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星降る庭で・番外編/魔法の指先01...前編
※翔愛がまだ羽胤国に来る前の話です※ ![]() |
| 羽胤国(はずきこく)の朝は早い。 日が昇る前から朝市である魚市場が開く為であり、島国である羽胤は魚の市が非常に大きいからだ。 城から下がって城下町の外れ、島の端にある港、羅着(らき)は、大きさで言えば羽胤国の表玄関であり、城下町の正面に位置する大港、鈴穏(れいおん)よりだいぶ小さいが羅着は羽胤国の台所を潤す、要するに鮮魚や食糧、雑貨等を主に卸す、生活の為の港だ。 そんな港、羅着には夜が明ける前から小さな漁船や商船が山の様に集まって荷を市場に卸す。よって、夜が明ける前から非常に賑やかな港で、そんな市場に付随して城下町とは違う商人の街も作られている程だ。そんな街の通りには所狭しと主に市場には無い日常雑貨や魚以外の食糧を売る出店で、真夜中の市場は毎日とても賑わっている。 もちろん市場が賑わえば人も多くなるのが当たり前で、細い通りしか無い羅着の通りは真夜中の闇を照らす出店の灯りと人々の熱気で大変暑い。 sそんな中、城で着用している王と同じ色の衣を脱いで、ざっくりとした白く長い衣に長い髪を一つにまとめて括り上げた天丸はとある人物と共にこの市場に訪れていた。 「毎日すごいですねえ。ね、雷吾(らいご)、今日は何を買うの?」 「新しいメニューの材料を買う」 軽やかな天丸の声に反し、帰ってきた声は何処か不遜な響きで嗄れている。けれど、そんな声でも天丸にとっては何よりも大切で愛しい声であり、雷吾と呼ばれた彼は天丸の恋人で、羽胤城の料理長でもある。 短く駆られた金色の髪に濃い茶色の瞳。日に焼けて黒くなった肌。白い麻で作られたざっくりとした私服の中には服の上からでも分かるがっちりとした筋肉に覆われた身体があり、その背もとても大きい。比べるなら天丸より頭一つ大きく、国王である翔雅と比べても頭半分は大きい。濃い茶色の瞳は鋭い光を放ち、一見しただけではとても料理をする人間には見えない雷吾だが、実は無口で無表情ながらに国で一番の腕を持つ料理人だ。 天丸の背中を支えながら市場の人混みをくぐる雷吾は料理長と言う立場もあって普段は市に降りない。しかし新しい料理を作る時には必ず市に出るので天丸はそのお供兼、普段忙しくてろくにデートも出来ない埋め合わせをしているのだ。 「あ、新しい果物がありますよ。食べてみたいなあ。食べたいなあ」 「あれは止めた方がいい。異国の物だが煮ないと食べられない」 だから2人を取り巻く空気はどことなく甘い。この人混みの中頭一つ出ている天丸と頭2つ出ている雷吾とでは非常に往来の人々の邪魔だ。しかしそんな些細な事を気にする2人ではない。甘い空気を纏ったまま移動すれば自然と足の向かう先は雷吾の向かう先になる。 人混みの中、辿り着いたのは雷吾が贔屓にしている店で、新鮮なのはもちろん、種類の多さで他を圧倒する、それでも小さな魚の店だった。 「主人、新しいのはあるか?」 「旦那、お久しぶりっすね。新しいの有りますよ!今日は遠海で捕れたこれなんてどうです?生でも食えますぜ」 「そうか、ではそれを貰おう。城に運んで置いてくれれば良い。後は・・・」 低い声でつらつらと用件を言っていく雷吾に対し天丸はやることが無いからじっと二人のやり取りを見ているだけだ。 基本的に天丸は器用だが料理は出来ない。それは職業柄と言うよりも、ただ単に不器用なだけなのだ。手先の器用さと料理の器用さはまた違うもの。きっと料理の才能は天丸から抜け落ちていたのだろう。だからこそ、雷吾の様な料理をする人に憧れに近い思いを持つのかも知れない。そんな事を思いながら雷吾を見ていたらいつの間にか場所を移動していて果物店の前に来ていた。太くて器用な指先が無言で先程天丸が食べたいと言っていた果物を摘んで、買ってくれた。 「・・・良いんですか?」 「ああ。食べたいんなら俺が作る。天丸は待っていれば良い」 不思議な青い色の果物を袋に入れながら雷吾がほんの少し唇を歪めた。これは雷吾の笑い方だ。目尻が下がる訳でもなく表情が笑顔になる訳でもない。けれど天丸だけが分かる柔らかい笑顔に嬉しくなって、にっこりと微笑みを返した。 |