夜の街の魔法使い・星を掴む人 17



押し切られる以前の問題だった。
イイ男の生着替えをうっかり見届けてしまって、気がつけば着替え終わって私服になったラジェルになぜか街を案内されている。
押しに弱いと思ったことはないけど、呆然としている間に全てが勝手に決まっていたらしい。
あの宿に一泊して、工房区に向かうのだと。
ユティの隣で楽しそうに歩くラジェルを見てひっそりと溜息を落とす。
見知らぬ街だから案内がいるのは正直、嬉しい。でも、相手による。
ラジェルは嫌いではないけど、面倒そうな背景がどっちゃり山盛りで・・・困る。
しかも、ラジェル本人も結構いろいろ山盛りみたいだし。
あの生着替えで判明してしまったのだ。
ユティに隠す気がないのか、服を脱いで私服に着替え終わるまで、十種類以上の武器を内側に仕込んでいたことを。
上級魔導師で、ツィントが二番目、なんて言っていたからかなり強いだろうに。
「普通に強いのに、そこまでするか?」
「何事も用心ってな。ユティだって仕込んでるだろ」
あの露店のクレープが美味いんだ、なんて言っているラジェルを見上げて、さらりと聞いてみれば、驚かれることもなく逆にさらりと返されてしまった。
「そう言われると、なあ」
確かにユティも仕込んではいる。武器ではなくて、装飾品だけど。
ラジェルと再会して、無事疑いも晴れたから装飾品も普段と同じにした。
指輪とブレスレットにネックレス。ちょっと重いけど、これに慣れているから落ち着く。
お互い様、には違う気もするけど、そう言われてしまうと納得するしかない。
むう、と唸ればラジェルがふわりと微笑んで、ユティの胸の中心を突いた。
え、まさか。
「見えてる分より隠してる方がすごいんだもんな。俺も知らなかった」
「・・・おい」
服の下に隠して身につけている、ユティのとっておきがバレている!
な、なんでバレてるんだ。
隠している上に封印布で厳重にくるんで魔力を外に出していないはずなのに。
驚いてラジェルから一歩下がれば、なぜか慌てて手を捕まれて引き寄せられる。
「悪い、外で言うことじゃないな。でも、俺も知らなかったって言っただろ。それに気づいたのは師団長の知り合いって言うか、まあそんな感じの人だ。ユティを探すのに協力してもらって、気づいたんだって。ああ、ユティのことは知らない。探すのだけ協力してもらったって言うか・・・そもそも人じゃないから大丈夫」
咄嗟に警戒して離れようとしたけど無理だった。
抱き寄せられて耳元に小さな声でとんでもないことを囁かれる。
どう言うことだそれは。視線だけでぎろりと睨み上げれば離してもらえないまま、通りの隅に引きずられる。
外は魔法の灯りである程度は明るいけど、通りの隅に、建物の影に入れば真っ暗だ。
「何で言わなかったんだよ」
「忘れてた。俺の直接の知り合いって訳でもないし、言っただろ、人じゃないって。師団長の知り合いの・・・まあ、精霊みたいなもんだよ」
「怪しいな・・・俺のこと、知らないってのは本当なのか?」
師団長しか知らないと言っていたのに。部下であるツィントにもユティが星を掴む人だとは言っていないと、信じたのに。
暗闇の中で睨み上げれば苦笑する気配があって、なぜか軽く抱き寄せられる。
さっきから接触が多いっての。
「あの人にとって人間の行いはどうでもいいんだと思うけど、師団長には口止めをお願いしたから、言っていないはず。あの人、怖いけど口は硬いし、約束は守ってくれるから・・・俺にはそれしか言えないけど、な」
どうしてもラジェルの言う師団長には『怖い』がつくらしい。あんなに強かったのに、と思えば自然と頬が緩む。
問いただしたいことではあるけど、厳重に秘密にしている訳でもないし、最初にラジェルに言ったのはユティだ。
「分かった、信じる。だから、いい加減離れろ。さっきから接触が多くないか?」
とん、とラジェルの腹を押せば素直に離れた。
いつまでも暗闇にいるのも変だし、通りに出れば隣を歩くラジェルが近い距離で、妙な笑みを浮かべた。ん?
「俺、結構有名なんだよ。だから、一緒に歩くならくっついてた方がいろいろ言われなくてすむ。ほら、結構噂されてるし」
ああ、なる程。この街のことはまだ分からないけど、あちこちで第一師団の、とか、ラジェル様が、だの、恰好いいだの・・・。
「分かった。とりあえず殴らせろ」
「痛いから嫌。それに、ユティの力じゃ殴っても自分の拳が痛くなるだけだと思うぞ」
相手は上級魔法剣士でユティは下級魔導師。力でも魔法でも適わないし、生着替えで見てしまった身体は確かに硬そうだった。
納得はするし、ラジェルの声は馬鹿にしたものではないけど、生温い妙な温度を感じたので軽く指輪に触れてから、背中を叩く。
ばしん、と、とてもいい音がした。
「いってっ・・・・!な、何だその力・・・・っ」
「ふん。弱くてもそれなりに仕返しはできるんだよ。覚えとけ」
指輪にある魔力を手の平に混ぜただけだ。ユティ専用の指輪だからこそできることで、もちろん使った魔力は後で補充しなくちゃだけど、気がすんだ。ざまあみろだ。
涙目になりながらもユティの側から離れずラジェルを見上げて、ふふんと微笑んだ。


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