良い。首を傾げて翔雅を見やれば返ってきたのは天丸に対した時の不機嫌顔ではない、気を許している柔らかい表情だ。
雷吾にとって翔雅は年の離れた弟の様な存在で、公の場以外では平気で呼び捨てもするし殴りもする。翔雅もそれを良しとしているので何の問題もない。何よりこの城や国には翔雅よりもいろいろな意味で上の立場である者も多いので、例え羽胤の国王であっても実際は翔雅を王としながらも平気でどついてくる輩が多い。その最もたるが医師である椛なのだが。

「悪いな、雷吾。ちょっとばかり作ってもらいたいのがあって」
「作る?」
「ん、雷吾の粥が欲しい」

苦笑を浮かべた翔雅が座ったまま雷吾を見上げる。何処となく疲れた表情の翔雅に雷吾の眉間に皺が寄った。天丸の眉間には皺が寄りっぱなしだが流石に国王が疲れた顔をしているとあっては多少不機嫌さを収めるしか無く。

「具合でも悪いんですか?」

そっと翔雅の額に手を当てれば微かに熱を感じる。その様子に雷吾も心配気な表情になり翔雅の元に歩み寄った。

「働き過ぎだろう。部屋に帰って寝ていろ。後で粥を運ぶ」
「僕が持っていきますよ。翔雅様、お部屋に戻ってください」

背の高い2人に見下ろされる形で翔雅が苦笑する。この2人は顔も形も性格も何もかもが違うのに何となく似ている所がある。

「悪いな2人とも。俺はもう部屋に戻るから後はゆっくりしてくれ。粥は後で俺が取りに来る」
「邪魔だと思うんなら最初っから来なければ良いでしょうに。もう、具合が悪いだったら寝ながら命令して下さいね、陛下?」

だから思わず口から出るささいな嫌みに思ったとおり天丸が反応してくれて、思わず声を上げて笑ってしまう翔雅だった。

翔雅が部屋へ戻った後。結局甘い時間は極々僅かな時間だ様で、早速とばかりに翔雅の粥を作り始めた雷吾の背後で天丸は自分で入れた茶をゆっくりと口に含んで隠しきれない溜息を飲み込んだ。

「雷吾、次の休みって何時ですか?」

黙々と作業を続ける雷吾の背中は大きい。何を言っても跳ね返されそうな感じだけれども、何時だって誰の話もちゃんと聞いてくれる。

「一週間後。一日ある」
「そうですか。一週間後かあ」

僕の休みとは合いませんねえと呟きながらまた茶を口に含んで、これも自分で出した茶菓子を一口頬張る。ほのかな甘さの茶菓子は餡をふんだんに使いながらも甘すぎず丁度良い。

「ね。最近一緒にいる時間が少ないと思いません?」

また背中に話しかける。

「お互い忙しいのだから仕方がないだろう」

そっけない返事だが声は僅かに寂しさを含んだ物で。ふわりと微笑んだ天丸は立ち上がると雷吾の背中にそっと手をあてた。

「連休、しちゃいましょうよ。最近忙しいし、僕も無理矢理休みねじ入れますから、ね?」

そのままぴとりと背中に貼り付けば雷吾から呆れた溜息が聞こえた。

「お前の仕事は休める様な物ではないだろう?」

天丸の仕事はこの国唯一の国王専属の執事だ。様々な種類の仕事が全て天丸一人の肩にのし掛かかり、有事の際には王の代理もこなす。それを放棄する訳にはいかない。何より天丸自身がそれを一番良く分かっているだろうにと背中の温もりを感じながら雷吾は粥の味の調整をしていく。太い指が器用に動き様々な種類のスパイスを入れていく。繊細なその動きに背後から顔を出した天丸が引き続き雷吾の背中に貼り付きながらしきりに感心した。

「本当に雷吾の指って綺麗ですよねぇ」

うっとりとした響きの声に思わず苦笑してしまう雷吾だが、いつの間にか前に回ってきた天丸の手に僅かに表情を緩めた。

「天丸、火傷をする」

白い手を外す為に取れば反対に握りしめられた。

「ちょっとだけ、寂しいです」

ぽつりと呟かれた言葉は雷吾の背中にするりと入る。お互いに忙しい身。仕事に全てを捧げた身。けれど今触れている温もりだけは何よりも大切な物で。

「俺もだ」

けれど口下手な雷吾はそう言う事しか出来ず、白い手を握りしめて、そっと手の甲をさすりながら俯いた。

まだまだ。2人の仕事は終わらない。それでも、こんな事でめげてはいけないのだと雷吾の背中に張り付いた天丸はそっと、企む笑みを浮かべるのだった。



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料理人の雷吾は気は優しくて力持ちなおにーさんです。らぶらぶなのです。
以前より短くなってますごめんなさい。続きで短編連作にしようと思いますー。



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