next will smile

02.02...ぬくもり




座っていた時は同じ位の身長だとばかり思っていた遼太郎は、一緒に歩いてみると少しばかり充より高くて、それはつまり足の長さの問題なのか?とぼんやり思いながらも何故だか遼太郎の持つ穏やかな、と言うか優しい雰囲気に疲れ果てていた心が癒されて行く様な気持になって、少々覚束無い足取りでふらふらと大通りを歩いていた。

「ね、充さん。何処に行くんですか?」
そんな充を心配そうに見つめながらすぐ側を離れずに着いて来る遼太郎は充の足取りの怪しさに今にも手を出して支えてしまいそうだ。
「えーっとねぇ。この時間だから知り合いのお店。あそこだったらお酒あるし、すぐに着くよ」
「そうですか。っと、歩くの怠いんだったらタクシーでも拾いましょうか?」
「大丈夫。ちょっとだから」
此所からだったら歩いて5分くらいの所。
何時もは夜しか行かない店だけれども、昔からの知り合いだから今から押し掛けても大丈夫だよね。くらいの気持で充は酒を求めてふらふらと足を進めている。

別にアルコール依存症とかでは無いのだけれども、充の酒好きは自他共に認める物だ。
流石に仕事中は飲まないけれど(残業時間は別)、仕事が終われば必ず飲みに行く。
給料の半分以上は酒代と煙草代に使われているんだと言っても過言ではなかったりする。
しかも酔っぱらう事の無いザルな物だから、いくらでも、まるで水の様にするすると呑めてしまう物だから充に酒を奢ってやろうなんて酔狂な知り合いは妙な酒癖を持つ保護者もどきくらいのだ。
なので、ひょんな事でスポンサーを得た事は非常に嬉しい事なのだ。

酔っぱらう事が無いのなら酒でも水でも一緒じゃないか。なんて言われる事もあるだろうけれど、それでも充は酒が良い。
酒を呑んで、ほんの少しだけ酔っぱらえば嫌な事を忘れられるから。かもしれない。

しかし、何で知り合ったばっかりなのに奢ってくれるのかなぁ?と今頃になってうつらうつらと考えている充は一緒に歩く遼太郎を横目でちらりと見て、ちょっとだけ首を傾げた。

見た感じ、とても良い感じなサラリーマンなのになぁ。
しかも社長とか言ってるけど、本当なのかなぁ?
嘘でも本当でも、こんな昼間からサボって酒を奢るなんて物好きだなぁ。
やっぱりナンパなのかなぁ。

ちょっとだけ考えてもつきない疑問に充は増々首を傾げてしまうけれど、どう見たって『良い人です』なんてデカデカと顔一面に書いてありそうな遼太郎にそんな邪な気配は全く無いし、まあ、例え合ったとしても返り討ちにするだけだからいいかなぁ、なんて。良く考えもせずに結論付けてしまって充は尚もふらふらと歩いている。

「ねぇ、さっきから足、ふらふらしていません?」
そんな充の歩き方を心配しているのだろう遼太郎は充の背に手を当ててくれる。
「大丈夫だよ。って、そんなにふらふらしてるの?」
「そりゃぁもう、今にも倒れそうだから恐いですよ」
本当に心配してくれているのだろう。
だって、ナンパ目的だったらこんな時、手を回して来るのは背中ではなくて肩か腰のどっちかだ。過去の嫌な経験上、その辺は良く分かっている充は不思議な人だなぁ、と遼太郎を見上げてちょっとだけ微笑んだ。
「本当に大丈夫だよ。でも背中押してくれるの楽かも」
じゃれる様に背中にある手に重心を掛けてみれば遼太郎も微笑みを返してくれながらちゃんと支えてくれる。
その手は思ったよりもしっかりしていて全く動く事は無い。
「じゃ、押してます。でも具合悪かったりもうダメだと思ったら遠慮なく言って下さいね。俺、確かに奢るって言いましたけど何も今日じゃなくても、違う日でもちゃんと奢りますからね」
しかも本気で心配してくれているのがちゃんと充まで伝わってきて。
本当に本当に、随分久しぶりに、人の気持があったかいなぁと思う事が出来て、充は嬉しくなった。

何時だって寒くて痛くて鬱陶しくて。
どうやら目立つ部類に入るらしい自分の容姿と性格の所為で何時だって受ける感情はあまり良い物は無いし、未だに深く深く傷付いている箇所もあるから、実は充は接触嫌悪症と言っても過言でな無い程に他人と触れ合う事を嫌っている。
別に、触れる事が即嫌悪を引き起こす訳では無いけれど、どうしても嫌で。
今では充に触れる事の出来る人間はほんの一握りの人間でしかないのに、それなのに、出会ったばかりの遼太郎の手はとても心地よくて。

そう言えばさっき手も繋いだんだよなぁ。

喫茶店でのやり取りを思い出して、ひっそりと思い出し笑いをすれば遼太郎はちゃんと見ていたらしく、おもしろそうに充を見ながら、やっぱり微笑んでくれる。

何か、この人温かい。
出会ってまだ1時間も経っていないのに、すっかり充は遼太郎に気を許していて、寝不足でふらふらだったけれど、気力と意地であの喫茶店まで歩いていた時とはまるで違って今では本当にふらふらとしながら歩いているのがどうしてだけ可笑しくて。

「充さん、さっきから何笑ってるんです?」
くすくすと遼太郎に背中を押されながら歩く充を遼太郎は変わらない温かい微笑みで覗き込んでは目を細めていて。
「何でもないよー。ちょっとね、イイ事があったから」
「そうなんですか?」
「そうなのー。だから、さっさと行こう、ね?」
何時までたっても変わらぬ微笑みを見せてくる遼太郎を見上げながら笑みを返した充はやっぱりふらふらな足取りを一歩進めて、

