星降る庭で/番外編。その1






羽胤に来てから翔愛の全てはとても大きく変わった。
例えば、直ぐ側に人の気配があって、何時でもお話出来る事。
例えば、毎日色鮮やかな服を着せてもらう事。例えば、共に眠る人がいる事。

例えば。食事の量がとても、とても、多い事。



「何だ、まだそれだけしか食わんのか。せめてその倍は食える様にならないと駄目だ」

一生懸命食べた昼食を、けれど翔愛の前にはほんの少ししか減っていない食事の山があって翔雅にキッパリと言われてしまった。
これはいつもの事で、翔愛としても何とか沢山食べようとは思っているのだが、長年に渡る小食生活がそうそう劇的に変わる事も無い。だから、翔愛の食事の後は決まって翔雅が顰めっ面をする。天丸もにこやかな様でちょっと困った顔をする事が多く、やっぱり翔愛の食事を心配しているのだ。

「ごめんなさい・・・もっと、がんばります」

食後のデザートを口にしながら新たに決意して翔雅と天丸を見れば二人とも渋い顔で頷く。
食事に頑張るも何も無いとは思われるけれど、至って真剣なのだ。

「徐々に増やしていけば良いと思いますよ」

そんな翔愛に天丸は優しく微笑んで、翔愛の残した食事をさらっと食べてしまった。
そう言えば翔雅も良く食べるけれど、天丸も良く食べる人だ。翔愛から見れば、その量は驚く程に多いのだけれども、二人ともさくっと食べてすぐに動ける。翔愛は、沢山食べるとお腹が重くてしばらく動けない。

それでも、頑張っているのだ。
今だって、小さなパンを1つにサラダを小皿にひとつ。果物を小皿で一回分。デザートは小皿の半分ほどの大きさの、マンゴータルトがひとつ。
頑張ったのだ。

「まあ、そうだな。毎日増やしていけば、大丈夫だろう」

苦笑しながらも翔愛の頭を撫でてくれる翔雅はまだ果物に手をだしている。
大皿に山盛りだった果物は次々翔雅の口の中に消えて、そろそろ皿が空になりそうだ。

「翔雅さま、足りていないんじゃないですか?もう少し追加しましょうか」
「いや、少し足りないくらいの方が良い。仕事もあるしな」
「そうですね。ではお茶を入れてきますね」

目の前で交わされる会話が、ちょっとだけ、信じられない。
いったいどれくらい食べれば二人に満足してもらえるのだろう。
ぱんぱんのお腹を抱えながら翔愛はじっと翔雅を見て、席を外した天丸の方を見て。

「何だ?もう少し食べるのか?」
「も、もうはいりません」

翔愛の視線に翔雅が首を傾げつつも小さな果物を口元に運んでくれる。けれど、甘酸っぱい臭いすら今の翔愛には毒だ。ふるふると首を振るだけなのに酷く気持ち悪くなってしまう。それは食べ過ぎと言う事なのだけれども、翔愛にはそんな事は分からない。ぐらぐらとしてしまって翔雅の手から逃れる様に、ソファにぱたりと沈んでしまった。

「翔愛!?・・・天丸!椛を呼べ!」

そんな翔愛に翔雅が心配そうにそっと翔愛の頬を撫でて天丸に怒鳴る。そうこうしているうちに、気持ち悪さが限界にまできてしまって真っ青な顔のまま意識を失いそうになった時、ようやく椛が来てくれた。けれど翔愛の意識はもう闇の中で、慌てた翔雅の声だけが何時までも翔愛の中に響いていた。










そうして。
寝台で目を覚ました翔愛が一番最初に見たものは、椛に説教されながら項垂れている翔雅と天丸と言う何とも珍しい光景だった。
寝台から少し離れて仁王立ちの椛ががみがみと怒鳴っている。どうしてそんなに怒鳴っているのだろう。首を傾げながら起き上がれば気がついたのか椛が怒鳴るの辞めて翔愛の元にきた。そのまま寝台の端に座って翔愛の額に大きな手をあててくれる。

「もう大丈夫だ。気持ち悪くはないだろ?」
「はい。だいじょうぶです」

言われてみればすっかり気持ちは軽く、身体の何処も痛まない。何が悪かったのだろう。そう思って椛を見れば、何故か苦い笑みを浮かべた椛が深々と溜息を落とした。

「いいか、姫さん。これから食事する時は腹がはち切れる前に止めるんだ。小食でいいんだ。彼奴らがおかしいんだ」
「・・・?」

どうして食事なのだろう。
首を傾げる翔愛に椛はまた深々と溜息を落として、翔愛の薄い肩をぽん、と叩いた。

「食べ過ぎによる消化不良。それで気持ち悪くなって倒れたんだよ。だから、食べ過ぎは駄目だ。身体に毒だ。分かったな」
「たべ、すぎ・・・?」
「そうだ」

椛の一言一言が中々理解出来ない。だって、食べる事が毒だなんて翔愛には思ってもみない事なのだ。
今まで不自由はしないけれど、小食だった翔愛にとって、食べ過ぎで消化不良なんて言葉は全く未知のもの。翔愛の表情と傾げる首の角度から椛も分かっているのだろう。その後、翔愛にも分かる様に沢山説明してくれて。

「・・・ごめんなさい。これからは、気をつけます」

ようやく理解した翔愛は何だかとても申し訳ない気持ちになってしまった。
だって、喜んで欲しかったのだ。翔雅に。沢山食べれば偉いぞと言ってくれる翔雅に、喜んで欲しかったのだ。
しゅん、とうなだれる翔愛に椛は苦笑して、部屋の隅で落ち込んでいた翔雅と天丸を引っ張ってきた。二人とも、翔愛よりも顔色を悪くしてしょんぼりと項垂れている。

「すまん。俺も天丸も人より食う方だから、お前もそうだとばかり思ってしまった」
「申し訳ありませんでした・・・まさかあの量で満腹だとは思いもよらず・・・」

今日は珍しい事ばかりだ。翔雅も天丸も深々と頭を下げている。慌てて翔愛が大丈夫です、と言おうとする前に、また、椛から雷が落ちた。

「お前らは人の3倍5倍も食うだろうが!一緒にするな!第一、姫さんの体型を考えろ!どう考えたって胃が大きい訳は無いんだ!それぐらい分かるだろう!」

考えてみればもっともな事で。
確かに翔愛はともかく翔雅と天丸は一般常識のある大人だ。それなのに考えもよらなかったと、また椛に引きずられて隣の部屋に行ってしまった。

「翔雅さま、天丸さま・・・」

唖然と二人の名前を呼ぶ翔愛に、椛が振り返り様、もう寝てしまえと呆れた顔で呟かれてしまった。








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・・・本編終了後、最初の番外編がこんなんですいませんです(笑)でもきっと、これから暫くはこんな感じのしょーもないのばっかだと・・・か、書いてて楽しいんですよう〜。


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