夜の街の魔法使い・星を掴む人 35



王宮は夜の街らしく闇色だ。使用されている飾りも全て闇色。夜に溶けるつもりなんだろうか。
「特に意味はないな。あえて理由をつけるのであれば、この辺りで採掘しやすい石が闇色であったと言うだけじゃ」
「夜の街だから闇色の石になったんじゃないかなって俺は思うけど、本当に全部黒なんだなあ。だから灯りが多いのか。カラフルで綺麗だな」
「色に魔物が寄ってくる訳ではないが、やはりユティの言う通りかもしれんの。闇色の石には僅かながら闇の力が宿っておるのじゃ」
「・・・無理してでも白い石にした方が良かったんじゃいかなって思う」
王宮は街の中央区にあって、行政区の真ん中にそびえ立っている。かなり大きな宮殿で、いくつかの施設を中にもっているらしい。ラジェルのいる軍部も宮殿の一角にあるそうで、他にもいろいろ詰まってそうだ。王宮と言う場所にはあまり良い思い出のないユティだけど、ここはまた別の意味で近づきたくない。宮殿に近づけば近づく程に魔力が濃くなって、プープーヤの言っていた通り、闇の力まで感じるのだ。
闇の力は魔物を引き寄せやすく、濃度が濃くなれば魔物を生み出す。魔導師にとっては力ともなるけど、それは上級の中でも上位にいる奴等だけだ。ユティみたいな下級魔導師には縁がないし、やっぱり近づきたくない。プープーヤと並んで歩きながら宮殿の敷地内に入れば感じる力は益々濃くてげんなりする。
宮殿は入り口の一部を開放しているとの事で、行政の一部をこの区画で行っているみたいだ。一般の人も多いけど、夜の街だから魔導師のローブが圧倒的に多い。そんな区画と言うか、大きな部屋の奥に進めば進む程、ユティには濃度の濃さが辛くなってくる。ちょっと息苦しいみたいだ。みんなは感じないのだろうか。この濃さと、底の方にぞわりと存在している禍々しさを。眉間に皺を寄せながら周りを観察していたらプープーヤが足を止めるから、ユティも立ち止まって見上げる。目立っているんだからあまり立ち止まってほしくはないんだけど、と視線に言葉を込めれば威厳溢れる顔がやや深刻そうにユティを見下ろしている。何だ?
「やはり感じるのじゃのう。下級と言っておったがユティには別の力がありそうじゃの。ああ、人の間ではもう消えたものか」
「ん?何だ?プープーヤ様」
「まだ入り口なのに嫌そうな顔をしておるからのう。感じるのだろう、色と濃さの底にある禍々しきものを。言って置くが、感じるのはユティだけじゃぞ」
「へ?うそだろ、結構キツいぞこれ」
そんな馬鹿な。プープーヤが平気なのは別としても、誰も感じていないだなんて。理想の魔法使いの姿になっているプープーヤと着飾ったユティが立ち止まればとても目立つ。けれど、目立っている事すら忘れて周りを確認してもやっぱり誰もが普通にしている。むしろユティ達を眺めている人の多さを確認しただけだった。仕方が無いのでプープーヤの袖らしき布を引っ張って広間の隅に引っ張っていく事にする・・・ああ、壁際の方が濃度が濃くなるみたいだ。
「中央の方が楽だとは思うがのう。まあ良い。それはユティの特性であろう。昔から感じていただろう?闇や光、危険なもの、聖なるもの、そうでないもの。私の事も何かしら感じ取っている様子だからもしやとは思っていたが、ユティは珍しいものが沢山じゃな」
「俺は珍しくなんかないって。勘は鋭い方だとは思うけど」
プープーヤの言葉じゃもっとすごいものみたいじゃないか。確かに感じるけど。プープーヤにもこの宮殿に似た、人が決して触れてはいけない何かを感じてはいるけど。
「勘の鋭さはまた別じゃよ。それは世界を知る者、と呼ばれる特性じゃ。もう人間の間では消えている呼称ではあるがの。ともあれ特性は特性であり、持って生まれるものじゃ。特に身構える必要はないが、ユティにとってこの宮殿は居づらい場所であると言う事になるの」
「特性、なあ。はじめて聞いたけど、言われて見れば納得するかもな。勘が鋭いだけかと思ってたけど」
「少々性質が違うからのう。勘が鋭いと言うのも合っているとは思うぞ。下級魔導師でありながら幾つもの困難を乗り越え、今のユティがあるのじゃろうて。それは訓練を積んだとしても、力が強くとも中々成し遂げられる『職業』ではないからな」
「・・・そこまで褒められると照れるってゆーか、また酒奢りたくなっちゃうじゃん。いや、その前にやっぱりキツいんだけど」
プープーヤが気を遣って職業と言ってくれた。何かにつけユティをべた褒めしてくれるけど、確かにユティの職業は面倒だけど、プープーヤにそこまで言われるものなのだろうか。特性よりもそっちが気になって、けれど呼吸のしづらさは変わらない。プープーヤなら何とかできないのだろうか。
「それはユティだけが感じているものだからのう。まあラジェルに会えば改善するだろう」
「へ?何でラジェルが出てくるんだ?」
「あれも特性を持っておる。いや、なぜユティが知らないのだ?ラジェルに会った時に感じたのではないのか?だから共にいるのではないのか?」
「え?な、何でだ?」
ラジェルにも特性が?じゃああの強さは特性が関係してるのか?不思議そうにするプープーヤにユティだって同じ気持ちになる。二人揃って首を傾げていたらプープーヤが先に戻って軽くユティの額を指先で突いた。痛い。
「何すんだよプープーヤ様」
「妙な所で鈍いからじゃ。おかしいのう、その特性ならば会った瞬間に分かるはずなんじゃが・・・」
「何をだよ。さっきから訳分からないぞ」
「それは私もだ。まあ良い。ラジェルに会った後で教えてやる・・・にしても妙じゃ。ひょっとしたら特性ではなく本当に勘の良い部類なのかのう・・・」
さっぱり分からないのにプープーヤはまだぶつぶつ言いながら宮殿の奥に歩いて行ってしまう。慌ててユティも追いかけるけど、奥に進めば進む程、濃度の濃さが気になる。


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