ネコとオオカミの春夏秋冬、サンプルです。こんな感じでまったり続いています。



簡単な説明いろいろ
■世界>ファンタジーでケモミミで魔法があって魔物がいます。ケモミミは人口の三分の一にある様子。ケモミミがあると魔法が使えます。でも勉強すれば普通の人も使えます。

■出て来る人達
○ネア>白いネコ。ふさふさの耳と尻尾で髪の毛も白。目だけが青の美人さん。長身で25 歳。
○レテック>白いオオカミ。もさもさ・・・ふさふさの耳と尻尾。色は全てネアと同じ。長身で男らしい男前。24 歳。ネアとレテックの二人で焼き菓子屋の移動式ワゴン店をやってます。
○黒ウサギ>焼き菓子屋の右隣で珈琲屋をしている少年。元気いっぱいで生クリーム大好き。
○お爺ちゃん>焼き菓子屋の左隣で紅茶屋をしているお爺ちゃん。穏やかで甘過ぎるお菓子が大好き。
○セベル>レテックの末の弟でクリーム色の垂れ耳ワンコ。尻尾もクリーム色。





ネコとオオカミの春夏秋冬


目が覚めると同時に抱き枕にしている恋人の体温を感じて直ぐに眠たくなる。うう、と軽く唸ったネアは抱きついている抱き枕の胸板に頭突きをして、もそりと起き上がる。ベッドは二人用で広さはあるけど、どうしてだか目が覚めると中央に二人絡まって眠っている。不思議だ。起き上がって耳と尻尾をぶるりと振るわせれば気持良くてようやく目が覚める。
ネアの耳と尻尾はネコで真っ白でふさふさだ。髪も白だからネアは真っ白で、瞳だけが青い。肩に届くくらいの髪を大ざっぱに撫でつけて、欠伸をしながら頭突きをしたのにまだ眠っている抱き枕兼恋人、オオカミのレテックをゆさゆさと揺さぶる。
「ふぁ・・・おーい、レテック、おーきーろー」
「・・・ぅ?」
レテックも耳と尻尾があって、ネアと同じ色でふさふさだ。しかも髪と瞳の色も同じである。真っ白くてふさふさしたオオカミの耳と尻尾。尻尾はネアの声に反応して寝てるのにパタパタしている。ちょっと可愛い。そしてネアより少し長い真っ白い髪にまだ閉じられている青い瞳。中々の男前だと思うけど体格も身長もネアとそう変わらない。若干レテックの方が大きいくらいだし、顔は全く似ていない。ネアは柔らかい顔立ちだけど、レテックは男らしい感じの整い方で、生まれる前からの付き合いではあるけど血の繋がりは全くない。
そんな訳で遠慮という文字はだいぶ昔に捨てているから、ぐらぐらと揺すって寝起きの悪いレテックを容赦なく突く。
「い・・・痛いぞネア。起きる、起きるから揺らすな気持悪い・・・うう」
「あはは、起きない方が悪いんだよーだ。おはようレテック、手入れしよう」
「へいへい。蒸しタオルを作るからちょっと待ってろ。ネア、水」
「ほーい」
やっと起きたレテックが尻尾をパタパタさせながら水を要求してくる。水を汲みに行くのではなくて、出してほしいと言う事だ。

この世界ではなぜだかオマケの様に獣の耳と尻尾を持つ人間がいる。
身体は人間だしちゃんと普通の耳もあるのだけれども、オマケみたいにネコだったりイヌだったり、いろいろな耳と尻尾がオマケでついているのだ。このオマケ付きの割合は人口の三分の一でそう珍しくはない。
そして、オマケ付きの由来はこの耳と尻尾がある事と、生まれつき魔法が使える事だ。ネアは水系統の、レテックは火系統の魔法を生まれながらに習得している。普通の人間だと精霊と契約云々とか面倒だけど、オマケ付きだから詠唱もなく生まれ持った力を使える。

