カラメルメロンの半分くらいです。R18ですのでご注意下さいませ。



人通りの増えた街道を歩きながらふと仰ぎ見れば数日ぶりに街の入り口が見えた。
煉瓦造りのアーチの向こうはセグラの王都だ。

温暖な気候と豊かな大地を持つセグラは平和な大国で旅人の出入りも多い。王都ともなれば街の広さもかなりのもので、当然ながら国の中で最も旅人の出入りが激しい。
煉瓦のアーチは巨大な建造物で関所になっている。荷物を抱えた者に鎧姿の集団、身軽そうに見える者は恐らく近隣から遊びに来ただけか、王都に帰ってきたか。
特に入国規制のないセグラだ。関所の空気は明るく開放的な造りで、どの窓口も長蛇の列だ。

そんな中、列のない窓口も幾つかある。端の方にひっそりとある窓口は一般向けではない。使用できるのは国付きの役人や軍人、特殊任務や荷を持つ商人と一定以上の地位の者になる。
その窓口の前に明るい色の旅装を纏う青年が立ち、首から下げる細い鎖を出す。その先にはミスリルと言う珍しい石で作られた小さなプレートが下がっていて、剣と杖の混じった文様が掘られている。プレートを見た窓口の係員はにこやかに少年に応対する。
ミスリルのプレートは世界共通で、ギルドと呼ばれる組織に属する者が持つ身分証で特殊な職業になるからだ。
「ようこそセグラへ。えーと、フィナさんですね。ギルドは中央部になりますので今からでしたら夕暮れには着きますよ」
「サンキュ。大国、セグラの王都だけあって広いな。地図とか貰える?」
「ええ、こちらが王都の地図です。では、良い一日を」
フィナと呼ばれた青年はにこりと笑みを浮かべて差し出された書類にサインをすると、地図を貰って関所を出る。

王都だけあって人が多いが、その中でもフィナは目立つ。珍しいストロベリーブロンドの髪に男と分かるもののどちらかと言えば女性寄りな甘い風貌だからだ。旅装ではあるものの、目立つ荷物は肩から提げた頑丈な袋が二つだけ。その一つが魔物から剥ぎ取った換金物を入れる袋だから余計に目立つ。この袋も世界共通で、魔物袋と呼ばれるものだ。頑丈な皮と少しの魔法を込めて造られいて、袋の目立つ場所に魔物を示す文様が焼き印されている。魔物袋はいろいろな意味で危険だからだ。
「ギルドは王宮の方か。換金したらまずは酒だな」
にんまりと口元緩めて地図を確認し、丁寧に折りたたんで仕舞う。長旅だったからまずは酒とばかりにいそいそと歓楽街へ足が向くが、その前に宿を決めないと落ち着けない。
王都にはいくつかの歓楽街がある。フィナが決めたのはギルド近くの歓楽街で、ここは宿屋と商店街も隣接している。
「しっかし賑やかだな。まだ朝なのにすげえ人。ま、観光がてらゆっくり行くしかねえかな。うん、今日もいい天気だ」
ギルドの近くと言うことは到着が夕暮れ近く。それもまあ構わないかと人の多い街並みを眺めて、そのまま空を眺めて通行の邪魔にならない様に背伸びする。
王都は気温差の少ない穏やかな気候で気持ち良い。暫くはゆっくり滞在するのも悪くないかなと思いつつ、通りの店から漂う良い匂いについふらふらと吸い寄せられた。



カラメルメロン



ギルドとは世界のどこにでも存在し、腕の良い魔導師・剣士・魔法剣士を抱える組織だ。
主にギルドを通して依頼し、解決して報酬を得る。
依頼は戦闘に偏ってはいるが、街の外に溢れる魔物退治や護衛に国から依頼される用事等、様々な依頼で溢れている。けれどギルド員になるには試験があり、大国の騎士以上の力が要求され、ある程度の素行調査も行われる。

狭き門であるギルド員には目印があり、全員が首から下げたプレートを持つ。このプレートに剣の文様があれば剣士を代表とする武器のみを持つもの。杖であれば魔導師。その両方があれば魔法剣士となる。
着用義務はないが再発行にはかなりの時間と金額がかかる為、大抵は肌身離さず持っている。フィナは服の下に仕舞い込むが、そのまま下げて見せる者も多い。割合は半々と言った所だ。

ある程度の強さと素行調査による経歴を持つギルド員は組織の規模に比べてかなり少ない。当然ながら普段の旅でギルド員を見かけることはあまり多くない。慢性的に人手不足なのがギルド員だ。
それでも大きな街や国になれば人数が増える。もちろんここ、セグラも数が多く、ギルド側の酒場にも結構な人数がいる。
「お兄さんもギルドの人なのねえ。若くて可愛いのにスゴイわね」
「どうせなら恰好良いって褒め言葉がいいな、綺麗なお姉さん。おかわり♪」
「そうだねえ。若くて可愛くて酒豪だよね。まあ強そうだから構わないけど」
街に入って、夕暮れまで王都を散策しながらギルドに辿り着き、適当に宿を決めたフィナは早速酒場に繰り出している。カウンターの真ん中を陣取って酒場のお姉さんを独り占め。なかなか良い気分でお姉さんも目立つ風貌のフィナの相手をするのが楽しいらしく笑みが多い。

