夜の街の魔法使い・星を掴む人 08



ふ、と息を吐いて疲れたいろいろを空気に混ぜて出す。
「・・・これで、終わり・・・結界、いいぞ」
できあがった、掴んだ星はそのままにラジェルを見て声を出す。がらがらだ。
1人の時は直に星を仕舞って水を飲むけど、今日はラジェルがいる。結界を張ってもらって、できたての星を見せるつもりだ。
ラジェルは分かったのか分からないのか、慌てて結界の、かなり強力なものを2人の周りに張った。流石に上級だ。直にできあがるし、強力だから結界の内で何をしても魔物に気づかれそうにない。移動テントみたいな感じだ。
結界の力を確認したラジェルが今度は水筒を出して差し出してくれる。慌てていて、ちょっと面白い。
「だ、大丈夫か?がらがらだぞ。ええと、水飲むか?いや、テント作るか?」
「大丈夫だよ。今日は短い方だし。はい、これが星だよ。もう掴んだ後だから、持ってもいいよ」
「うおっ!」
今回の掴み終わった星はユティの手の平で小さな宝石になっている。中々に良い感じだ。
草原地帯の魔力が良いからだろう。満足だ。
この星が目的だったラジェルに渡せばすごく慌てられて、水筒を落としそうになるからユティも慌てて支える。
「ご、ごめん・・・いきなりだったから驚いた。これが、星なのか」
できあがった宝石は大きくはない。豆粒くらいの大きさで、淡い黄色だ。
魔力をたっぷり溜め込んだ星の石はかなりの高値で取引されていて、だいたいが魔道具の一部になる。これもそうだ。
ラジェルは渡された星の石を手の平に乗せて、大切そうに指先で触れては感心している。
「うん。今回は宝石になる様にした。他にもいろいろな形になる。それぞれ詠唱が違うんだ」
今回は短めで、様子見だったから星を掴む方法の中でも簡単な詠唱にしたのだ。
他にもユティができる詠唱は幾つかある。今身につけている装飾品は全て星で作ったものだ。
星の石に触れていたラジェルがとても大切そうに、両手で持って石を返してくれて、なぜだか両方の肩をがしっと掴まれた。
「なあ、ユティ。街に入ったら是非とも話しを聞かせてくれ。俺、結構強い自信があるし、俺より強い人もいっぱい知ってるけど詠唱をあんなに重ねられる人にはじめて出会った。頼む!ユティが街に滞在するなら宿代くらい出すし、他にも何かあれば全力で協力するから!あ、いや、秘密なら聞ける所まで聞かせてくれ!」
「へ?」
すごい勢いだ。星を掴む詠唱はどうやらラジェルもがっちり掴んでしまったらしい。
勢いの強さに呆然とラジェルを見上げたユティは数秒かけて、やっと言葉を理解して、小さく微笑む。
「別に、秘密なんてないよ。覚えられるかどうかは別だけど、教えてほしいなら構わないよ。ただ、夜の街には暫く、数年くらい滞在したいからお世話にはなると思う。奢ってくれなくていいから、俺にもいろいろ教えてくれ」
星を掴む方法や、重ねる詠唱に秘密なんてない。壊れれば説明するし、教えもする。
それが身につくかどうかは別だし、そもそも本気じゃない人には教えないけど。
ラジェルなら直ぐ覚えられそうだし、ユティも夜の街に詳しい人を捕まえておきたい。
ラジェルを見上げたままにっこりと微笑めば同じ笑みが返ってくる。いや、ユティの笑みより数段輝きが増している。
「ありがとう、ユティ。それじゃあ、これから、改めてよろしくな」
「ああ、よろしく、ラジェル」
ラジェルが手を差し出すから軽く握手して、周りに警戒しながら引き続き夜の街に向かって歩き出す。
夜の街まで、もう少し。


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