ベッドの上で指先でちょいちょいと水を呼び寄せて魔法でまあるくしたままレテックの方に押してあげる。ふよふよと移動する水をレテックはタオルで受け止めてから炎の魔法で暖めて、蒸しタオルの完成だ。
ネアもレテックも髪はあまり長くはないけど、耳も尻尾もふさふさだから蒸しタオルがないと手入れができない。レテックがネアの耳の上にほかほかの蒸しタオルを乗せて、尻尾にも暖かいタオルを当ててくれる。
「あー気持いい。ふぁ、眠くなっちゃうなあ」
「俺を揺さぶっておいて寝るとは良い度胸だ。クリーム塗るから尻尾を持ち上げろ」
「おー」
ふさふさした真っ白い尻尾をパタパタさせつつ、持ち上げればレテックに先っちょを遠慮なく握られて手入れ用のクリームを塗られる。それから丁寧にブラッシングをしてもらって、耳も以下同文だ。全部終わればちょっとだけ寝癖のあった耳と尻尾が綺麗になって気持良い。
「さんきゅー、レテック」
お礼と朝の挨拶を兼ねてちゅ、と口付けて、今度はレテックの番だ。同じ様に蒸しタオルを作って耳と尻尾を手入れして。ネアよりもレテックの方が少し毛が長いので寝癖も多い。しかも頑固なので毎朝大変だけど手入れはされる方もする方も気持良いのだ。ネコとオオカミは見た目の差はないけど、若干毛質が違う。ネコの方が柔らかくてオオカミはやや固いくらいだけど。
「はい終わり」
「ああ、ありがとう、ネア」
今度はレテックからお礼の口付けを貰ってようやくベッドから出る。
オマケ付きの特典である耳と尻尾は一日三回の手入れが必要だ。それもたっぷりと時間を取らないと意味がない。手入れを怠ればあっと言う間によれよれになるし気持悪いのだ。
「今日は晴れた!良かった。昨日まで雨だったもんな」
「雨は面倒だからな。ほら、早く仕込みに行くぞ」
「分かってるって。今日は何にする?」
「そうだな、市場で買い込んだドライフルーツがあっただろう。あれを混ぜたパウンドケーキとプチケーキにしようと思う」
「じゃあ俺はマフィンとクッキーかな。雨上がりでお客さん増えそうだし」
手入れが終われば着替えだ。二人で住んでいるこの部屋は広くはないけれど丁度良い。これから仕込みをして出かけるから衣装は簡単に、それぞれ最後にエプロンを装備で完了だ。最後にお互いの耳と尻尾を軽くブラッシングしてからキッチンに向かう。
部屋の広さに反してキッチンが広めなのがまた良い。玄関とリビング、それにキッチンが同じ部屋になっていて、大きいテーブルは主に商売の為に使っている。二人は一緒に移動型のワゴンで焼き菓子屋をしているのだ。

ネアとレテックの住む街は首都から近い大きな街になる。政府機関が多くて、二人が商売をしている広場もその機関の一部、魔法を扱う魔法棟と呼ばれる大きな建物の裏だ。円形状になっている広場は魔導師や文官武官と盛りだくさんなお客にプラスして一般の人も訪れる。

ちょっと年期の入ったワゴンはオーブンがついている特注の物で、ガラガラと引っ張って広場まで歩く。オーブンには既にレテックが魔法で火を入れていて、仕込んだドライフルーツたっぷりのパウンドケーキとプチケーキ、それにネアのちょっと崩れたマフィンとクッキーが焼かれている。
焼きながら歩くから辺りには甘い匂いが風に乗って道行く人が偶に振り返る。朝から美味しそうな匂いを出しやがって、な視線だ。残念ながらまだ焼き上がらないので売り物ではないから尻尾でごめんと謝って先を急ぐ。