軽く風呂にも入ってこざっぱりとしたフィナはここでも目立つ。輝くストロベリーブロンドの髪は肩の辺りで跳ねているのに柔らかそうで思わず触りたくなる質で、柔らかい印象はないのに微笑むと途端に可愛らしく見える。
若く見えるフィナはどの街に行っても十代後半と言われる。
大陸毎に多少違うが成人は十五歳。一応成人していると見なされるから酒場で止められることはないが、実年齢は二十四歳だ。
酒を止められない限り訂正するのも面倒だと、この酒場でも恐らく十代後半の駆け出しギルド員に見られているだろうと思われる。笑みの多いお姉さんのオマケも多いからだ。有り難くオマケである肴を摘みつつだいぶ気分も良くなってきた。

世界中を旅するフィナにとって人の多い酒場は久しぶりで少しばかり羽目を外しそうでもある。視線をぐるりと酒場に移せば奥では露出の高い衣装を纏った踊り子が怪しく舞っているし、満席に近い酒場の中にはフィナ好みの人もちらほらと見える。
「まあお兄さんなら目立つし直ぐにお相手は見つかりそうだけどねえ」
「バレたか」
「踊り子より客席を見てる方が多いんだもの分かるわよ。だったら話を通しても良さそうね」
「はなし?」
お姉さんが小さなメモ用紙をフィナに差し出す。周りから見えない様に見れば二階にある個室の番号と、名前が書いてある。当然ながら知らない名前で、首を傾げればお姉さんが違うメモ用紙にさらさらと書いてくれた。どうやら声に出すのはダメらしい。
走り書きのメモを統合すると、セグラの第五王子であるレノカ殿下がお忍びで遊びに来ていて、二階の個室にいるらしい。で、フィナをご指名とのことだ。
もちろん個室に呼んでお話するだけじゃない、夜のお誘いだ。そして、殿下の名前の横に超美人と言う文字と遊び人と言う文字が書いてあるのが気になる。男で美人で遊び人なのか。
「・・・ふうん。これって断ってもいいのか?」
読んだメモを仕舞ってお姉さんを見上げれば頷かれる。一晩のお遊びはこんな感じでお姉さんを通じてのことが多い。フィナは男女の拘りはないが旅の後は男の方が好きだ。疲れが溜まってるので楽に気持ち良くさせてくれる相手が好きとも言い換えられるが。
「お兄さん、見た目いいからねー。まあ評判は良い人だし身分もしっかりしてるから見学するつもりで行ってらっしゃいな。何かあったらカウンターに言ってくれれば対応できるからね」
「頼もしいな。お姉さんから聞くと大丈夫そうだし、折角だから行ってみるか。サンキュ、美味かったぜ」
酒もそこそこ入って気分も良いし、大きな街でゆっくりできるから気持ちがふわふわしているのかもしれない。それも良いかとお姉さんに微笑んでカウンターから二階に移動してみることにした。

全ての酒場に二階がある訳ではない。むしろ数は少ないだろう。発散したければ娼館にでもいけばいいからだ。ではどうして二階があるのかと言えばこんな風に高貴な人がこっそり利用したり依頼で利用したり、まあそれなりの用途がいろいろある。
「流石、大国セグラ。防除防音魔除け、がっちりだな」
騒がしい一階と違って二階は静かだ。廊下はそう広くないものの、造りはなかなかに高そうでがっちりと様々な魔法で固められている。娼館と最も違うのはこの防音だ。

静かな廊下にフィナの足音だけが響く。部屋は扉に小さな番号が刻まれているから指定された番号の前で止まる。一応気合を入れる意味で深呼吸して、刻まれている番号を指で押す。防音されているから、番号を指で押して内の人に知らせる。これも魔法だ。
「入れ」
程なくして扉が開いたと思ったら見上げる大きさの厳しい顔をした男がフィナに顎で指図する。確か男で美人で遊び人と聞いていたのに全く違う。これじゃあ詐欺だと部屋に入らないでいたら小声で護衛だと言われた。そうか、殿下だから護衛付きなのか。
「レノカ殿下は奥の部屋だ。余計な真似はするなよ」
「へいへい」
見た目通り固そうなヤツだ。殿下から指名したのにすごい睨まれている。護衛付きなのは仕方がないと思うが良い気分じゃない。さっさと美人な殿下を見て気に入らなかったら酒を飲み直して寝てしまおう。そうしよう。

