星降る庭で...14



羽胤城に居る医者は何人か居るが、事、重要な場面で出てくるのは椛(もみじ)だ。
50歳を越えた彼は医者らしくない筋肉と剣技を持つ事で名を知られているが、医者としての腕も優秀である。
淡い茶色の髪を無造作に伸ばして一括りにし、医者である事を示す青緑の薄布を纏った椛の瞳はこの大陸では珍しい薄い紅色をしている。
そんな椛の性格は至って大らか。しかも翔雅が生まれた頃からの主治医と言う事もあってかこの城で天丸に次ぎ翔雅に意見できる人物でもある。
もちろん、天丸に至っては椛に頭が上がらない。昔は良く翔雅と2人そろって悪さをすると椛に怒られていたのだから。

「俺様の患者は何処のどいつだ?」

苦笑いを浮かべる天丸に促されて王の寝室へ辿り着いた椛はソファに沈む翔雅に頭を下げる訳でもなくずかずかと中に入る。天丸も一緒に中に入って手に持っていた荷物、着替えやら布やらを下ろして翔雅の向かい側に座った。

「そっちに居る。適当に見れば後はいい。天丸、お前は明日から見張りを・・・いや、誰か違うのをよこすか。まあ少しは懲りただろうが念の為だ。あれを外に出すな」

むっつりと指示を出す翔雅の機嫌は悪い。それを見て天丸と椛がやれやれと肩をすくめるが、のんびり座っているのも何だとそれぞれ動き出す。椛は恐らく寝室に居るだろう翔愛の元に。天丸は不機嫌な翔雅に茶を入れる為に。

「そう言えば覇玖様はお帰りになりましたよ。ちなみに、従者は一人も置いていきませんでした。見事ですよねぇ」

寝室とは言え規模から言えば住居にあるだろう王の部屋には全ての設備がある。
湯を沸かし茶を用意する天丸の後ろ姿を眺めながら翔雅は舌打ちする。

「こっちで用意しろってか、くだらん」
「でもね、そう言ってもまさか牢に入れる訳にもいかないでしょう。どうします?何処か違う部屋に移して誰か見張りつけます?」
「そうだな・・・いや、部屋は此処でいい。従者なんてのはこの城には居ない事を思い知ってもらうさ」

翔雅の言う通り、この城には従者と言う者が存在しない。どんなに位の高い者であっても自らの事は自らで行う。国の中枢であり、世界の中枢と言っても過言では無いこの城は本当に必要最小限の人数しか居ない。

「翔雅様、いじわるですよ」
「けっ。但し、この部屋からは出すな。あれを外に出すつもりはない。己の愚かさを知ってもらうさ。それと愛綺国にも」
「分かってますって。じきに何かしらお返しはしますって」
「頼むぞ」

緑茶の柔らかな匂いが翔雅の苛立った心を落ち着ける。天丸から差し出された湯飲みを持ってようやく息を吐いた翔雅はそれでも表情は苛立ちのままに天丸を見上げた。





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