夜の街の魔法使い・星を掴む人 05



網が活躍するのは夜から朝方の、闇が深くて魔力が満ちた時だ。
夜空に浮かぶ星に紛れて、違う星が浮かぶ。それを網で絡め取るのだ。
網の作り方、星の絡め取り方、それぞれがやたらめったら面倒なので、使う人は滅多にいない。 滅多にいないから、恐らく口で言っても信じてもらえない。今まで何度か説明を試みたことはあるけど、散々な結果だったからあえて説明はなしだ。
ラジェルには夜に草原で網を使うとだけ告げて、完成品はできればその時に、と告げたら二つ返事で了承された。夜の街の人だからひょっとしたら知っているのかもしれない。
説明した方が早いかな、と思ったけど、楽しみはとっておきたいんだ!と力説されたからラジェルには夜まで草原の案内をしてもらうことになった。
ついでにラジェルの目的である植物も探すみたいだ。

食事を終えて、草原に戻れば昼前と変わらず魔物だらけだ。草木が生い茂って綺麗ではあるけど、魔物も中には綺麗なヤツがいるけど、改めて思う。難易度の高い草原だ。
「俺が探してるのはこの草原地帯にだけ生息してるやつだ。朝焼け赤の実(あさやけあかのみ)って言う変な名前の草の実だ」
「何その名前。確かに変だけど、草ってことは地面?」
「ああ。それもかなり小さいから見つけるのにいっつも苦労してる。魔法の道具になるんだ」
「へえ。俺も欲しいな」
話ながら歩いているけど、ラジェルの魔法で魔物には気づかれない。
ラジェルはユティよりかなり強いから、攻撃だけでなく補助や回復魔法なんかもすごい。
有り難く恩恵にあずかって、1人の時より堂々と歩いている。まだ夕暮れまで時間があるから、夜の街に進みつつあちこち見られそうだ。
「お、飴色木の実発見。これ美味いぜ。ちょっと待ってろな」
「ん?飴色木の実?まさか、それが正式名称なのか?」
「そう。言っておくけどこの辺りの動植物は全部変な名前だぞ。何でも生態系が他と全然違うんだと。だから他と被らない名前なんだってよ」
歩いていたらラジェルが背の低い木の前で立ち止まった。妙な名前の木の実、は美味しいらしい。
渡された木の実は確かに飴色で、しかも木の実なのに透き通っている。大きさは指先くらいで、それも飴みたいだけど美味しいとは全く思えない。そもそも木の実だとは思えない。
手の平で転がして眺めていたら自分の分を取ったラジェルがそのまま口に放り込んだ。
「見た目は微妙って言うか木の実じゃないけど、立派な木の実だぞ。たぶん」
「たぶんかよ・・・んー・・・甘酸っぱい。美味いけど微妙な気持ちになれるな、これ」
「こう言うモンだって思えば慣れる」
味はよくある木の実そのものだ。見た目が変なだけ、なのだろうか。
幾つか取って、食べながらまた歩く。
他にも変わった植物や巨大な魔物、小さな魔物を紹介してもらって、歩みは止めないで夜の街の方へ向かう。
ラジェルの魔法のおかげで喋っていても平気だからいろいろ話もして、結構楽しい。
上級の魔法剣士だけあって話題も豊富だし、この草原地帯に詳しいみたいで助かる。
夕暮れ近くになってラジェルが探していた朝焼け木の実も見つかった。小さな実なのに名前の通り、朝焼け色だった。1つの実なのに深い青から鮮やかな薄紅色になっていて綺麗だけど、ちょっと怖い。
「本当に変わったのばっかなんだな。でもさ、朝焼けって言ってたけど、夕暮れ色にもなるんじゃないか?」
少し分けてもらった実を手の平で転がしていたら夕暮れの空を見上げたラジェルが小さな木のみを指で摘んで空にかざした。
「確かに色は同じだな。俺達は朝焼け木の実って名前で覚えてるだけだけど、何か意味でもあるのかな。ユティに言われてはじめて気づいた。ああ、そう言えばユティの瞳も朝焼け色だな。綺麗だ」
そうして、ユティを見て微笑む。いい男がユティを見てそんな顔をしないでほしい。思わず見惚れて、慌てて首を振る。
「褒めてくれてるんだろうけど、何も出ないかんな」
「何だ、残念。いや、俺にとってはこれから貰う様なもんだな。ユティは星を掴む人なんだろ?」
・・・やっぱり知ってたか。あっさりと言われて、軽く頷けばラジェルも嬉しそうに頷いた。


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