固い護衛をすり抜けて奥の扉を叩く。部屋の中は普通にノックが届く。と言うかこの部屋は複数あるのか。豪華だなと関心しながら待っていれば扉が開かれて。
「お前か。武器は取り上げないが余計な真似はするなよ」
また固そうなでかいヤツに睨まれる。もう帰った方がいいかもしれないと、さっきまで飲んでいた酒の気持ち良さもなくなって睨み返せば奥から声がした。
「私から呼び出したのに失礼なこと言わないの。って言うか塞がないで。見えないでしょ」
「しかし」
「うるさいよ。もういいから出ていって。折角呼んだのに何もできないじゃない」
「ならばせめて武器の没収をさせて頂かないと危険です」
「大丈夫だって。ホントもう、出て行ってくれないと私が出ていくよ?」
のんびりした声がきっとレノカ殿下、なのだろう。その割には軽い感じだが良い声で良い感じだ。そして、レノカの言う通りデカイ護衛が邪魔で全く部屋の中が見えない。仕方がないので大人しく待っていればレノカに負けたらしい護衛が退いてくれた。きっちりとフィナを睨みながら部屋の隅に移動する。
「こんばんは。うん、可愛い美人さんだね。私がお誘いかけたレノカだよ。別に敬わなくて良いし、呼び捨てていいからね」
やっと奥の部屋が見えた。造りは普通の部屋で、入り口から真っ直ぐにソファがあってレノカ殿下、レノカがくつろいでいた。
艶のある黒い髪に金色の瞳。全体的に細いけどしなやかな印象で、確かに美人だ。フィナとは系統の違う美人で性別を間違うことはないだろうが間違う人もいるかもしれない。なぜならば衣装の露出が高い上に装飾品が多く本人と同じくらい輝いているからだ。
水色の衣装は質は良いだろうものの露出が高く、引き締まった腹と男だけど目を吸い寄せられる太股がスリットからちらりと見える。王子なのにこの衣装はどうなんだと思うものの似合っている。
「ご指名だって聞いたけど、俺でいいのか?」
「もちろん。名前を聞いてもいいかな?」
「フィナ。ホントにご指名だったんだ。まあ、ヨロシクな」
対するフィナは可愛らしい感じの青年で美人、にはちょっと手が届かない。造形は整っている方だがレノカに比べれば全然だ。服も旅装とそう変わらない普通のもの。腰に下げた剣は綺麗な装飾だけど。
「よろしくね。じゃ、早速だけどまずはこっちにおいでよ。いきなり食べたりしないから」
「そんな急にがっつかれるとは思ってねえけど、ホントにいいのか?」
にこにこと微笑むレノカが嬉しそうにフィナを手招きするから大人しく前に立つ。
言葉も態度も何も変えないフィナに護衛の視線が刺さるがレノカは構わないと頷く。
「いいの。王宮でも公式式典でもないし。いやあ、側で見ると可愛いねえフィナ。もっと良く見せて」
手を伸ばされて、逆らう気もないのでされるままに隣に座れば軽く抱き寄せられて、眺められる。美人は近くでも美人だしふんわりと良い匂いがする。
「さて、ここは酒場だし、分かってるよね?」
美人の微笑みは側で見ると威力が増す。しかも口説かれれば悪い気はしない。抱き寄せられたままそっと背中を撫でる仕草が明らかに誘っているのに自然過ぎて見事だ。
「もちろん。でも気乗りしなかったら断るのもアリだって聞いたけど?」
「だってお互い楽しみたいじゃない。でもね、確かにお誘いはしたんだけど他にも話しがあるんだ」
「へ?」
こんなに密着して他に何があると言うのか。不思議に思えば酒場のお姉さんに見せた時から出しっぱなしだったプレートに綺麗な指が触れる。
「酒場の二階で依頼かよ。そう言うのはギルドを通してくれよな」
「通す予定だけど、今は依頼前の調整をしている所だよ。ねえ、ちょっと触ってもいい?」
「ちょっとだけ、だったらな」
てっきり触るのはプレートだと思っていた。ギルドの印であるミスリルのプレートは珍しいものだし、そもそも数少ないギルド員の中で魔法剣士はさらに数が減る。
魔法と剣、身体の強さも兼ね備えていないと魔法剣士としては認められないからだ。
なのにレノカが触れたのはフィナの頬だった。包み込む手はフィナより大きくて、そのままするりと後頭部に移動した。柔らかく髪を触れて、口付けの体制になる。
そっちの意味での触れるだったのかと、紛らわしいやりとりに、けれど文句を言わず口付けを待つ。程なくして触れるだけの口付けをされて、レノカがにこりと微笑んだ。
「いいね、フィナ。私好みの身体だ」
「言い切るなよ。そんで、俺は依頼とアンタの相手と、どっちを優先すればいいわけ?」
「まずはフィナをもっと良く知りたいな。主にその可愛い顔でどんな風に乱れてくれるのかとか、きっちり着ている服の下とか素肌とか・・・ちょっとだけ戦闘経験とか」
「分かった分かった、思いっきり身体じゃねえか。ったく、だったら仕事は他のヤツをあたれよ」
「フィナみたいな人がいい。寝るのも仕事も。でもまあ強要はしないし、やっぱり楽しみたいからね。ベッドは隣でお風呂もあるよ」
「思いっきり誘ってるじゃねえか。俺も一応そのつもりで来てるからあんま文句も言えねえけど、まずは風呂だ。これでも今日、セグラに入ったばっかなんだから風呂に入らせてくれ」
「了解。楽しみだよ」
寝室も別にあるのか、ここは。酒場の二階なのにやたら豪華だと心の中で関心しつつ嬉しそうに寝室にフィナを案内するレノカについていく。歩く仕草も優雅で、フィナより頭一つ以上大きい。細身だけど殿下な割に鍛えられていると分かる動きだ。いったいどんなヤツなんだと思えば多少興味も湧くし、こんな機会はそうそうないだろう。元から楽をしたくて男を選んだフィナだ。仕事はともかく一晩の相手としてはかなり豪華だから楽しい夜になりそうだと、小さく笑む。



