太陽のカケラ...32



「もう、瑛麻君怖かった!ボクの活躍全部取っちゃうし!」
「俺だって怖かったぜ。サチ暴れすぎなんだよ。あーゆーのはデカイのかまして脅せば終わるのに」
「それじゃつまんないもん!」

元教室を後にして、さっそくサチに背中をどつかれながら購買に駆け足で寄って、教室へ戻る途中だ。
怖い怖いと騒ぎながらもすっかり落ち着いたサチは瑛麻に懐きつつ何だか楽しそうだ。

「それにしても瑛麻君、場数踏んでるでしょ~。心強いなあ♪」
「サチに言われても説得力がねえよ。狂犬ってそのまんまじゃねえか」
「えへへ。ボクねえ、どうも頭に血が上りやすいって怒られちゃうんだ、兄さんに」
「誰だって怒るわ。いや、怒れるだけまだマシか」

最後はぼそっと呟いて駆け足で階段を上がる。
予鈴は購買を出る時に鳴っていたからそろそろ本鈴だろう。急がないと初日から遅刻と言うのも面倒で。

「っと、もうはじまっちゃう!瑛麻君急いでー!」
「急いでるっての。お前どんだけ体力あんだよ」

瑛麻だってかなり早い方なのにサチはさらに早い。本当に、この学校は予想外なヤツばかりで楽しくなる。
階段を3段飛ばして飛ぶ様に走るサチを追いかけながら瑛麻の口元には笑みが浮かんで、そのまま教室にダッシュで滑り込んだ。
のだが。

「で、堂々と遅刻か。サチ、瑛麻、お前ら先生泣かすなよ。昨日からの仕打ちに本気で泣いちゃうぜ」

本鈴が鳴り終わると同時に教室に滑り込めば美里が呆れた顔でしくしくと鳴き真似を披露してくれる。
確かに苛めているのは生徒かもしれないけれど。

「嫌がらせに生徒の机に教科書山盛りする教師に言われてもなあ」
「一応間に合ったじゃない」

瑛麻とサチが堂々と自分の席に座れば本格的に美里の鳴き真似が本物らしくなってしまった。
流石に気の毒なのでもう何も言わなでおくが、机の上に山積みだった教科書はカオルと遊佐が片付けてくれた様だ。

「カオル、遊佐、悪りぃな。どこに仕舞った?」
「ロッカーに入ってるよ。その様子だと暴れたみたいだな。サチ、怖いだろ」

カオルと遊佐がにやにやしながら瑛麻を見る。
暴れた気配なんてどこにも残っていないだろうに、何で分かったのか。

「良く分かったな。俺はサチよりお前らの方がおっかねえよ」

本当に恐ろしい2人だ。
はーっと溜息を落とせば笑われて、美里が本格的にいじけてしまう。

「だから俺の話を聞いてくれって。もー悪かったよ!先生もうふざけません。学年主任にも説教くらったし、真面目にやるぞ」

だからと言って堂々とそれを言うのもどうかと思うが、ちゃんと先生らしく仕事をする気になった様だ。


それからは本当に真面目に今週のスケジュールを黒板に書き出し説明する。
意外と字が綺麗だと思えば国語教師との事だ。

「んで、今週は週末に実力テストな。手抜くんじゃねーぞ。それとウチのクラスだけの特別説明!地元組、恒例の頼むな」

何だ?説明までは良かったのに地元組?
首を傾げるのは瑛麻だけで、呼ばれたカオルと遊佐は席を立って教壇にあがる。
遊佐が黒板の空いている箇所に何やら日付を書いているが全く分からない。

「はーい。それじゃ今年もよろしくな!じーさま達の腰はみんなの体力にかかってるんだからな!それと、後でプリント配布もあるからなー」

カオルの言葉にクラスが湧いて、遊佐の書いた日付にざわめく。
一人だけさっぱり分からない瑛麻だが、遊佐とバッチリ目が合った瞬間、良くない笑みを向けられてしまった。

「えー。それでは!今年も校外実習と書いて田植えお手伝いと読む体力勝負!各学年事にやるからな。クラス分けとかは後でプリント配るし、体力あるなら遊佐の家で木こり体験もプラスするしバイトも可。って事でよろしく。紫外線がダメとか、草で肌荒れするとかあったら先に報告。手抜いたらメシがまずくなると思って一生懸命じーさま達の腰の為にも頑張って下さい。以上!」

ぽかん。と口が開いてしまった。
え?何だって?校外実習?農業実習?

また慣れない言葉に瑛麻だけが馬鹿面でカオルと遊佐を見てしまって、そうこうしてるウチに2人が戻ってきて思いっきり笑われた。




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