夜の街の魔法使い・星を掴む人 18



ラジェルと言うやたら目立つ同行者が増えて、ついでに荷物持ちにもなってくれて、街の北側を目指すことになった。
例の妙な名前の怪しい店、エクエクに顔を出すのだ。
本当は遠慮したいユティだけど、工房区と魔道区が隣接していると言われれば自然と足が向いてしまうし、夜の街でも北側の工房区と魔道区は品揃えの良さで有名だと言われてしまってはもう断れない。

最上級の宿でゆっくり休んだ翌日。
空は綺麗な夜空だけど、気持ちのいい風がふわりと舞っている。
荷物をラジェルと半分に分けて持って、北側に向けて出発した。と言っても既に東側の上の方に来ているから、歩いて半日もしないうちに北側に着いた。
「ここから魔道区だな。ほら、看板があるだろ。で、向こうが工房区。隣接してるからこの辺りは両方の店が混じってて、宿とか大きい食堂なんかもこの辺りになるな。俺の家とエクエクはもう少し歩いて裏に入った所」
ようこそ、俺の庭へ。なんて恰好つけてるラジェルを軽く小突いて、ようやく着いた目的地を眺める。
今まで通ってきた街の、どの区画よりも何だろう、ごちゃごちゃしている感じだ。
大通りらしき通りも他よりかなり細くてぐにゃぐにゃしているし、建物も整然と、なんてお世辞にも言えない並びだ。
しかも全ての建物が好き勝手に建てられているみたいで統一感がない。
魔法の灯りも他の区画よりかなり多くて、色も派手だ。
「はー・・・今までの区画と全然違うんだな」
「夜の街は東西南北と中央の区切りで変わるんだ。北側はこんな感じで店が乱立してるから、まあ一番ごちゃごちゃだな」
ラジェルに促されて大通りを歩くけど、直ぐに自分がどの辺りを歩いているのか分からなくなる。道案内の看板があちこちにあるけど、慣れるまでは大変そうだ。
しかも人も多ければ耳や尻尾を持つ人も多い。一番目立つのは魔導師のローブで、騎士はあまりいない様だ。後は、エプロン姿の厳つい男達も目につく。
「なあ、あのエプロンは何?」
「あれは工房の人達だな。何せ数が多いから、人も多くなる。魔導師もそう。耳や尻尾の人達はここが住みやすいって言ってあちこちにいるって感じ。街の中でも魔力が濃いんだってさ」
「はあ。俺にはもう何が何だかだよ」
世界中から魔導師が集まるとは聞いていたけど、それ以外も多いとは。
よく見れば大通りの店は魔道具と武器、防具等の工房に関わるものが乱立している。
「ここから裏通りな。迷いやすいけど、魔導師なら直ぐ慣れると思う。通りによって魔力が違うから。裏に行けば行く程、濃くなってるんだ」
人が多すぎて、ラジェルに促されるまま軽く抱き寄せられて大通りから裏通りに入る。ここも人でいっぱいだ。
通りの幅はさらに狭くなって、大通りにはなかった酒場が増えて別の意味で賑やかになっている。
「ここは一番目の裏。工房区よりだけど、まだ混ざってるな。もう少し奥に行けば完全に工房区になって、エクエクがあるよ。もう少しだ」
「結構大通りから入るんだな。で、魔力が濃くなっていく訳か。本当に変な街だよなあ、ここ」
「全面的に同意するけど、楽しいぞ?」
「まあ、うん。楽しそうだな」
案内されるまま素直に奥に入って行けば確かに魔力が濃くなっている。
魔力は目に見えないし触れることもないけど、魔導師ならば感じることができる。魔導師でなくても、これだけ大通りと差があれば感じ取れると思う。それ程、大通りと裏通りの差が激しい。
ラジェルにも言ったけど、本当に変な街で、楽しそうだ。


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