夜の街の魔法使い・星を掴む人 45
そうして、宿に戻って着替えたユティと、合流したハーティンとプープーヤとで楽しい夕食を取った。ラジェルもいればやっぱり安心感が違う。この短い期間ですっかりラジェルの存在に慣れていたらしい。食後の酒を舐めつつ、いつの間にかユティの心に潜り込んでいたラジェルを微笑ましく思っていれば時間は深夜に近くなって、まだ仕事があるラジェルとは店の前で別れた。ハーティンもご機嫌でぬたぬたのモップを抱きながら店に戻るから、ユティも気持良い夜風の中をほろ酔い気分で宿に戻る、前にふと目に入った市場に立ち寄った。夜の街は時間によって開いている市場が違うそうで、偶々目に入った小さな市場は青い市場、要するに夜中の市らしい。
「へえ、夜の夜の市場かあ。何か違ったりするのか?」
「商品が違いますね。夜は魔法特化の商品が多いんですよ。逆に日用品屋食料品は昼の黄の市ですね」
「なる程、魔法特化か」
そりゃまた楽しそうな市場だ。魔道具は昼の市場でも専門店が数多くあるけど、夜は夜でまた別らしい。気分が良いから結構な賑わいの市場をうろついて、ふと足が止まる。魔法特化の市場なのにユティがよく使う絹糸が置いてあるからだ。つい手に取ってみれば店の者らしい老人が皺だらけの顔でくしゃりと笑う。
「お客さん、目が高い、のかのう?それは夜カイコの糸ですぞ。この街でのみ飼育されているカイコで、糸には魔力が溜め込まれておりますよ」
「糸にまで魔力かよ・・・」
自然の絹糸にはもちろん魔力なんて籠もってない。しかもこの絹糸、感じる力はさっきまでいた宮殿やこの街みたいな闇のものではない。許可をもらってから手に取ってじっと見れば僅かに聖なる力を感じる。絹糸なのに。元はカイコなのに。これは面白い。にんまりと笑んだユティに老人は不思議がるが、良い客だと思ったのか愛想良く話しかけてくる。絹糸なのに聖なる力が僅かに感じられるなんて、
「面白いな、これ。確かに魔力があるみたいだし、そうだな、そっちの山全部買う」
カゴの上に乗せられた絹糸の山は10束程だ。全部、と言ったユティに老人が驚いた顔をするものの使ってみたかったのだからいいだろう。値段を聞けば絹糸なのに夜の街のものだと言うだけで金貨1枚と言われてユティも驚いた。なる程、かなりの高級品なのか。
「大丈夫だよ、ちゃんと払える。ほい。これ、普通に使っても大丈夫なんだよな」
「え、ええ、ありがとうございますっ。もちろん絹糸ですからな。布にすればとても上品で王族の方々が纏う様な品が出来上がりますよ」
「確かにうんざりするくらい魔法を込めてすげえのが出来上がりそうだ。ありがとさん」
もちろんユティは布にしないし服なんか作らない。そもそも魔力にはあまり興味がないのだ。確かに魔力は感じるけど微々たる物で、きっと魔法を織り込みながら布にするのだろう。夜カイコなんてものははじめて見たけど、魔力を持つ糸は他の国でも偶に見るものだ。高級品の糸の束を安っぽい袋に詰めてもらって、うきうきしながら受けとって礼を言ってからユティは歩き出す。ユティが星を掴むのに使うのは絹糸だ。もちろんこの夜カイコの糸も同じ用途で考えている。新しい素材を手に入れた時はいつだって子供みたいにワクワクして楽しい。気持良い夜風を感じながら青い月を見上げてにんまりと笑む。星を掴む網は詠唱を重ねて作るけど、膨大なパターンがあってただの網から特殊なものまで沢山ある。この糸なら特殊な方が似合いそうだし、もう何を編んでどんな風に星を捕まえるかも決まっている。
「楽しみだな。もう夜中だけど作っちゃおうかな。ラジェルには内緒にして」
ふふ。と自然と浮かぶ笑みに通りすがりの酔っ払いが笑顔で挨拶してくれるから適当に返して、ユティはスキップしそうな気持で意気揚々と宿に駆け込む。ラジェルが仕事に戻ったからユティ一人だけだけど、ちょっと申し訳ないけど今は誰もいない方がありがたい。静かな部屋の中で早速寝室に入って、ベッドの上に買ったばかりの夜カイコの絹糸を取り出した。
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