ハルと猫と魔法使い/ガイルの印(しるし)
01


ハルの家、古い洋館でジャングルの果ての様な庭に不思議な男が落ちてきて早一年。
季節を重ね、また、春が来た。

言葉しか通じなかった男があれやこれやと余計な知識ばかりを覚えてすっかり黒のエプロン姿が板について、実りが有るのか無いのか非情に微妙な日々だけれども、概ねハルと落ちてきた男、ガイルの日々は平穏で平和だ。

ハルは春が一番好きだ。何て言っても温かいし風は冷たくても気持ちよいし花粉症も無いから余計に清々しく、冬の寒さを振り切る様に温かい日々に笑みを浮かべる。
そんなご機嫌なハルを眺めるガイルももちろんご機嫌で、ハルの機嫌が良いのならハルを弄くってもご機嫌は下降しないだろうと日々ハルに抱きついてはその細い身体を楽しんでいる。

そんな2人だけの生活は案外楽しくて。一年も経つと言うのにガイルの名前しか知ろうとしないハルは引き続き名前しかしらない男と楽しく過ごしていた。

そうそう。
このハルの家には2人の住人以外にも住人が居たりする。
シロ、クロ、チャと呼ばれる名前通りの色で、ころころとまあるく、ふわふわでもこもこの可愛い猫達だ。

だから、ハルの家に住むのは家主であるハルと同居人のガイル、そして猫達の5人(?)になる。
そんな猫達は飼い主であるハルにはもちろん懐いてはいるけれど、同居人のガイルにはめっぽう懐いていて今日もガイルの後をついて歩いているのだ。

ガイルの仕事はハルの家の家政婦だ。最初こそ危なっかしい手つきで何も出来なかったけれど、一年経った今ではすっかり家政婦姿と言うか、エプロン姿も板に付いてきて、なかなかに似合ってきている。
異世界から落ちてきたガイルに普通の仕事は出来ず、かと言って別にハルが外出を禁止した訳でも無く、日々を過ごすうちに自然とガイルの仕事が家事になっただけの事。今では家事一切を引き受け、近所への買い出し等々もガイルの仕事だ。

今日も朝からハルは仕事場に籠もってお仕事中。
ガイルはそれを邪魔しない様に猫を引き連れてせっせと古い洋館の掃除に明け暮れていた。

「ふむ。今日も腕が鳴るな」

満足そうに笑みを浮かべて見渡すのは汚れる、と言うよりも放って置きっぱなしで埃が山になっている小さな物置だ。本日の掃除場所は普段使われていない物置の一つ。別にそんな所まで掃除しなくて良いとずぼらな家主は言ってくれているのだが、日々家事を仕事とするガイルには見過ごせるものでは無い。
それに、どうやら掃除と言う仕事がガイルには殊の外合っていた様で、汚い部屋が綺麗になるのはとても楽しく、電化製品では無く昔からの箒やら雑巾で、せっせと手作業で掃除しては綺麗になるのがまた楽しい。

「さあ掃除をするか。クロ、チャ、お前達は汚れるから退いておれ」

すちゃっと箒を構えたガイルは足下でごろごろと喉を鳴らす猫2匹をほいっと外においやって、本格的に箒を構えて鼻歌交じりに部屋を掃除し始めた。







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