広場に到着する頃には一回目の焼き上がりの時間で、指定の場所にワゴンを止めていそいそと手袋を填めて取り出す。鉄板にずらりと並んだケーキその他は今日も抜群に美味しそうで良い匂いだ。
「ほかほか!いいねいいね、この焼き上がりを眺めるの大好き!」
「毎朝テンション上げてないで早く出してくれ、ネア」
「分かってる!」
ネアはこの焼き上がりの、鉄板を取り出す時が大好きだ。尻尾をご機嫌に振りながらはしゃいでいればレテックに尻尾で小突かれる。レテックの尻尾だってご機嫌に揺れているくせに。
全部を出して次の鉄板を入れれば販売の準備だ。もうちょっとでお客が来るから急がないといけない。
「ネア、ケーキは半分蜜がけな。マフィンは五個くらい蜜漬けで」
「おっけー」
ネアとレテックの店はとにかく甘さを重要視した焼き菓子が売り物なので、ケーキにもマフィンにもクッキーにもたっぷりと砂糖が使われているけど、さらに蜂蜜や特性の甘い蜜もたっぷりかける。
紙の箱にサイコロ状に切ったケーキを入れて、粉砂糖と蜜をかけるのが蜜がけで、同じ箱にあらかじめ用意してあるシロップを入れてケーキとマフィンを文字通り漬けるのが蜜漬けである。どっちも脳味噌に直接殴りかかる甘さとして主に文官や武官の人達に人気だ。
二人で尻尾を振りながらせっせと甘い匂いに囲まれて作業をしていれば他のワゴンのお店も来て準備をはじめる。
焼き菓子屋の右隣は黒ウサギの珈琲屋で、左隣はお爺ちゃんの紅茶屋である。どちらも移動式のワゴンで湯を沸かしながら広場に来て、到着したら準備をするから良い匂いがする。
「いい匂いがするな・・・ネア、俺、紅茶」
「あいよって、まだ終わらないから駄目だって。ほらお客さんも来てるぞ」
「後で買って来てくれな。おはようさん、いらっしゃい」
「わーってるって。いらっしゃーい!」
珈琲と紅茶の匂いがすればお客である出勤途中の人達が広場にぞろぞろとやってくる。この広場では焼き菓子や飲み物意外にも朝食や細々とした道具に衣類まで、いろいろなワゴンがあるから賑やかだ。お客も多いし、朝の出勤時間は忙しくなる。
「おはよー、いらっしゃい!お兄さんお疲れだから蜜漬けオススメするよ。今ならオマケで粉砂糖もかけちゃう!」
「いらっしゃい、いつもありがとうな。クッキーを二箱でいいのか?蜜はかけない?かけた方が美味いぞ。小瓶に入れてオマケするから持って行ってくれ」
ネアとレテックも行列を作ってくれるお客にせっせと焼き菓子と、言われてもないのに小瓶に詰めた特性の蜜を渡して、二度目の焼き上がりの時間になれば尻尾を振って甘い匂いに囲まれる。

