夜の街の魔法使い・星を掴む人 33



夜の夜は黄色い月の時間帯より魔力が濃くなる。濃くなればそれだけ魔物を呼び寄せやすくなり、街の中でも吹き溜まりができて唐突に湧き出る事があるらしい。だからこそどんな裏通りでも細い道でも灯りを絶やさず古来より全てを明るくしているのだと言う。
「元々は魔力の吹き溜まりだったのじゃ。それを封ずる為に人が集まり魔導師が集い国になったのじゃよ。もう遠い昔の事じゃ」
「はー、プープーヤ様だからこその言葉だな。俺としては夜なのに明るくて落ち着かないくらいだけど、魔物は遠慮したいな」
「僕も遠慮したいけど、結構出るんだよね」
店を出て近くの食堂に入った。夕食ついでにプープーヤから貴重な話を聞きつつ料理を口に運ぶ。この街の料理は内部で栽培された特殊な動植物が多くて、外からもトンネル経由でも運ばれてくるからいろいろと豊富だ。美味しく食べつつ今度は魔物の話になった。闇が濃い街でもあるから結構な頻度で街の中にも魔物が出るらしい。しかも強いのが。
「うへえ。密集地に魔物なんて酒が不味くなるだけの話だよな。確かに闇も魔力も濃いからありえそうだけど」
「この街で魔物を怖がってたら直ぐ食べられちゃうよ。ほら、あの灯りがそう。魔法の灯りが全部赤色になったでしょ。あそこに魔物が出たんだよ」
折角の美味い酒が微妙な味になるなと思っていればハーティンが窓の外を指差した。なる程、割と近い区画の灯り全てが赤色になった。分かりやすい。
「じゃなくて!え、マジでか、っておい、この店まで色変わってるじゃないか!」
「あ。ホントだ。大丈夫だよよくある事だし」
「ふむ、大型の様じゃのう。ユティよ、あちら側を見るとよいぞ。図体のでかいのがおるはずじゃ」
店の中で使われている灯りも全てが真っ赤なのに誰も焦っていない。何なんだとユティ一人で慌てていたらプープーヤが窓の外をぬたぬたの一部で指差した。座っていた席が窓際だから外が良く見えて・・・逃げたくなる。本当に街のど真ん中に大型の魔物がいるのだ!ユティの知らない種類の、人型に近い真っ黒い不格好な魔物が街のど真ん中にぬぼっと立っている!プープーヤとハーティンの説明によれば地面の底の底、湧き出た闇の中から唐突に出て来るらしい。どんな街だここは。どうして誰も焦っていないんだ。ユティ一人だけ慌てているのも何だか馬鹿らしくなってしまって、浮かせた腰を椅子に戻して外を眺めていたら直ぐに理由が分かった。大型の真っ黒い魔物が片足を挙げて建物を踏みつぶそうとしたその時、どこからともなく騎士服と魔導師のローブ姿の者達がわらわらと出てきたからだ。人数は凡そ三十人程度。全員が白であっと言う間に街が戦場になる。けれど建物を守る別にいるらしく被害はない。
「・・・ああ、だから焦らないのか。ったく、どんな街だよ。あれ、放っておいていいんだな?」
「たぶん大丈夫。あの人達は第五師団って言って街の警備の人達だよ。もし負けちゃっても他にもいるから大丈夫だって」
「不安しか感じねえんだけど、本当に誰も慌てないんだな」
「よくある事じゃからの。安心せい。もしもの時はハーティンが区画ごと吹き飛ばすからの」
「それもそれで・・・」
それじゃあ魔物より駄目だろうとハーティンを見れば可愛らしい笑顔で頷いている。そうか、笑顔で吹き飛ばせるだけの力が、あるんだろうなあ。まだ外の戦闘は続いているけど気にするだけ疲れる気がしたユティは食事に戻って甘口の酒を舐める。本当にびっくり箱みたいな街だ。
「日常茶飯事ではないがよくある事じゃ。ユティならばくぐり抜けられるだろうからそう心配するな」
「俺一人だったらな。はー、なんかすげえ疲れた。やっぱ慣れるまで時間がかかりそうだなあ」
「慣れれば楽しいよ。ね、プープーヤ様」
「そうじゃのう。どれ、酒のお代わりを要求するぞ。ユティはどうするのじゃ?」
「あー・・・飲む。今日はもう寝るから飲む。ハーティンも追加があるなら追加していいぞ」
外から聞こえる怒声とか魔法の攻撃音は気にしちゃ駄目だ。今日の夕飯はユティの奢りだからと遠慮無く頼んでくれるプープーヤに上等の酒をたっぷり注文して、ハーティンにも追加で甘いデザートを追加して。本来の予定だったら宿に戻って星網を作る予定だったけど、もう今日は駄目だ。たっぷり寝て気力を養わないとやってられない!


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