夜の街の魔法使い・星を掴む人 60



白星(しらほし)は貴重品で聖なる力を持つ星の石だ。貴重品と言っているのはユティだけだけれど、本来ならば国宝とかそんな感じの名前が頭につく。但し魔法を唱えずとも勝手に周りにあるもの全てを浄化してしまうので取扱注意の石でもある。使い方としては穢れた戦場を強制的に浄化して荒れ果てた自然を戻したり、血の流れすぎた王宮や神殿などを以下同文である。ユティの意見としては戦場よりも長年に渡ってじわじわと荒れていく王宮や、聖なる場所だった神殿の方が白星を必要とする。けれど白星は星を掴む人でも滅多に掴めない。
「聖なる力は関係ないんだ。場所と魔力が星のほぼ全てを決めてる。そこに俺がちょっとお邪魔して星網と詠唱で星を分けてもらう感じだな。もちろん星網と詠唱でも少しくらいなら星の種類に干渉出来るけど、死ぬほど苦労する。だから白星をはじめとする貴重品になる星は滅多にないんだ。まあ星そのものが滅多にないんだけどな」
「なる程なあ。白が聖なる力になるのか。今回唱えたのは基本の詠唱だけなんだろ」
「そう。それだけで白が混じった。凄いぞこの雪原」
「魔力だけはたっぷりありそうだもんなあ」
「魔力も大事だけど、場所も同じくらい大事なんだ。どんなに魔力が良くても白星にはならないし、場所もそう。どっちも揃ってはじめて条件が整う」
その場所も魔力も滅多にはないから貴重品になるのだ。別に貴重品を狙って星を掴む人になったユティではないけれど、滅多に掴めないから心は躍る。結界を貼りながら雪原を歩いて、ややラジェルに引かれながらも笑顔が絶えない。歌いたいくらいの上機嫌だ。
「俺にはよく分からないけどユティがすっごいご機嫌なのは分かるし、そろそろテント貼ってもいいんじゃないかなって思うんだけど」
「あ、そうだった。悪い悪い。少し仮眠しよう」
既に夜明けを迎えた雪原は魔物が活発化しているし、星を掴んだユティはそろそろ眠い。ラジェルも笑顔で頷いて詠唱しながらテントを出す。テントの中は最初から暖かくてほっとする。疲れたユティがベッドに腰を下ろせばラジェルが茶の用意をしてくれる。
「ユティ、せめて茶くらい飲んでから仮眠しようぜ。仮眠したら今夜も星を掴むのか?」
「んー、いや、今夜は普通に寝る。俺にそこまでの体力も魔力もないからな。魔法じゃあないけどあの詠唱だって少しは力を使ってるし、何よりしんどい」
ふぁあ、と欠伸をしながら横になればラジェルが笑って魔法で用意してくれた甘い茶を渡そうとしてくれる。もう眠たいけれど頑張って起きて、隣に座ったラジェルによりかかる。ずず、と啜る甘い茶は蜜の味がしてとても美味しい。
「普通に眠るなら夜は下の街に行かないか?まだトンネルの方には行ってないだろ。規模は小さいけど街があるんだ。小さい宿と風呂もある」
「ふろ・・・いいな、風呂入りたい」
「じゃあ夕暮れ前には下に降りよう。ユティ、もう限界だろ。寝ていいぞ」
「んー・・・おやすみ、ラジェル」
「お休み。俺も直ぐに寝るけどね」
甘い茶を半分も飲んでいないのにもう駄目だ。うつらうつらと船を漕ぐユティからラジェルがカップを取り上げて、額に口付けされる。きもちいい。


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