酒場の二階なのに風呂も豪華だった。宿とは大違いだ。ギルドの依頼で何度か豪華な館や王城に寝泊まりしたことのあるフィナでも感心する造りで、ひょっとしたらこの酒場の二階は王侯貴族専用かもしれないと思う。
しかしながら用意されていた着替えは大きすぎるバスローブで生地の向こう側が透けて見えると言うのは頂けない。さっぱりして寝室に戻れば大きいバスローブを羽織るフィナをレノカがじっと見つめてにやにやと笑む。
「これ、アンタのだろ。何で透けてるんだよ」
「それしかなかったの。フィナが着ると良い感じだね。お風呂上がりで艶々しているし、袖の余り具合が男のロマンだよね」
「そりゃアンタから見ればな・・・」
「アンタじゃなくてレノカって呼んでくれると嬉しいな。甘い声で」
「へいへい」
嬉しそうなレノカはベッドの端に座っているから真っ直ぐ歩いて行って、また抱き寄せられる。バスローブ越しではなく直接、薄い生地の下に手を滑らせて湿った腹に触れらた。
「やっぱりイイ身体してるね。いや、肌かな」
「よっぽどだな。まあいいけど、言う程イイ身体じゃねえぞ。逞しいって訳でもねえし、旅続きで手触りだって良くねえぞ」
「それがいいんじゃない。その若さでギルドのシプシンティ、上位五十人に入ってるんでしょ?ますます私好みだよ」
腹の辺りを撫でながらくつくつと笑むレノカにフィナの表情が変わる。
シプシンティ。それはギルドに所属する全ての者の、上位五十人に贈られる称号だ。この称号を持つ者はプレートの裏に順位が掘られている。
しかしながらシプシンティの存在を知っている者はそう多くない。ギルド員が自分で言わなければ順位なんて分からないし、この称号を持つ者はあまり自慢もしない。トラブルに巻き込まれる率が高いからだ。
知る方法は割と限られていて、にこやかな顔でフィナの腹を撫でるレノカを呆れた視線で見下ろす。
「風呂入ってる間にギルドに照会したな。時間外なのによくやるぜ」
「一応ね。これでも王子だし、あの固い人達が泣いてお願いするから。って言うか勝手に行っちゃったんだよ」
「あー、分かっちまうのがなあ。だったら知ってるだろ。俺の順位は三十九。下の方だぜ?」
順位は認定された当時のもので、自ら更新しない限り変わらない。数年前に訪れたギルドで贈られた称号と順位のままだから、更新すればきっと変動していると思われる。順位は変動するものだからシプシンティの圏外に落ちればまた勝手にプレートが贈られる。今の所それもないのでフィナの実力は上の下だ。
ちなみに、上位五十名ではあるが大凡の人数でもある。正確な数は知らないが恐らく十名前後の幅はあるだろう。
「上から三十九番目なのに謙遜するの?まあ今は強さより、身体だね。お風呂まで入ったんだし、もういいよね」
「いいぜ。そのつもりだし、期待してるぜレノカ。気持ち良くしてくれるんだろ?」
「言うね。これは私も頑張らないとだね」
ふふ、と微笑むレノカがフィナのガウンにある紐を引っ張って、立ったまま脱がされた。するりと元から肌の見えていたバスローブが床に落ちてフィナの裸があらわになる。
細身で鍛えられた身体は美しいけど傷跡も多い。するりとレノカが撫でて、今までの穏やかな笑みではなく男の笑みを浮かべて、フィナを引っ張ってベッドに転がした。
「いい眺めだね。裸にプレートだけってのもイイね。フィナ、綺麗だよ」
「そう言うアンタ・・・レノカもな。服は?」
「もちろん脱ぐよ。手伝って」
フィナの上に覆い被さったままレノカが衣装を脱ぐから手を伸ばして少しだけ手伝って、程なくして二人揃って全裸になる。寝室の明かりはレノカの身体をはっきりと見せて、かなりイイ身体をしているのが分かった。フィナより鍛えられているし細身の獣みたいだ。
「俺よりイイ身体してんじゃねーか」
「ありがとう。鍛えてないとあの衣装は似合わないんだよ」
「・・・そりゃそうか」
確かにあの露出の多い衣装は着る人を盛大に選びそうだ。納得すればレノカが笑って、ベッドの端にある装置で部屋を暗くする。魔法の一種で数は多くないがそれなりに普及している誰にでも使えるものだ。
「こんな感じかな。フィナ、いいね」
「ああ」
暗くなった寝室は空気が変わって、夜になる。レノカの手がフィナの頬に触れて、行為のはじまりだ。

