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星降る庭で・番外編/魔法の指先02
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| 天丸の朝は早い。 まだ日が上る前にのっそりと目を覚ます。 慢性的な寝不足は仕事の忙しさからくるもので、けれど日が上る前に行動を始めないと一日が終わらないのだ。 なので、文字通りのそりと目を覚ます。長い髪は寝乱れてぐしゃぐしゃで、それを掻き上げながら大きな欠伸をひとつ。 隣で眠る恋人の寝顔を見つめて小さく微笑んで、そっと眠る恋人に口付けを落とす。 「雷吾、起きて・・・遅くなるよ」 私用での言葉は割とくだけている天丸だ。寝起きは特に言葉に地が出る。 ゆさゆさと雷吾を揺さぶれば寝起きの良い雷吾はぱちりと目を覚まし、天丸のまだ起きていない表情を見て笑みを浮かべる。 「おはよう。俺よりお前の方が起きてなさそうだな」 がっしりとした体格の雷吾が起き上がると自然と寝台が軋む。 「ん・・・眠いよ・・・雷吾、キスして」 裸の胸は厚く逞しい。ぽてりと額を押しつけてぐりぐりすれば微かに笑う気配と共に大きな手が天丸の顎を掬って口付けられた。 朝にしては濃厚なそれは毎朝の儀式の様なものだ。何せ天丸の寝起きの悪さは城内、いや、羽胤国で一番と言っても良い程だ。少々間違っている様な気もするが、無理矢理にでも意識を覚醒させなければこのまま一日ぼけてしまう。 何度か唇を合わせて舌を混ぜて。くちゅ、と音をさせればようやく天丸の意識が起き上がる。 「ぁ、ん・・・ふ、雷吾、おはようございます」 「ああ、起きたか?」 「起きました・・・ちょっとまだ、眠いけど」 くすりと微笑んでようやく目覚めた天丸が長い髪を両手でまとめあげる。お互い何も着ていない状態だから髪を上げる天丸の全てが見える。着やせする天丸の、けれど筋肉に覆われた美しい身体。細く見えるのに、微塵も弱さを感じさせない理想の身体で、戦う者としても理想と言える。 そんな天丸を正面に見つめつつ雷吾は側に放り投げられていた服を天丸に投げて、自分も寝台から出て緩い下衣をつける。裾の広いそれは足首まであり、羽胤で一般的に着られているものだ。それに寝台の下に放り投げられていたサンダルを履いて天丸を振り返る。 「少し時間が無いが、どうする?」 「やります。ここの所忙しかったから、鈍っちゃうしね」 「わかった」 薄い灰の服を身につけた天丸が長い髪を結い終えて笑んで、まだ寝起きの身体をふらふらさせながらも部屋の隅にある剣を手に取る。これは天丸の剣だ。深紅の飾りに鋼の刃。細く長い造りは天丸に合わせて作られているもので、長年愛用している戦う為の武器だ。 雷吾も側に有る剣を手に取る。雷吾の剣は天丸の物よりだいぶ大きい。幅も長さも類を見ない程に大きいのだ。持ち手は銀、刃は漆黒。料理人である雷吾が持つには少々大げさな物だが、これも雷吾の為に作られた、戦う為の武器。今は料理人として城にいる雷吾だが昔は剣を取った時期もあったのだ。 天丸の剣技は素早さと身のこなしを軸とす、華麗な舞とも言える。 まだ朝日は無く、中庭の篝火に光る刃は酷く鋭く、確実に相手の急所を狙う。対して雷吾の剣技は素早さより力を軸とし、けれど身のこなしは素早く堂々と。何に対しても大きさを見せる余裕さと、優雅さがと、剣を振るだけで空気が裂かれ、その風圧だけでも人が倒れる力量がある。 一度、二度、剣を合わせながら風を、空気を感じ全ての感覚を刃に乗せる。一瞬の油断もなく侮りもなく、ただ真剣に剣を合わせ、汗がじわりと全身を包む頃ようやく満足したのか天丸から剣を引いた。 「ありがとう」 にこりと微笑む天丸に雷吾も剣を納めて軽く頷く。 毎朝では無いが週に何度かはこうして鍛錬を重ねる。流れる潮風のおかげで汗をぬぐう必要も無い。そのまま二人は城内へ入り、ようやく朝食となるのだ。 