夜の街の魔法使い・星を掴む人 14



星を掴む人は滅多にいない。けれど、星の価値を知る人はそれなりに存在する。
魔力を溜めた星が高価だと言うことが知られている。
宝石や装飾品にもなる星は魔法の媒体にもなるし見た目も良い。高価と言うだけでなく、魔力の多さや美しさに惹かれる魔導師も多い。
「夜の街で変装するハメになるとはなあ。しかも別件で、濡れ衣で」
星じゃなくて、ラジェルの所為だなんて。
今まで、何度か星を巡る騒ぎに巻き込まれて変装を強いられたユティだけど、今回は微妙な気持ちだ。
いっそ堂々と騎士団本部に名乗り出た方が早いのかもしれないと、今になって思う。

あれから2日が経っていて、既に街の入り口から東側に移動している。
この辺りまで来ると旅人らしき人は減り、街の住人が多くなる。ローブ姿の魔導師や騎士の姿は多いけど、それ以外は住人らしき人達だ。
今日のユティも街の住人に見える様な服と、色眼鏡をしている。
装飾品は目立つから引き続き袖の長い上着で隠しているけど、指輪は少し復活した。落ち着かないのだ。
「話しには聞いてたけど、ホントに雑多だな、この街」
商業区だけあって大通りには店が並んでいて賑やかだ。
露店も多く、惹かれる商品も多いけど、つい目がいくのは人の方だ。

この世界には沢山の種族が混ざっているけど、人の街で暮らす他の種族はそう多くない。
代表的な種族は人の形をしながら動物の耳や尻尾を持つ、亜種だろうか。
ユティの側を犬の耳を持った女性が通り過ぎた。ふわりとして可愛らしいけど、亜種の人々は生まれつき魔力が強い。
全て上級魔導師より数段上の魔力を持つけど、彼らは魔導師として活動はしない。
全員が強いのだから人の様にランク付けする必要がない。勝手に動くだけだ。
彼らをなぜ亜種と呼ぶのかと言えば、精霊の一種でありながら人に近い姿で生まれてくるからだそうだ。
精霊亜種、が正解かもしれないけど彼らは自らを亜種だと名乗る。
他にも数は減るが魔物に近い種族、魔族やユティ達には理解に及ばない種族もいる。

そう言えば夜の街には精霊や神格付きもいると聞いている。
不躾だから話題には出さないけど、彼らは滅多に人と共に暮らそうとは思わない種族のはずだ。
流石、夜の街。初日の騒ぎで少々気が滅入っていたけど、こうして街の内部に入って雑多な人々や商品を見ていれば、わくわくしてくる。
それに、夜の街はずっと行きたいと思っていた街なのだ。
「やっぱ楽しまないと損だよな。早く準備もしたいし」
小さく口元で笑んで、ゆっくりと辺りを見ながら歩く。
この辺りは小さな宿や店が並ぶ大通りだ。今日の宿はここにしようか、それとも、もう少し進んでからにするべきか。
ユティとしてはこの先にある魔道区に行きたいけど、少々遠い。
眠らない街だから移動するには困らないけど、気をつけて時間を見ないといろいろと危険だ。
夜の街に時間の経過を体感できるものがないのだ。
普通の街だったら朝日の眩しさや昼の気温、午後の風で時間を体感できるけど、ここには全てがない。月の色は変わっても、他は何も変わらないのだ。
慣れるまでは少し慎重に動いた方が、と時計と睨めっこしていたユティは進むのを止めて宿を決めることにする。
体力はある方だけど、どうもこの街は勝手が違う。
ラジェルが言っていた通り、夜だけと言うのも慣れるまでは大変そうだ。
大通りの宿だと発見される確率が上がるから、一本裏に入った所で探す。
一本くらい裏に入っても治安はそう変わらないし、店も減らない。選ぶ余裕まであるのは有り難いことだ。
「うーん、どうせ明日には出るし、どこでもいいんだけどな」
荷物を置いて、周辺を散策したら明日には出立する予定だ。
吟味する必要はないけど、ある程度しっかりした宿がいい。
裏通りに並ぶ店と宿を見ていたら前方がふいに騒がしくなった。
何だろう、揉めごと、ではなさそうだ。ざわめきの中に感嘆の声が多い。
そして、声が聞こえてくる。ざわめきの中なのに通る、聞き覚えのある声。
「ここも外れか。ったく、この馬鹿、阿呆!ユティに再会する前に愛想尽かされたらどうすんだよ!」
「私が外出している間にナンパするからでしょ。まさか店の名前まで教えてるなんて知らなかったし」
「外出してたんだから当たり前だろうが馬鹿野郎。名前くらいで警戒する方が悪い」
「ええ、悪いのは全部私だから、ほら、行くよ。魔導師が泊まりそうな宿、しらみつぶしに探すんでしょ」
「ああ、当然だ」
まさか。何でこんな所に。
いや、ユティを探しているのか。
驚いて、ざわめいている方に向かえば人だかりができていた。
その中心に、ラジェルとあの男が2人で歩いていた!
「な、なんで・・・」
しかも、ただ歩いているだけじゃない。2人とも妙に目立つ、白地に銀の文様のある騎士服姿だ。
何だあれ。別の意味でも驚いていれば、周りの人々の声が聞こえる。
最上級の、礼服?あのキラキラしたのが?
いや、驚いて呆然と眺めている場合ではない。ラジェルが近くにいるのだ。これでぶん殴れる。
人だかりはラジェル達を囲んではいるけど、近づけてはいない。好都合だ。
人をかき分けて、ぽっかりと空いている野次馬とラジェルの間に入った。


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