太陽のカケラ...87



瑛麻としては特に敵対する気持ちはないけど、向こうから見ればそうでもないらしい。
突然の転入に院乃都なんていらない名前が効果絶大だそうで、会長にも聞いた通り瑛麻と和麻を良く思わない奴らが山盛りいっぱいらしい。
こっちには院乃都の名前を出そうなんて気は全くないけど、それは瑛麻と和麻の気持ちであって向こうには関係ないとのことだ・・・めんどくさい。


視線を感じた日から数日経って、やっぱり睨まれている瑛麻だ。
でも睨まれているだけ。行動がないので瑛麻から手を出す訳にもいかず、何だかなあな気持ちだ。

「やっぱ全員闇討ちした方が・・・」
「瑛麻君、どうしたの?」
「ん、いや、何でもない」

しかも刻々とテストの日が近づいてて勉強もある程度はしなければ、である。
瑛麻の場合はテストじゃなくても勉強するけど。

夕食後、友秋と一緒に勉強するのが日課になっていて、何かと騒がしい学園生活とここ数日間での苛つきの中でかなり瑛麻の癒やしになっている。
友秋と一緒にノートを広げるのが楽しい。今日も課題とテスト範囲の勉強に精が出る。

「そう言えば瑛麻君もテキスト貰ってたよね。もう終わった?」
「あー、終わったしとっくに提出したぞ」
「そうなんだ。すごいねえ。篤斗なんかまだ半分だよ・・・」
「ガンバレ」
「今、すごい棒読みだったでしょ。頑張るのは篤斗だからいいけどね」
「友秋、結構厳しいよな」
「そうでもないよ。僕も手伝うもの」

ふふ、と微笑む友秋は幸せそうで、何だかんだいいつつ篤斗が好きなんだなあと思う。
その篤斗は部活の他にこの前の騒ぎで、風紀委員からの特別訓練だとかで最近は部屋に来る時間が遅くなっている。瑛麻が風呂に行って少ししてから来ているみたいだ。
テスト前だから最近は友秋の部屋に来ても勉強漬けらしく、ぐったりしながら台所の隅でしゃがむ姿を見かける・・・頑張れ。

「あ、ねえ瑛麻君、ここなんだけど分かるかな?」
「ん?あー・・・これだと、こうじゃないのか?」
「なるほど!ありがとう」

話をしながら勉強に戻って、友秋の課題もちょいちょい見る。
やっぱりSSクラスの方が難しくて楽しい。普通クラスとは差が大きいみたいだ。
友秋に聞かれて答えて、面白そうな問題を見せてもらったりして、中々に有意義な時間が過ぎて。

「えーいーまーくーん!おっふろー!」

毎日飽きずに大浴場のお誘いが来る。
サチとナオは瑛麻を誘ってからじゃないと風呂に入らない、が染みついてるみたいだ。
サチの大声で集中力も切れたし、手早く準備して日課になった大浴場に向かう。
大きい風呂は好きだし毎日入れるのはありがたいけど、もう少し静かに、とも思いながらパジャマになって部屋に戻って。

「何でナオがいるんだ?」
「トモ君と勉強する予定だからだよ。宿題がちょっと多くて、あとテスト勉強もね。瑛麻君も一緒どう?」
「そうだな、俺もやるか。んじゃ飲み物でも入れてやるよ。おーい友秋、ナオが来たぞー」

普段はそれぞれの部屋に帰るのに、今日はナオがくっついてきた。
お風呂セットの中に勉強道具一式も入れていたらしい。バスローブ姿のナオはすっかり見慣れたけど、そのままソファに座って、ふう、とかやられると微妙な気持ちだ。似合うから余計に。

自分の部屋に戻っていた友秋も瑛麻の声で出て来て、バスローブ姿のナオに驚かず(やっぱり当たり前か)、冷たい飲み物を買い足しておいたんだよ、なんて言っている。気の利く良いヤツだ。
って言うか、バスローブで勉強するつもりなんだろうか、ナオは。

「そんな訳ないでしょ。もう少ししたら着替えるよ。洗面所借りるから」

良かった。流石にずっとバスローブは・・・構わないけど微妙な気持ちになれる。
大浴場から一緒だった瑛麻は知っている。バスローブの下にパンツは履いてなくて全裸なのだから、微妙である。

「なあに瑛麻君、変な顔して」
「いや、別に。つーかもう着替えてこいよ。冷えるぞ」
「そう?まあ夜はまだ冷えるものね。洗面所を借りるよ」

ソファに座って少ししか経っていないけど素直にナオが洗面所に行ってくれて、ちょっとだけほっとしたら友秋がお茶を持って来てくれた。
新発売らしいペットボトルとグラスが3つに、買い置きのお菓子を少し。
買い置きや自炊分の食料は友秋と2人で共用で、それぞれ必要な物を買ってきて冷蔵庫や台所に足しておく。
買いに行く頻度は瑛麻の方が多いけど、友秋にいろいろと作ってもらったり出してもらったりしているからオアイコだ。

「あれ?着替えに行ったの?」
「行った。あれで勉強は正直ないと思う」
「そうかなあ。ナオ君、昔からお風呂上がりはバスローブだったからそのままだと思ってた」
「・・・筋金入りか」

