夜の街の魔法使い・星を掴む人 50



さて、ようやくこの街での基盤ができた。まあ、あの家に住めるのは半年先だけど元から数年単位での滞在を考えていたから問題はない。あるとすれば、ラジェルが費用を出してくれている豪華な宿の方だ。流石に半年もあの豪華な宿にいるのは申し訳ない。宿に戻ってそう率直にラジェルに告げてはみたのだけれども。「たった半年で俺の貯金が減るとでも?金額的には減るかもだけど、半年分くらい何て事ないよ。ここくらいなら草原で大型狩れば直ぐにお釣りが来るくらい稼げるし」
上級魔道騎士の言葉はあっさりと凄かった。確かにあの大型魔物から採れるいろいろなアイテムの元は高額だし稼げる。しかもラジェルは第一騎士団の方でもちゃんと給金が出ているからさらに・・・どれ程稼いでいるのか、ちょっと考えるのが怖いくらいだ。
「でも落ち着かんし豪華過ぎる。もっと小さい宿でいいんだが」
「俺はこれくらいの方が落ち着くけどなー。いいじゃん、宿に不満はないんだろ?」
「ないから困ってるんだ」
豪華さに困っているだけで宿そのものにもちろん不満なんてない。はー、と息を吐くユティにラジェルが笑って、まだまだ甘える事になりそうだ。確かにラジェルから見れば微々たる金額なんだろうなあと納得もしてしまったし断る理由が強くないのだから仕方がない。後できっちり恩返ししてやろうと心の中でだけで誓って、暫くはこの宿に滞在する事が決定した。

住む場所が決まればユティには特に急ぐ要件はない。ならばここ最近滞っていた星網作りの再開だ。これが出来上がれば北にある雪原にも行ってみたい。空気が綺麗だと言うのならば良い魔力が掴めそうだし、純粋な興味もある。
「雪原は南の草原と同じ位の広さだな。その先に大きめの雪の街があって、南の街みたいにトンネルで繋がってるよ。もちろん雪原を歩く人は少ないし、南より難易度が上がる。俺がいれば大丈夫だけどね」
「一人で行こうとは思ってないさ。で、雪原だから寒いんだよな。準備してから行こうと思うんだが」
「まっかせて!防寒具と雪原用のテントを買いに行こう。あと美味しい食料も。雪原用って言うか、北はだいたい雪に埋もれるからこの街でもいろいろ売ってるんだ」
「そうか、ここから上はかなり寒いんだな。それじゃあ明日にでも買い物巡るか」
買い物は嫌いではないしラジェルがいるから頼もしい。明日もまた頼らせてもらうからとお願いすれば嬉しそうに頷かれた。

そうして、忙しくて中々進まない星網作りを再開する。この前買った高級品はまだ仕舞っておいて、今はラジェルに見せる為に普通の糸で編んでいる。詠唱を重ねて、指先で糸を摘んで丁寧に、ゆっくりと編んでいく。糸から輪っか、輪っかから何となく網の原型になって、ゆっくりゆっくりと編み込んでいく。ラジェル用にと編んでいるから基本の動作だけで編めるもので、完成には約一週間だ。詠唱もあまり重ねずに編んでいる。
「ユティすげえ。毎回思ってるけど本気ですげえ。詠唱もだけど、編む動きに一切のブレがないし驚く程に丁寧で・・・尊敬する」
「毎回褒められてもくすぐったいだけだぞ。ここまで編めば一応星は捕まえられる。ただあんまり強力なのは無理だな。今まで見せたのは基本動作と基本の詠唱だけのやつだから、ここからいろいろと加えていくんだ」
「はー・・・出来る気がしない」
「ラジェルなら出来るだろ。何度か見れば大丈夫だと思うぞ。覚えきれないなら魔法か何かで映像を記録すればいい」
別に全てを見て覚えろとは思っていないし無理もあるだろう。途中まで編んだ星網に間違いがないかどうかを広げて確認しながら確かそんな感じの魔法と道具があったはずだとラジェルに提案する。
「え、記録していいのか!?」
「構わないぞ。俺も記録で覚えたしな」
「まじで!?」
「お、おう」
側で見ていたラジェルの勢いが増して突進されそうだ。勢いに身体を引いてもラジェルがぐいぐい来るからちょっと怖い。
「だって星網の技術って秘密じゃないのか?希少だしこの街ですら記録は僅かしかない上に映像なんて見た事もないぞ!?」
「そ、そうなのか・・・?」
確かに希少ではあるけどそこまででは、とも思う。ぐいぐいと迫ってくるラジェルの迫力に押しつぶされそうだ。星網を側に置いてどうどうと両手で止めればやっと止まってくれる。
「ご、ごめん・・・でも、本当に星を掴む人の情報は希少だし、ましてや映像なんてないんだ。ユティ、その映像ってもしかして持っていたりするか?」
「いや、故郷に保管してあるから持ってないぞ。んー、そうだな、希少だって言うのは散々言われてるから少し話そうか。別に秘密でもないからな」
星を掴む人は面倒臭くて大変で、かなり希少だ。それは知っているけど、特に秘密なんてないし今までにも何人かに教えてきた。あっさりと話そうとするユティにラジェルが何やら慌てて両手をばたばたさせている。何だ?
「ちょっと待って!あの、もし可能なら今から記録させてくれ!本当に貴重なんだ、師団から魔道具持って来るから!」
「え、ええ・・・いや、別に良いんだが、映像・・・照れくさいな」
故郷にある映像がどんなものかを知っているから恥ずかしい気持が浮かんでしまう。だってあの記録は延々と残るのだ。
「照れる事はないぜ。ユティは綺麗だし恰好良しし、あ、そう言う意味でも映像が残るの良いかもな」
「阿呆」
何を言ってるんだ、そっちの方がよっぽど綺麗で男前のくせに。ユティの許可を得て嬉しそうにしているラジェルの額をぺしりと叩く。


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