夜になった寝室に甘い吐息と水音が混じる様になれば行為も中盤、悲鳴の様なか細いフィナの声が響いてレノカを楽しませる。

フィナも楽しみつつ思った以上に上手いレノカに甘くなる悲鳴が止められない。四つん這いでベッドに伏せ、後ろからレノカに突かれて汗が落ちる。刺激が体中を支配していて今のフィナは触れられるだけで震えてしまう。旅の間はなかなか発散することもできず、それもあって与えられる刺激に身体が喜んで止められない。
「イイ身体してるとは思ったけど、予想以上だね。フィナ、もっと?」
「あっ、も、もっと・・・んっ、レノカ、も、おく・・・」
貪欲なフィナに対してレノカは楽しそうにしながらもかなり上手に攻めてくる。後ろからフィナを貪り、同時に弄ることも止めない。気持ち良さに鳴くフィナを観察して楽しんでいる様だ。
肌のぶつかる音が寝室に響いて、フィナが先に達すればレノカも少し遅れて達する。身体を大きく震わせるフィナに追い打ちとばかりに刺激を与えながら吐く息は同じくらいに熱を帯びて、にんまりと笑む表情は穏やかさの消えた男のものだ。
「は、は・・・ん、少し、待ってくれ」
「いいよ。ふふ、想像以上にイイ身体してる」
まだ力の入らないフィナを抱き起こして寄りかからせながらも手は汗の浮かぶ肌を弄る。敏感な肌は触れられただけで感じて甘い吐息は収まらない。
「んっ、ん・・・っ、まだ、ダメだって、の」
「大丈夫、ちょっと、弄るだけ」
「あぅ、や・・・あ、よせ、って」
身体中が敏感になっているのに後ろに指を挿れられてぐるりと混ぜられる。悲鳴を上げるフィナにレノカは楽しそうに笑って内に溜まっているものを掻き出す。ベッドが汚れるのもお構いなしに震えるフィナの首を舐めて楽しそうだ。
「どろどろ。気持ち良い?」
「ん、いい・・・あ、まだ、無理・・・っ」
「大丈夫だよ。身体がそう、言ってる」
大きく足を開かされてレノカにもたれかかる体勢だ。弄られれば達したばかりの身体には刺激が強くて涙が零れる。なのにゆるゆると弄るレノカの手は止まらず、胸元も摘まればもう前が勃ち上がる。しかし動きはゆっくりしたままで、やがて焦れたフィナが動こうとすれば止められる。
「ちょ、意地、悪りぃ・・・んんっ」
「もっと可愛く鳴いてくれたら、あげる。フィナの声、イイよね」
「しらな・・・ん、ん・・・あ、ぅん」
足を開かされているから動きづらくレノカにされるがまま焦れて鳴く。か細い鳴き声はレノカが満足するまで続き、与えられる刺激を待ちわびて懇願すればやっと与えられる。体勢はそのまま、フィナから挿れる様に仕向けられるが構わない。後ろから、フィナから動く刺激はまた違う気持ち良さを与えてレノカも楽しませる。
やがて行為は激しくなり、フィナより早くレノカが達すれば内に溢れる精液を指でかき混ぜられてイかされる。それでも欲は尽きず、レノカも笑みを崩さずフィナを攻める。
ここまで体力のある王子だとは思わなかった。旅の後はフィナの方が搾り取る勢いでの行為になることが多いのに今夜は別。与えられる刺激と鳴かされる焦らしは思ったより気持ち良くて、フィナを溶かしていく。

なかなかに充実した一晩だった。目覚めまで酒場の二階になるとは思わなかったが、改めて見て見れば中々に良い部屋だ。

朝日の気配を感じられるのは旅人の特徴で、フィナも朝日が出れば自然と目が覚める。
カーテンに朝日が遮られていようと問題はないし、夜更かしをしても感覚は変わらず必ず目が覚める。身体は怠くともさっぱり気分爽快だ。
起き上がればまだ隣にはレノカが気持ち良さそうに眠っていて美人は寝顔でも以下略だ。カーテンを開けるとレノカの眠りを邪魔しそうだからそのままにして、少し美人の寝顔を鑑賞しながらこの街の滞在期間をどうしようかとぼんやり思う。

フィナは生まれつきの旅人だ。世界でも特殊な一族の生まれで、この大陸に本部と呼ばれる本拠地のある街はあるものの一族を名乗る全員が旅人だ。
なぜなら一族の全員が成人を迎える時に一族の名を継ぐかどうかを決め、旅人になることを選んではじめて一族となる。
フィナは旅先で生まれて子供の頃から親に連れられて旅をし、成人する少し前に独り立ちし、旅の途中でギルド員になった。数年前に立ち寄ったギルドで突然シプシンティを贈られ、今に至る。
街に滞在することはあっても一年以上同じ街に滞在したことはない。隣で気持ち良さそうに寝ているレノカの様に家、宮殿だけど、に住むこともない。世界の半分以上を巡ったが、ずっと旅人だ。

