夜の街の魔法使い・星を掴む人 32



衣装に関する専門店との事だけど、道具も結構な数が置いてある。全部が恐らく式典用なんだろう、宝石で飾られて眩しい感じの道具だ。ハーティンとプープーヤに混ざって面白楽しく店の中を探検していればそう間もなくユティの衣装を揃えてくれた。
「お待たせしました。ローブと衣装、装飾品もご用意しました」
「おー・・・すごいな、それ」
白い店員が持って来てくれた衣装一式がキラキラしている。ちょっと眩しい感じに驚けばハーティンとプープーヤは何故か喜んでいる。光り物が好きなんだろうかこの2人は。
下級魔導師の色である灰色のローブは言っていた通り薄手で透けそうなローブだ。全ての縁に銀の刺繍があって裾には宝石の飾がいくつか。それだけで眩しいのに、下に用意された衣装は何て言えばいいんだろう、貴公子みたいなやつだった。薄い灰色のやたらレースのついたブラウスに黒のズボンに同じ色のブーツ。全部に豪華な刺繍入り。装飾品も結構な数があって全部着たらさぞかし目立ちそうだ。
「うわあ凄い綺麗。ユティ似合いそう~」
「ふむ、悪くない趣味じゃ」
「いやいやいや、いくら何でも目立ち過ぎだろ。もうちょっと大人しめのやつはないのか?」
流石に目立ち過ぎる。王宮に何をしに行くんだと自分で自分に突っ込みたい気持ちになるじゃないか。なのに白い店員も2人も不満そうにする。
「お似合いになりますよ?それに王宮ですから、それ程目立ちませんし」
「そうだよ綺麗だし似合うよー。これにしようよ」
「お主ならば着こなせると思うがのう」
「いやいや、褒め言葉としては受けとらないからな。挨拶に行くだけだっつーの」
ちょっと行ってラジェルを見学して挨拶したら直ぐに帰る予定なのだ。正装は正装でも、もっと目立たない衣装が絶対にあるはずだ。せめてローブはもう少し地味にして欲しいと告げればユティの挨拶、に白い店員が軽く首を傾げる。
「ご挨拶、ですか。あの、差し支えなければどなたにご挨拶かをお聞きしても?恐らく向かう先によって衣装も変わると思いますので」
「あ、そっか・・・あー・・・」
確かにそうか。王宮と行っても広いし行く先によっては変わるだろうけど・・・言いたくない。まず間違いなく最上級の正装を要求される所だろうから。いや、だからこそ言わないといけないのだけれども。おまけにハーティンとプープーヤが確実に早く言え、みたいな顔でユティを見てる。うう。言いたくないけど、仕方が無い。
「悪いけど他言無用で。挨拶先は師団長、第一師団長だよ」
気持ち小さな声で白い店員に告げればはじめて驚いた顔をされた。そうか、名前を出すだけで驚く人、なんだろうなあやっぱり。
「それはそれは・・・お客さん、あの方にお会いするのでしたらこの衣装じゃないと失礼になりますよ」
「そう言われると思ったけど、何とかならないのかそれ。せめてローブだけでもさあ」
「我が店ではこれ以下のものはお出ししません。お客様のご予算で充分に足りますし、最上級の正装ですし、何よりお似合いですから」
そこを何とか、とお願いしても駄目そうだ。きっぱりと言い切る白い店員にハーティンもプープーヤも同意しやがって、退路がなくなった。目立ちたくない、の気持ちは諦めた方がいいらしい。どうせ師団長と言う人に会うだけで目立つんだろうし。はあ、と重々しい溜息を落として了承したユティになぜか全員が喜んで、結構な額のお買い上げになった。
豪華過ぎる衣装一式を袋に入れてもらいながげっそりと疲れた気持ちだ。白い店員が衣装を包んでいる間にソファに沈めばハーティンがプープーヤを抱きながら向かい側に座ってころころと笑う。
「そんなに疲れる事ないのに。これから王宮に行くんでしょ?もっと疲れると思うけどなあ」
「そうじゃのう。この程度で疲れておっては王宮から生きて帰れぬやもしれんな」
「脅かすなよもー・・・って、待て待て。今日は行かないぞ。明日だぞ」
「えー、今すぐ行くんじゃないの?」
「だったら包んでもらわないっての。俺にもいろいろと準備があるんだよ」
主に心の。それと装飾品的な意味でも、だ。星を掴む人だとむやみやたらに知られる訳にはいかないから、さっきの豪華過ぎる衣装と一緒に結構な数の装飾品も買っている。2人は疑問に思わなかったのか何も言わなくてほっとしたけど、買った装飾品は使わない予定だ。何の力もないし、そもそも落ち着かない。
「あ、そっか。そうだよねえ。ユティだもんね」
「ふむ、なる程のう。確かにそろそろ夜の夕暮れじゃ。王宮に行くには遅い時間だろうて」
「あ、ホントだ。王宮だったら夜の朝がいいもんね」
確かに窓の外、この店の窓は天井にあって夜空を見せている、から黄色と青の月が空の端に見えている。2つの月が空の端に両方見えれば時間の変わり目だ。この辺りで街の人々がぐるりと変わる。
「もうこんな時間でしたね。ついついお引き留めしてしまってすみません。ありがとうございました。また何かありましたら気兼ねなくどうぞ。お待ちしておりますね」
「ありがと。ない事を祈るけど、まあ助かったよ。派手だけど」
「ふふ、その文句は聞きませんよ」
この店も夜の夜には閉店するらしい。しっかりとした皮の包みを受けとってにこやかに見送られれば店の入り口が一瞬で閉店だと知らせる灯りになった。この街では閉店しても暗くならない。灯りはそのままで閉店を知らせる文様を浮かばせた灯りになる。決して灯りを絶やしてはいけないそうだ。


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