「おはようございます!」 調理場へ入ればあっちからもこっちからも威勢の良い挨拶が聞こえてくる。 同じく慌ただしく働く音もあちらこちらから聞こえ、たいそう賑やかだ。 それもそのはず、今準備しているのは城に住む者働く者に朝食を準備しているからで、各々により多少時間のずれる昼食や夕食と違い、この時間が一番忙しくもある。そんな中を雷吾に伴われた天丸は悠然と進み、いつもの席に腰掛ける。 席と言っても調理場の、雷吾専用のスペースの端にある粗末なテーブルセットだ。 素朴な木の造りのテーブルに背もたれもない簡素な椅子。けれど天丸を初め、雷吾の知り合いはこの場所を好んで良く訪れる。 独特の喧噪と雰囲気が落ち着けるのだ。 「何にする?」 雷吾が片手にトレイを持ち、片手で調理場にある山の様な食材を選び始める。 「お任せします。雷吾のご飯は何でもおいしいから」 本当は手伝えれば良いのだけれども、生憎天丸に料理の才能は欠片も無い。 大人しく座って待つだけだ。 「分かった。少し待て」 「はい」 雷吾の手は大きい。 指も料理人の手と言うよりは戦う者の無骨な手だ。けれど随分と昔から料理が得意で好きだった。大きな体を縮める事無く調理台で様々な食材を加工していく姿を天丸はうっとりしながら見つめる。 この時間が好きなのだ。料理を作る雷吾をそっと眺めるのが、趣味と言っても良い程にとても好きだ。 うっとりと眺めながら馴染みの料理人がお茶を入れてくれて、それを両手に持ちながらしばし天丸の至福の時間は続いた。 丁度日が昇り始める頃に朝食が出来上がった。とは言ってもまだ時間的にはだいぶ早い。これは一回目の、朝食なのだ。 パンに粥。野菜と果物の盛り合わせ。デザートとして甘い果物の盛り合わせ。一般的な羽胤国の朝食だが、生憎、量が一般的では無い。 テーブルに隙間が無くなる程、皿からこぼれそうになる程に多い食事は天丸と雷吾が食べれば直ぐに無くなってしまう。 美味しそうに食べる天丸を眺めながら雷吾も共に食事を取る。但し、雷吾の朝食はこれで終わりだ。と言うよりも普通、朝食は一回なのだが天丸はその見かけに反して良く食べる。 「この果物美味しい。何て言うの?」 「グダルタの皮と実を分けて炒めたものだ。天丸、口元についている」 「ありがと」 美味しい物を食べているとついつい気が緩むらしい。口調を崩しながらもさくさくと大量に、けれど優雅に食べる。いっそ小気味よい食べっぷりだから実は調理員の一番人気だったりもする。雷吾の恋人と言う事も皆に知れ渡っていて、その辺りも調理人の人気に加味されているかもしれないが、作った食事を美味しそうに平らげてくれる天丸の人気は高いのだ。 「今日の予定は?」 「普段と変わらん」 「そっかぁ。私は、遅くなりそうです・・・」 「気をつけろ」 「はい」 実際、こうして雷吾と顔を合わせる事の出来る時間は少ない。山の様にあった朝食も無くなり、食後のお茶をすすりながらほうと息を吐く。これからまた忙しい一日が始まるのだ。今は特に忙しいからどうしても天丸の時間が押され気味で、雷吾と会えない時間が多くなってしまう。けれど、そんな事でめげていては国王専用執事はやってられないのだ。 「じゃあ、いきます。後で取りに来ますね」 「分かった」 朝、昼、晩。普段は食堂で食事を取っていた翔雅だが、今は翔愛が居る為、部屋で取っている。その食事を取りに来る事が出来る。ついでに午前と午後のおやつも取りに来る事が出来る。それだけでも、丸一日会えない事もある日に比べれば嬉しいし、同じ城内に居るのだ。やろうと思えば何時だって、会える。 「雷吾も頑張ってくださいね。では」 立ち上がって片付けをする雷吾を捕まえる。背伸びしてちゅ、と唇を会わせれば天丸にしか見せない柔らかな笑みを見せてくれた。 |
感動等はメールフォームか↓へお願いしますですー。 雷吾と天丸の朝の風景。 この後、天丸は朝食を持って翔雅と翔愛を起こしに行く訳です。その辺も書けたら書きたいですー。 |