「気持ち良さそうに寝てやがる」
眠るレノカの髪を一房摘んでみる。綺麗な黒髪だ。くるり指先に巻けばレノカが起きた。
「何、早いね、おはよう。まだ寝ていてもいいよ」
「朝日が出たから起きただけ。おはよ。朝になったし殿下にした方がいか?」
「そんなつれないこと言わないで、そのままでいいよ。それから、そんな風に私の髪の毛で遊ばれると朝から盛り上がっちゃうんだけど」
「流石に怠いから勘弁してくれ」
眠たそうに微笑むレノカの額を軽く叩けば手を取られて指先に口付けられる。まだお互い裸だから少々不味い。レノカはどうか知らないがフィナは結構怠いのだ。
「朝になったら冷たくない?」
「そんなことないぜ。で、起きるのか?」
「そうだね、目が覚めちゃったし起きるよ。まだ眠いけど」
「だから寝てていいって。俺、勝手に帰るし」
「やっぱり冷たくなってる気がする」
眠たそうなまま起き上がったレノカが大きく伸びて欠伸している。やっぱり綺麗な獣みたいでうっかり見惚れていたら抱き寄せられた。触れる肌はさらりと気持ち良いものの、どうも抱き寄せられる回数が多い気がする。
「アンタ、くっつくの好きな人?」
フィナのサイズが抱き寄せて弄るのに丁度良いらしく、今も寝癖のついた髪を弄られる。旅続きで毛先の傷んだ髪でもレノカは楽しそうだ。
「うん、結構好き。相手は厳選するけどね。フィナはそう言う意味でも私のタイプだなあ。髪の毛、綺麗だよね。ずっと触ってたいから私と一緒に朝ご飯食べようよ。服も用意してるし、ね?」
「どうして朝メシに繋がるのか分かんねえけど、腹減ってるし有り難くもらう。でも服はいいぞ」
「えー、折角用意したのに。私のサイズじゃないから置いていかれても困るよ。大丈夫、普通の服だから」
「だったら貰おうかな。ンな顔すんなって。俺にあの露出は無理だっての」
「似合うと思うんだけど、分かったよ睨まないで」
「ったく。まあいろいろサンキュな」
「お礼なら言葉より行動が嬉しいよ」
ちょん、と唇を触れてにんまりと笑むから礼は礼だと口付ける。朝だから軽い方でと思ったのにあっと言う間にレノカに食われて本気の口付けになってしまった。濃厚な口付けは夜を思い出してまずい。慌てて離れようとしても離してくれず、レノカが満足した頃にはフィナの息が荒くなってしまった。まだ眠いなんて言っていたくせにとんでもないヤツだ。
「そんな目で睨まれちゃうとその気になっちゃうよね・・・ごめんってお腹抓らないで。それにしても綺麗な目だよね、フィナは」
「褒めても何も出ねえし怠いんだっつーの。もう離れろ。服よこせ」
「はあい。目尻染めながら怒られても怖くないのにねえ」
「うるさい!」
身体に掛布を巻き付けて全裸のレノカを足で追いやればやっと動いてくれる。どうやらレノカは全裸でも全く気にしない様で、そのまま従者を呼んで着替えをはじめた。
酒場の二階でも従者がいるのかと妙な関心をすればフィナの衣装を渡される。レノカは昨夜と変わらず露出の高い衣装だがフィナの方は普通でほっとする。しかし流石と言うべきか、生地は高級品で肌触りが良い。普段着に近い衣装でサンダルまで用意されている。
有り難く着替えてサンダルの紐を結べばレノカはまだ着替え途中だ。着替えは終わっているものの、装飾品を飾り付けるのに忙しそうだ。従者が。
「なあ、俺の剣は?」
「もちろんあるよ。フィナに渡してあげて」
何となくレノカの着替えを眺めつつ剣の所在を訪ねれば隣の部屋から固そうな護衛が無言でフィナを睨みつつ持ってきてくれる。
護衛には何もしていないのに睨まれっぱなしなのが少々気になるが、恐らくはレノカの相手をしているのが気に入らないのだろうと勝手に納得しておく。一応礼を言って剣を受け取って腰に下げれば落ち着く。肌身離さず、ではないもののあれば落ち着く。
「その剣面白いよね。フィナ以外は抜けないんでしょ?」
「勝手に抜こうとしたな。まあいいけど、どうせ抜けねえし」
「うん、抜けなかったよ。その鞘が認証してるの?」
「そこは秘密ってことで。言う程のモンじゃねえけど、魔法剣士用だから無理矢理抜くと暴発するぜ」
装飾の美しい鞘そのものが攻撃魔法にもなる、魔法剣士専用の剣だ。幾重にも施された魔法が剣を強化し、それなりの銘柄でもある。しかしレノカが勝手に抜こうとしたと言うのもおかしい。短い間でもそんなことをするヤツには見えないからだ。と思ったら。
「ごめんね、勝手に抜こうとして。後でちゃんとお説教しておくから」
「やっぱりな」
どうせ従者か護衛の誰かが勝手に抜こうとしたのだろう。納得していれば従者の、まだ小さな少年が顔を赤くしたから思わず笑ってしまう。素直で良いことだ。
「後ね、全然気にしてないみたいだけど昨日の服も洗ってまとめてあるからね」
レノカも笑いながら従者の一人が持ってきた綺麗な袋を指さす。忘れていた訳ではないが気にしていなかったのも事実だ。有り難く礼を言って受け取れば護衛とは違ってちゃんと返答がある。
「サンキュ。有り難く服もメシも貰っておくわ。だからこれでお終いな」
「ありがと。じゃあ朝ご飯にしようか。隣に用意してるよ」
本来ならばそこそこの銘柄でも人の武器を勝手に使おうとしたのだからそれなりの叱責は必要だが、抜けないのだから問題はない。それに反応が素直で反省もきちんとしてくれそうだからと着替えの終わったレノカも同意して隣室に移動した。
隣室にも従者と、固い護衛の他に騎士っぽい護衛も増えていて狭い部屋ではないのに狭く感じさせる。
思わず大変だなと小声で呟けばレノカが苦笑しつつテーブルに案内してくれた。

