夜の街の魔法使い・星を掴む人 25
ラジェルの準備が終わって宿に戻る頃にはユティの荷物整理も終わっていて、丁度いい時間になっていた。
時間は既に夜の夜、時計では日付が変わる少し前になっていてユティの作業時間にはもってこいだ。
但し、この街では勝手が違う。
「深夜は静かだから集中できるんだ。けど、この街に深夜はないもんなあ」
「確かに。どの時間でも誰かしらは起きて活動してるし。店は半日毎で開店閉店が変わるけど」
「やっぱりそうなのか。1日中ずっと営業してるのかと思ってたけど、流石に違うよな」
「俺達騎士もそうだけど、基本的に大がかりな組織は交代制で休みなし。個人商店なんかは月の色で動いてるかな。街の規模も大きいけど、そんな感じで働いてるから人も多いんだよ、ここは」
「だよな。どこの通りも人でいっぱいだったし。ま、こうして何時でも食堂やってくれてるのは有り難いけど」
ラジェルと共に近くの食堂に入って、夜の夜でも繁盛しているらしい賑やかさに苦笑する。
有り難くはあるけど、静かになる時間はなさそうだ。
1日中お祭り騒ぎとでも言えばいいのか、いや、毎日これなのか。思ってもみなかった賑やかさに少し困る。
「んー、まあ、一応理由はあるんだよ。静かになる時間がないのも」
「ん?」
食べかけの肉料理にフォークを刺して口に入れながらラジェルを見る。向かい側で料理をつつきつつ酒を飲んでいるラジェルが少々顔が赤くなっている。酒はあまり強くないみたいだ。
「ここ、魔力の吹き溜まりって言うか、湧き出やすいって言うか、とにかく魔力の濃度が高い上に周りはあの草原地帯だろ。灯りを絶やさず賑やかさを持続させておかないと魔物が侵入しやすくなるし、悪いものも溜まりやすくなる。悪しきものは基本的に闇に溜まるものだから」
「なる程なあ」
確かにここは魔力が濃くて外はあの草原地帯だ。灯りにも賑やかさにもそれなりの理由があるんだなあと素直に感心する。
ユティの通ってきた街は全て深夜には静かになっていたし、あの静けさが好きだったけど諦めた方がよさそうだ。
と思ったら。
「実際は夜だけで時間の感覚がなくなってるだけ、とも言うけどね。とにかく感覚が狂いやすいんだ、夜の街は。一日中店がやってて、空は星空って言ったら飲みたくなるし」
「・・・酔っ払い、多いよな」
「朝昼晩、全部夜だから特に外から来た人達が、ね」
こっちの理由の方がより素直に納得できて、笑ってしまう。
ラジェルも笑いながら酒を飲んで、ユティにも勧めてくる。
「俺はいいよ。これから作業するから。ラジェルも見学したいならほどほどにしないと寝るぞ」
「あ、そうだよね。ごめんごめん、つい癖で店に入ると飲んじゃうんだよなあ」
「・・・本当に、酔っ払いの多い街だよな」
1日中気持ちの良い夜で店に入れば酒があって、そりゃあ飲みたくもなるだろう。
気持ちは分かるけど作業ができなくなるじゃないか。星網を作ったらユティも飲んでやると気持ち良さそうなラジェルを軽く睨んで、ひっそりと心の中で小さく誓う。
そもそも時間も既に遅いのだ。酒を飲んでうっすら気持ち良くなっているラジェルに作業を見せたら確実に寝るだろうなあと思う。
あの作業はユティ本人は真剣でも見学者はとことん退屈で眠たくなるのだ。
かなり昔、ユティも作り方を見学したときに思いっきり眠ったのだから。
「大丈夫だよ。俺、こう見えて体力あるし、まだ眠くもないし」
ほわり、と微笑む姿が既に駄目だと思われるけど、まあいいか。
これから作ろうと思っている星網は完成までに一週間はかかるし、見る機会なんていくらでもある。
今日はまだはじめてだし、うふふ、と笑うラジェルに生暖かい笑みを返した。
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