「充さん!?」
何の前触れも無く、あっさりと、支えてくれていた遼太郎の方に向かって倒れてしまっていた。





目を開けたら別世界でした。




なーんて、何処かのドラマにでも出てきそうな台詞を思い浮かべながら充は視界いっぱいに映る真っ白い天井にぱちくりと瞬きをして、目を閉じた。
何だかとても寝心地が良いからこのままもう一回。
なんてふかふかの布団にくるまり直した所で小さな溜息が充の上から降ってきて、そっと潜った布団の上を押さえられた。
「・・・充さん。起きたならちゃんと起きて下さいよ」
「・・・?あれ?」
どうやら寝心地の良い布団は充の物ではなかったらしい。
泊まり込みで聞く榎戸や高木や、ましてや颯也でも綾宏の声ではなくて、全く知らない声が聞こえて充は寝かかった意識を無理矢理起こしてぱちくりと瞬きをしながらのっそりと起き上がって、心の中で手を打った。
「遼太郎」
「はい。やっと起きてくれましたね。俺の事も覚えててくれたみたいで嬉しいです」
にっこりと微笑む遼太郎の笑顔に何処かほっとした気持ちになりながらも、はて、と首を傾げる。
「倒れたんですよ。おそらく寝不足だと思うんですけど、何処か気分の悪い所とかありますか?」
そうか。倒れたのか。なんてぼんやり思いながらも別段気持ち悪くも無いし身体の何処も痛くはないからふるふると首を振ると遼太郎は安心した様に微笑んで充がどけた布団を欠け直してくれる。
「もう少し休んだ方がいいと思うんです。随分顔色も悪いし、死んだ様に寝ていたんでちょっと心配だったんですよ」
よほど青白い顔だったらしい。
確かに2日連続の徹夜はきつかったなぁと、ちょっと目の覚めないままでぼんやりと遼太郎を見上げているとさっさと寝てしまえとばかりにスプリングの柔らかいベットの上に倒されて布団をかけられてしまう。
何だか妙に優しい手つきと温度で目の覚めきっていない充はあっという間にうとうとと眠りに入ろうとしてしまう。
「ここは俺の部屋ですから心配なく。もう少し寝たら何か食べましょうね」
何で合ったばかりなのにこんなに優しくしてくれるんだろうと思わないでもなかったけれど、どうやっても遼太郎の笑顔から邪な下心は見えなくて、起きたばかりだと言うのにするりと眠りに引き込まれそうになる。

けれど、そんな充の眠りを邪魔する音が突然部屋の中にこだまする。
ぴろぴろぴろと鳴る音は今時の、ではなくわざわざ一昔前のゲームから落としてきたお気に入りの着信音。
「あれ?・・・携帯、ですよね。充さん?」
分かっているけど、眠たいものは眠たくて。
充は無言でもそもそとジーンズのポケットから携帯を取出すと、いかにも嫌そうに眉間に皺を寄せながら携帯を耳元に当てる。
まったくせっかく気持ち良かったのに。なんて思いながらもこの時間帯で掛けてくるのは充の知る限り会社の人間か、若しくは保護者モドキだけだであり、ここで出なくても彼ならば諦める事無く出る迄かけ続けてくるのだから始末に負えない。
「もう、眠いのに。なぁに?」
不機嫌を隠さずに携帯に話しかければ案の定向こうからは同じく不機嫌な声が返ってくる。
『今何処に居る、アパートには帰ったのか?』
低く、けれど不思議と耳通りの良い声の持ち主は口煩い保護者モドキその1である颯也の物だ。
この声で耳元で囁けば落とせない女も男も居ないと豪語しているのは本人の自由だが、生憎充にとっては長年の保護者の声でしかなくて。
「まだ帰ってないよ。今から寝るの。お休みなさ・・・ぃ」
けれどまぁ聞き心地の良い声であるのは認めてやろうと言わんばかりにうとうとと携帯を耳に当てたまま寝に入る充に、そっと手を伸ばしてきたのはじっと見守っていた遼太郎だ。
「充さん?携帯抱えたままじゃ痛いですよ?」
「ぅん。だいじょぉぶ」
すでに半分以上夢の中に旅立っている充に遼太郎はてっきり携帯の話しは終わったと思って、緩く持っていた充の携帯をこのままじゃ耳にあたって痛いだろうと言う、良心100%の気持ちで携帯を取出したのだが、あいにくと切れていなかった携帯の向こうから怒鳴り声が聞こえてきて。
『充!?ちょっ、お前、何で野郎の声なんかすぐ側でしてんだよっ!しかも寝るって!!!』
どうしようかなと迷っている遼太郎の手からは非常に焦っていながらも激怒している颯也の怒鳴り声。
眠りかけている充に迄はっきりと聞こえてきて、大変に、ウルサイ。
「充さん、これ・・・」
困った顔で苦笑する遼太郎に充はううん、と唸ってから手を伸ばして携帯の電源ごと切ってしまった。
「いいんですか?」
「いいのー。もうちょとと寝かせ、て」
何だかとても眠いし包まった布団が気持良くて。
「分かりました。ゆっくり休んで下さいね」
ぽんぽんと布団の上から遠慮がちに手を乗せてくれる遼太郎の気持も嬉しくて。
本当に、随分と久しぶりに充は深い眠りに落ちた。



携帯メールの着信音はどんなに着メロがあってもFF7のゴールドソーサーなんです。私の場合。って知ってる方の方が少ないですよね(苦笑)




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