夜の街の魔法使い・星を掴む人 31



何をしても目立つのであれば魔導師の正装にする事にした。理由はいくつかあるけど、魔導師のローブは顔を隠せると言うのが一番上に来る。もちろん王宮に入るからローブの下も正装にしなくてはいけないから、これも買う事にする。正装であるローブだけど、だからと言って下が普段着ではだめだし、そもそもローブは全身を隠してくれないからある程度は見えるのだ。
「下級魔導師のローブは灰色なんだね。ええと、上級が白で中級が黒、なんだっけ?」
「そう。どのクラスでも上中下に分かれてるだろ。色も共通なんだ。だから俺は灰色のローブになる」
「人間とは面倒なものじゃのう」
「確かにねえ。まあ僕達が言っても仕方が無いって話になっちゃうし、お店に案内するよ。確か中央区の近くに専門店街があるよ」
まずは魔導師のローブから選ぶ事にして、ハーティンに案内されたのは工房区から少々歩いた先の専門店街だった。中央区に近く、真っ黒い宮殿が遠くに見える通りは全て正装の専門店らしい。いろいろと突っ込みたい所はあるけど案内されている身だから大人しくハーティンに着いていくしかない。それにしても。
「プープーヤ様、すげえ目立ってるけどいいのか?」
「気にする程でもない。私とて偶には散歩もするのじゃぞ」
「散歩って・・・」
うぞうぞしながらか。言いかけてから止めて、ハーティンに抱かれつつ通りの注目を一心に集めるプープーヤからそっと視線を逸らしておく。この街ではかなり有名な存在だからか、それとも単純にモップ姿だからなのか、ともかく注目されていて少し怖いくらいだ。ハーティンもまた注目される理由の一つではあるんだろうけど。
「気にしないで、僕もプープーヤ様も珍しいもんね」
「何か悪いな。ありがとうな、二人とも。夕食は奢らせてくれ。めいいっぱい食って飲んでも大丈夫だから」
「ユティなら本当に大丈夫そうじゃの。では有り難く飲み食いさせてもらおうかのう、ハーティン」
「うん!あ、あそこが魔導師の専門店だよ。ローブとか服とかいろいろ売ってるって聞いた事があるの」
結構な距離を注目されつつ歩いていたら店に着いたらしい。見るからに高級そうな店構えの、なる程、魔導師の正装専門店だ。そう大きくはない店は入り口が狭くて、扉の前には黒い魔導師がいる。何だろうと思えば門番らしい。店なのに。
「いらっしゃいませ。失礼ですが杖を拝見してもよろしいでしょうか?ここは魔導師専門店です。魔導師以外の入店はお断りさせて頂きますが、人以外にはこのルールは適応されません」
黒だから中級だろう。店に入るにも資格がいるのかと驚くけど、魔導師であれば階級は構わないらしい。ユティの杖を見せれば満足そうに頷かれて何やら詠唱すると扉を開けてくれた。プープーヤとハーティンには深々と礼をしているからきっと知っているんだろうと思われる。

店の中に入れば見かけよりも広くて、両脇にはずらりとローブが並んでいた。中央にはソファとテーブルが何組か置いてあって、白い魔導師が何人かいる。と言うか白い魔導師しかいない。
「いろんな意味ですごい店だなここ。なあハーティン、専門店って言ってたけど、何か違う気がするぞ」
「そうなの?僕はラジェルに教えて貰っただけだからよく分からないんだ」
入るのに門番がいたり中には上級魔導師しかいなかったり、そもそも並ぶローブがユティから見ても最高級のものしか置いてなかったり。嫌な予感しかしないなと珍しそうに店を眺めるハーティンを見ればやっぱりな答えがきた。ラジェルからじゃあ間違いなく王宮関連の店じゃないか。そうだとすれば、と入り口の上の方を見れば金の王冠のモチーフが飾られていた。間違いない、王宮の、それも王直轄の店だ!
「いらっしゃいませ。ふふ、そう驚かれずとも魔導師であれば皆同じですよ、お客さん。もちろん王族でも市民でも旅人でもね。さあ、今日は何をお求めですか?」
がっくりと肩を落とすユティに白い魔導師の一人が近づいて来てにこやかに話しかけてくる。ローブを羽織ってはいるけど顔は見せていてこの店の人らしい。店員が上級魔導師なのかとうんざりすればまた笑われて近くのソファに案内される。ハーティンとプープーヤは珍しそうにきょろきょろしているから、まずはユティだけがソファに座る。
「王宮に行く用の正装を買いに来たんだ。予算は気にしないし、そうだな、一応これくらいは持ってきてる。あと、あの二人は少し放っておいてくれると有り難い。悪さはしないと思うから」
王の直轄店なら正装を買う理由も正直に言っておいた方がいろいろと楽だろうし、この手の店は口の堅さも信用できる。正装を買うからとそれなりの額を入れておいた袋と杖をテーブルの上に置けば白い店員はにこやかなまま頷く。下級の杖を見ても態度を変えないし、ハーティンとプープーヤにも顔色を変えない。流石だ。
「お客さんだったら軽い素材のローブが似合うと思いますよ。下の衣装は、そうですね、まずは数種類選んでみますので、お待ち下さい。それと、店の中でしたら好きに見て良いですよ。我々としてもお会い出来て光栄ですし、お客さんは飾りがいがありそうで嬉しいです」
「正直にどうも。この街に来てそう経ってないから任せるよ」
「ええ、お任せ下さい」
白い店員を見るからに任せても問題なさそうだ。だったら、とユティもハーティンとプープーヤに合流して見学する事にする。いろいろなローブがあって単純に面白いからだ。


top...back...next