朝食は一般的なものだ。パンと数種類の料理に果物と飲み物。果物は気候の温暖なセグラならではの特産品で美味しそうだ。遠慮なく頂いて、レノカも見かけ通りの量を食べてようやく腹が落ち着く。
「一日のはじまりはきちんとした食事から、だね」
「ホントだな、美味かった。ごちそうさん」
食器を運ぶ従者に微笑みながら礼を告げればにこやかに返礼してくれる。うん、やっぱりこの方が良い。
食後の飲み物も穏やかな空気のまま運ばれてきて、レノカも満足そうに紅茶を飲む。
「それでね、早速なんだけど。フィナ、私との契約を結んでほしいな」
「何の?」
「護衛と同行。私ね、これから視察に行くんだ。そのお供ってことで、フィナに受けてほしい。もちろんギルドに依頼は出すよ。重要でね」
「重要かあ。俺、言ってるけどそんなに強くねえぞ」
「強いだけの人なんて私が寂しいじゃない。同行って言ってるんだからもちろん私の相手も含まれるよ」
「そっちかよ。いや、でもさ、俺なんかよりもっとイイ身体してるねーちゃんとか、男でも山ほどいると思うぜ。レノカだったら直ぐ見つけられるし断られることもねえだろ」
「現にフィナにはイイ顔されてないんだけど。じゃなくてね、フィナが良いの。ねえ、一緒に行こうよ」
「うーん。そこまで言ってくれんのは有り難いんだけどよ。俺、昨日セグラに入ったばっかなんだよな。視察ってどっか行くんだろ?」
「ミヴァトに行く予定だよ」
「う、ミヴァトかよ・・・」
ミヴァトとは街の名前だ。セグラの西の外れにある大きな街で国境でもある。王都からだと馬車で十日間程で徒歩だとその倍。国が安定しているから特に問題もなく、精々、途中で出る魔物くらいだ。しかしフィナは街の名前を呟いて微妙な表情になる。
「何かあるの?」
もちろんレノカも気づいて首を傾げる。大きな街だが特に問題のない名前だからだ。フィナもミヴァトに問題がある訳ではなく、その先にあるものを思い浮かべての表情だ。
セグラと隣国との間にある自治地区。国に属さないミヴァトではない街。それは。
「ギルドで照会したのに名前はちゃんと見てなかったみたいだな。俺、カラレアの一族なんだよ。ミヴァトの隣にあるセグラじゃない街、カラレアが俺の一族の集まってる所」
「だってフルネームは聞かなかったもの。ふうん、カラレアの民なんだ。どうりでその若さと見かけでシプシンティなんだね。あれ、でもカラレアの一族ってとても強くて魔導師ばかりで全員が旅人だって聞いてるけど」
「俺は珍しい方。それと、魔導師じゃないのも旅人じゃないものいるぞ。カラレアを名乗ってるのが魔導師で旅人が多いんだ」
「へえ、そうなんだ。これはますます一緒に行かなくちゃだよね。いろいろ話しも聞きたいし、触れたいし、何よりミヴァトの側だし。ね?」
「あー・・・一回は行ってみたいとは思ってたんだけどなあ」
「故郷なのに行ったことがないの?」
フィナはまだカラレアの街に行ったことはない。俗称で本部と呼ばれる街は旅人ではないカラレアの一族が集う場所で世界中に散らばる一族のまとめ役も担っている。だから本部なのだが。フィナの様に旅先で生まれ育つ者も多い為、故郷である街に行ったことのない者も多い。フィナの態度にレノカが不思議そうに首を傾げている。
「俺の生まれはここじゃない大陸だしもっと北の方だよ。カラレアの一族は旅人だって知ってるだろ。だから旅先で生まれる子供の方が多いんだぜ。俺もその一人」
「そうかあ。じゃあ尚更だよね。ね、一緒に行こうよ」
ぱあっとレノカが嬉しそうに微笑むからつい釣られてしまいそうになる。セグラに用事はなく、旅の途中で立ち寄っただけだ。ミヴァトに行くのであれば移動がてらの仕事で稼げるし、何よりレノカとは相性が良さそうだ。大国の王子でフィナとは住む世界の違うヤツではあるが、短い間の旅も悪くなさそうだと素直に思う。
「そうだな。一緒に行くかな。でもホントに期待すんなよ。俺、強くねえからな」
「謙遜しても全世界の上から三十九番目でしょ。でもね、今はどこも危険は少ないし精々魔物くらいだから大丈夫だよ。ありがとね、フィナ。視察が楽しみになったよ」
どうせレノカの視察であれば固い護衛がうぞうぞいるだろうし、フィナの出番なんてないも等しいだろうとは思うが念のために釘を刺せば全く気にしてくれない。
嬉しそうにフィナの両手を握ったレノカの笑顔が眩しすぎてそっと視線を外せば思い切り護衛達に睨まれている。レノカと一緒に旅は楽しそうだが、先が思いやられそうな視線だ。