ひょっとしたらもっと小さな頃からあれだったのかもしれない。想像すればぷっ、と吹き出してしまう瑛麻だけど友秋は首を傾げるだけで床に座る。
ナオも直ぐに戻って来て、お茶を飲みながら勉強の開始だ。

それぞれノートと教科書を広げて、友秋とナオは自分たちの課題を、瑛麻は好き勝手にあちこちの教科書から面白そうな問題を進めていく。
それぞれ勝手に進めて、途中で友秋に聞かれれば答えて、ナオと一緒に考えたりもして。

「瑛麻君、ここはどう?引っかかって先に進めないんだ」
「んー、これなあ。ちょっとメンドイけど、こうすれば進めるぞ」
「へえ、そんな方法があったんだ。ありがと」

ノートを広げて、いつの間にか瑛麻はいつも通り友秋と、今日はナオにも教えるのに集中する。
やっぱりSSの問題の方が瑛麻には楽しくて、ついつい手を出してしまう。
元から勉強は好きだし、純粋に知識を増やすことが好きで苦手教科もないし満遍なく手を出す。
そんな瑛麻に慣れている友秋は笑顔で、ナオも笑顔だ。

消灯時間が迫っているからあまり時間は取れなかったけど、充実した時間を過ごせた。
特にナオの知識は相当で、時間さえあればもう少し一緒に難しい問題を突き詰めて解きたい所だ。

「やっぱりトモ君の言ってた通りだね。瑛麻君、ありがと。お礼に僕からの突っ込みはナシにしておくよ。また教えてね」
「お、おお?」

楽しい時間はあっと言う間で、ナオが勉強道具を片付けながら妙な笑顔で瑛麻を見る。
言っていることはさっぱりだけど、機嫌は良さそうでさっさと部屋の出口に行ってしまう。
何だって言うんだアイツ。首を傾げる瑛麻にナオは構わずさっさと帰ってしまった。

「・・・?」
「ふふ。ナオ君らしいなって思うけど、僕から説明した方が良さそうだね。僕がお願いしたんだ。ナオ君に瑛麻君と一緒に勉強してみないかって」
「へ?」

何でだ?
また分からなくて首を傾げれば友秋が微笑んで、ついさっきまで使っていたテキストをぺらりとめくる。

「瑛麻君は外部から来たから分かってないんだろうなって。このテキスト、知ってるだろうけど、SSクラスと普通クラスとでは違うんだよ。内容も、SSクラスの方が難しいって言うのも知ってるだろうけど、そもそも授業内容もだいぶ違うんだよ」
「あ、ああ。知ってるぞ」

だから友秋の持っているテキストの方が面白いし、宿題だってそうだ。
それは知っているけど。

「だからね、普通はBクラスの瑛麻君がSSクラスのテキストをすらすら解けたり、僕やナオ君ができない問題をすらすら解いちゃうのも、変なんだよ。ねえ瑛麻君、本当はSSクラスに入るだけの能力があるんでしょ?ここまで言ってやっとビックリした顔してくれるのは嬉しいけど、瑛麻君ってしっかりしてるのに変な所で抜けてるよね」

すっかり忘れてた。いや、そこまで全く考えていなかった、が正解です。
友秋が楽しそうに笑っているけど、最後まで詳細に説明されてやっと理解した瑛麻は今更ながらに頭が真っ白だ。
確かにSSクラスの問題を瑛麻がすらすら解けるのは変だし、そもそも友秋と一緒に勉強して、教えているのだって考えてみれば、だ。
無言で頭を抱えて床に転がる瑛麻に友、秋は引き続き楽しそうに笑って、瑛麻の背中をぽんぽんと優しく叩く。

「僕は助かってるし、瑛麻君と一緒に勉強できるのが楽しいから良いんだ。クラスが違うのも入学の時にいろいろあったからだろうし、ってのはナオ君の言葉なんだけど、ちょっとだけ、もったいないなあって思ったから相談したの。この前のテストだって調節してあの順位なんでしょ?」

はい、そうです。ちょっと上過ぎだったから今度はもうちょい下を狙うつもりです。
言葉にできず床に懐いたままの瑛麻に友秋の優しい言葉が続く。

「瑛麻君がそうしたいなら僕もナオ君も何も言わないよ。僕が確かめたかっただけらから。ごめんね」
「・・・友秋が謝る必要はないだろ」
「ふふ。即答してくれる瑛麻君、大好きだよ」
「篤斗がいるだろ」
「篤斗はまた別の好きだもの」

友秋の言葉はどこまでも優しくて、返って考えさせられる。
この学園に入る時は確かにいろいろあって、正直逃げたい気持ちしかなくて、その結果が今のクラスだ。
もちろん後悔はない。
今の授業だって楽しいと思ってるし、クラスメイトにも恵まれていると思う。
ただ、瑛麻の好みからすればSSクラスの方が、とも思う。

床に懐いたまま、顔を覆っていた手を少しずらして微笑む友秋を見上げる。

「・・・勉強は、一緒にしていいか?テキスト、また見せてほしい」
「もちろんだよ。またナオ君も誘おうね」

強くて優しい友人の笑みはとても綺麗で、完全に瑛麻の負けである。
うう、と唸ればころころと笑われた。




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>>すっかり遅れましてごめんなさい!前編はここまでですー。


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