結構な量が売れてほくほくだけれども、朝の通勤時間が終わればがらりと人が少なくなる。丁度三回目の焼き上がりの時間だ。
「三回目はクッキーだけ~♪お、いいねいいね、ちょっと焦げてるのが芸術だよな」
「失敗しただけだろ。味は良いけどな。ほれ」
「あーん、美味い!」
鉄板から用意してある大きな箱の上にざらざらとクッキーを入れて、焦げた一枚をレテックが食べて、ネアの口にも放り込んでくれる。さくさくして甘さの強いクッキーはとても美味しい。二人でご機嫌に尻尾を振りながらここで一休みだ。
レテックは次のオーブンに入れるケーキの材料を用意して、ネアは朝食を買いに行くのだ。いつもこの時間に朝食を食べて、昼も遅めになるけど甘い匂いに囲まれていると空腹感が薄れるので、まあ丁度良いのだろうと思う。
ふさふさの耳と尻尾を揺らしながら広場を歩いて朝の挨拶をしつつ、野菜サンドと肉サンド。それに焼き菓子屋の両脇で飲み物を買えばのんびり朝ご飯の時間だ。
それぞれのワゴンの店には自分たち用の小さな簡易テーブルと椅子を持っている。ワゴンの裏にテーブルと椅子を出して、どの店も大抵が同じ時間帯に食事をしながらまばらに来るお客の相手をする。この時間から昼までは本当に人が減るけど、ワゴンの店員達で買い物をするので丁度良い。
ネアも朝食のついでに食材屋のワゴンで砂糖と蜂蜜を買うし、両隣の店と仲が良いから頼まれ物や頼み物もする。もちつもたれつだ。
「今日はイイ天気だなー。眠くなりそう。もう春だもんな~」
「雨が続いて寒かったから丁度良いな。何でネアはブラック珈琲なんだ、苦いだろうに」
「飲み物は甘くないのが好き。レテックはミルクたっぷりだよな。それいっつも紅茶屋のお爺ちゃんに笑われるんだけど紅茶味のミルクだよな」
「俺はこれが好きなんだ」
ゆったりとした時間に飲み物を味わいつつ、ほっと一息吐いて、けれど店は中々に忙しいのだ。昼にもまたお客が増えるし、お八つ時には配達もする。夕暮れ時になれば帰る人達でまた混むし、一日中オーブンを稼働している状態だ。
昼までに用意しなければいけない材料を捏ねたりオーブンに入れたりしながらちらほらと他のワゴンのお客も来る。
「おっはよー、今日もイイ匂いでつい買っちゃうんだよねー。クッキー一箱と、やった、ケーキ残ってる!ケーキもお願いね」
「おっす、ありがとなー。オマケいる?」
「それはいらない。でも生クリームほしい。今日はどこにあったっけ」
「生クリームなら反対側のタルト屋にあったと思う。俺の分も買って来て」
「いいよ。買えたら持って来てあげる。じゃあね~」
元気の良いお客は右隣の珈琲屋の黒ウサギだ。常連でもあって付き合いも結構長い。そもそもワゴンの店は大抵が両隣と連携するから仲が良くないと続けていられないのだ。
ネアが黒ウサギにクッキーとケーキを渡していれば、レテックの方には左隣の紅茶屋のお爺ちゃんが来る。こっちも常連だ。
「爺さんおはよう、今日は何にする?」
「どれどれ、マフィンがいいかのう。蜜漬けはまだ残っているかな?」
「残っているな。粉砂糖は?」
「もちろん!」
紅茶屋のお爺ちゃんは甘党だから大抵一番甘そうなのを買ってくれる。ほくほくとイイ笑顔で蜜漬けのマフィンを買っていくお爺ちゃんを見送りつつ、他のワゴンの店員もちらほらと寄ってくれて順調な売れ具合だ。
焼き菓子屋の商品は基本的に陳列はしなくて、量り売りだ。全て紙の箱に入れて、お客が欲しがれば紙袋にも入れる。材料を捏ねつつちらほらと来るお客の相手をしていればあっと言う間に昼になって、また人が増えたまま、気づけばお八つ時にもなっていて慌ただしい。
「どれ、そろそろ配達の時間だな」
「もうそんな時間か、早いなー」
配達は目の前にある魔法棟だ。魔力を使って仕事をする人達は甘党が多くて良いお得意様である。今週はレテックが配達当番なので、バスケットの中に指定されている焼き菓子を小分けにして入れて、粉砂糖と蜜の小瓶も沢山用意する。
用意が終われば出発だけど、その前にネアが両手を広げて、レテックが抱きついてくる。ふんふんとお互いの匂いを嗅いで、ネアからレテックの頬に口付けて。
「戻ったら手入れしような。耳も尻尾もくたくたしてる」
「お互いにな。行ってらっしゃい」
「行ってくる」
毎日の儀式を終えてから出発だ。そんなに長い間離れる訳ではないけど、一度くっついておかないと落ち着かない。尻尾をゆるやかに振りながら魔法棟に向かうレテックを見送っていれば両隣から黒ウサギとお爺さんの笑い声が聞こえてくる。これも毎日の事だ。

こんな感じで慌ただしい一日はあっと言う間に夕暮れになって、街頭に魔法が灯れば店仕舞いになる。移動出来るワゴンは片付けも直ぐで便利だ。周りの店に挨拶しながらガラガラと広場を出れば夕食時を少し過ぎた時間で腹も減る。
「今日は忙しかったな。夕飯が面倒だ、食って行くか?」
「うーん、家でゆっくりもしたいし、買って帰るのはどう?」
「そうだな。じゃあ酒も買うか」
料理は出来る二人だけど基本的に焼き菓子以外はあまり作らない。時間のなさよりも疲れが大きいからで、大抵が酒場に寄るか食堂で持ち帰りを頼むかだ。今日は家でゆっくり耳と尻尾を手入れしたいからと簡単な夕食を買ってくたくたになって部屋に戻る。
ちゃっかり新しい酒の瓶も足してあるから、まずは風呂に入って一日の疲れを落として、夕食を取り手入れをしてベッドに入る。ベッドに入る頃には眠気が勝ちすぎてぐらぐらしているけど、沢山のお客に喜んで貰えるのは嬉しいし、二人一緒だから幸せも多い。
抱き合って口付けて満足してすとんと眠る。尻尾だけが少しの間パタパタとシーツを力なく叩いてから動かなくなって、寝息が響けば柔らかな夢の世界に飛び込んで行く。これがネアとレテックの日常だ。




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