夜の街の魔法使い・星を掴む人 41



騎士団は王宮でもだいぶ広い区画を使用している。何せ街が広大で周りはあの草原だ。軍も第一師団から第九師団まであると言うから驚きだ。
「そんなに驚く事でもない。第一師団は人数少ないし、他の師団も多い所とそうでもない所があるから。ちなみに、師団長も第一師団だよ。隊は別だけど」
「はあ・・・。俺には何が何やらだけど、とりあえず凄いってのは分かった。あと怖いってのも」
「それは内緒にしておいて。怖いから」
やっぱり怖いのか。どうしても怖い騎士団長は執務室にいるとの事で、ラジェルの部屋からあの大部屋に戻って、廊下を歩いている。すごく、目立つ。ラジェルそのものが目立つ上に今は威厳溢れる理想の魔法使いなプープーヤと着飾ったユティが一緒だ。しかも黒しかないこの宮殿ではプープーヤの白もユティの灰色がとっても浮いている。あ、そう言えば。
「ちょっと疑問。ラジェルは上級で白なのに制服は黒なんだな。前のキラキラした礼服は白だったよな。決まりでもあるのか?」
そう。上中下に分かれる職業は全て色が決まっている。ユティが今まで旅してきた国は全部そうだった。けれど、ここは違う。全部が黒だ。
「そう、決まり事って言うか王宮の中は黒って決まってる。でも前にユティの前で来ていたアレは王宮の制服じゃないから上級の白になる。言われて見れば不思議だよな、全員真っ黒ってのも」
「宮殿が黒いんだから制服くらい変えればいいのにって俺は思う」
今はラジェルがいるから感じないけど、そもそも息苦しさを感じるくらいの力があるのだ、この宮殿には。制服の色で力が増すなんて事はないだろうけど、気分的に微妙な気持ちになってしまう。今まで誰も不思議に思わなかったのだろうか。
「うーん、不思議ではあるけど実際問題として白って汚れやすいから面倒なんだよな。黒の方が実用的なのかもしれないな」
「そんなもんか?まあ別にいいんだけど」
見た目に優しくないと言うだけでユティには関係のない話だ。制服も色の話もここまで、と手を振ればラジェルが軽く笑って延々と続く黒い廊下の先を見る。
「奥が第一師団第一隊の部屋になる。師団長も第一隊で、隊長はまた別。師団長はあくまで師団長って事で」
「はあ、それは分かったけどあの部屋は見張りがいるんだな。ん?なんか制服が違うぞ」
ラジェルの部屋に見張りはいなかったのに、ここにはいる。しかも制服がちょっと違う。周りと同じ黒だけど、なぜか金色の刺繍をしている。
「あれは親衛隊。師団長は王族だから親衛隊がついてるんだ。もちろん討伐にもついてくる」
「納得した・・・で、やっぱりいるんだな」
「そりゃあ師団長だし」
「だよなあ」
ここまで来たら逃げられない。いなくても良かったのにとは思うけど、とっとと終わらせれば後が楽になるのだ。きっと。たぶん。いや、楽になるんだ。頑張れ、俺。と無言で気合いを入れている内にとうとう部屋の前に来てしまった。ラジェルが敬礼と共に要件を告げれば一人が何やら詠唱して、先に知らせを飛ばしたらしい。もう一人はにこやかに敬礼すると直ぐに部屋の中に入れてくれた。どうやら部屋の造りはみんな同じ様で、ここもラジェルの部屋みたく大部屋になっていて、その奥が師団長の執務室らしい。大勢の真っ黒い人達が書類と格闘している。
「ここも忙しそうだなあ。魔物討伐って言ってたけど、書類も魔物関係なのか?」
「そう、主に魔物の詳細情報と周辺の出没状況に街の中での状況も。周辺国家の情報も集めてるけど、ここは第一師団だから主に魔物の情報と遠征なんかの出撃情報を扱ってるよ。この辺りは特殊な魔物が多いから情報だけでこの書類の山だけどな」
討伐や遠征の入っていない時は訓練や演習もするけど、書類の山にも埋もれているとの事だ。戦うだけでは強くなれないし、給料も出ないそうで大変だ。大勢の人達が忙しそうにしているけど、目立つ3人が部屋に入って来たから仕事の手が止まってしまった。ちょっと申し訳ない気持ちだ。そして、プープーヤが一緒にいるのに囁かれる声はラジェルの名前が多くてやっぱり有名みたいだ。いっそ感心しつつ親衛隊の後をついていって、奥の廊下に出る。ここにも結構な数の人がいて忙しそうに歩いている。
「こちらです。フェレス様、客人をお連れしました」
廊下の奥にはラジェルの執務室と同じ感じで扉があったけど、ここにも親衛隊が2人立っている。常時最低でも四人の親衛隊がつくと言う事は、師団長は王族の中でもかなり位の高い人なんだろう。その辺りも聞けばよかったかもしれないけど、今更だ。最後の扉を親衛隊の一人が開いて中に入る。ここもラジェルの執務室と同じ広さで、家具や調度品も一緒。でも、奥の机にいる人は圧倒的な存在感を放って部屋に入ったユティを見た。
「ようこそ、黒き王宮へ。ふむ、ラジェルは招待していないがまあ良いだろう。全員部屋から出ろ。ああ、茶を用意してからな」
美しく輝く黒く長い髪に星空の様な瞳。綺麗に整った顔立ちと細くしなやかな身体つき。漆黒の制服はラジェルと変わらないのに決定的に違う。散々怖いとラジェルが言っていた師団長は全てが黒なのに光を放っているかの様な、びっくりするくらい綺麗な人だった。


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