セグラの王宮はフィナの取った宿から近い。いや、王宮の側にギルドを建てて、その側に宿がある。
大国だけあって王宮は巨大で、美しい。宮殿前の広場まで一般人が入ることができ、建物内部は立ち入り禁止だ。
宮殿内の大通りは馬車での通行が可能になっていて、レノカの馬車はゆっくりと街を歩き宮殿の内も進んで到着した。光溢れる宮殿は魔法の守りと固そうな護衛の守りでがっちりだ。
「流石だな。でけぇ」
「まあねえ。先祖代々の意地と見栄が沢山詰まってる宮殿だからね。その様子だと見るのもはじめてなのかな?」
「ああ。セグラに入ったのもはじめてだから、はじめてづくしだな」
レノカが帰ったからか、出迎えの者が結構な人数で馬車を待ち構えている。朝帰りなのに出迎えが、しかもにこやかなのは以外だ。まあこれだけ大きな国の王子だから当然かもしれない。
レノカに連れられているフィナにもいろいろな視線がざくざく刺さる。紹介はなしだ。
「詳しくは私の部屋でね」
「ああ、いいぜ。にしてもすげえな」
今度は宮殿の大きさと美しさにではなく、人の数と視線に関心する。レノカに連れられて歩くフィナに全員の視線が突き刺さり、かなりの数になるからだ。まだ朝の時間帯なのに多すぎる。

関心から呆れにに変わる頃、王族の居住区だと言う区画に着いた。まだ朝だと言うのに大勢の従者やら騎士やらが廊下に溢れて忙しそうだ。どこもかしこも人が多い。セグラの王都に入るまで人より魔物の多い道を通ってきたフィナだ。呆れと同じくらい感動してしまう。
「はい、到着。ここが私の部屋だよ。まずはようこそ、かな」
「部屋って、まあ、お邪魔しますって言うけどよ、やっぱ広いな」
「そう?」
「そうだよ」
当然ながら酒場の二階より広い。通されたのは入り口を兼ねたリビングで部屋の両脇に扉があって、正面は全て窓だ。何部屋あるかなんて想像もできない広さと、部屋全体が当たり前ながら豪華だ。
「だから先祖代々の意地と見栄だからね。さ、まずは座って。お茶、お願いね」
関心しっぱなしのフィナにレノカが面白そうに微笑んでソファに案内する。ソファは足の低いものでリビングの中央が凹んだ造りだ。くつろぐための部屋なのだろう。テーブルは床に直接板を置くもので座ろうと言ったレノカは早速寝転んでいる。だらしなく見える体勢なのにレノカだとこの部屋の豪華さに合っていて王子なんだなと、また関心してしまう。とは言え勧められたフィナも一緒に寝転ぶのは変だから足の低いソファにちゃんと座って従者が出してくれる茶を飲む。
「ふふ、興味があるなら後で宮殿を案内するよ。来たばかりだから少し休んでね。後、仕事の方はざっと説明するけど詳しい書類はギルドに出すから受け取ってね」
「重要だもんな。それは了承してる。どれくらいで出るんだ?」
重要とは、ギルドに出す依頼のランクだ。仕事の内容によって幾つかのランクがあり、危険度や重要度で分けられる。この場合は危険度はないが王族と同行する重要度の高いものになる。
普通の依頼はギルド員であれば誰でも閲覧できるが、重要度や危険度のランクがつけば制限がかかる。もっともフィナはシプシンティだからこの制限もない。そして、フィナを指名している依頼書になるだろうから書類はフィナとギルドの責任者と担当部署のみの閲覧になる。指名された者が直接ギルドに向かい、書類を受け取りその場で閲覧しなければならない少々面倒なものだ。その分、報奨金も高い。
「そうだね。フィナが受けてくれたから明日には出すよ」
「分かった」
「これが仮契約の書類。サインお願いね」
レノカは寝転がったまま、従者がうやうやしく箱に入った一枚の紙をフィナの前に置く。正式な依頼書とはまた別の、フィナを契約者として予約するものだ。仮契約書は簡単な内容とレノカの署名だけが書いてある。そこにフィナの署名を加えれば完成だ。レノカがにんまりと笑んでフィナの署名を確認すると箱に仕舞われる。
「出発は急いでないけど、書類も作るから決めなくちゃね。遅くとも一週間以内には出発かなあ。そうだ、フィナの衣装も作らないとね」
「いや、それはいいだろ。自分で準備するぞ」
「だって折角だし。フィナ、可愛いから飾りたいし」
「飾らなくていいっての」
「えー。絶対似合うよ?」
「似合ってもいらん。そんじゃ、俺帰るからな。宿にいるから何かあったら連絡くれ」
来たばかりだが仮契約は済んだし正式な書類が出来上がるまではフィナに仕事はない。出された茶を飲み干して立とうとすればレノカが妙な笑みを浮かべる。
「ふふ、せっかく宮殿に来たのにもう帰るなんて言わないよね。まだ話は終わってないよ」
寝転がったままのレノカが片手を上げれば部屋にいた従者がなぜかフィナの周りを囲む。妙な圧迫感に逃げようとしても、もう遅い。
「・・・まさか」
「察しが良いね。言ったでしょ、詳しい話は部屋でねって」
「話じゃねえだろ!」
「視察には大切なことだもの。みんな、よろしくね」
護衛に採寸はいらない、なんて言っても通じそうにない。反撃するにも従者相手に、と躊躇すれば何もできず可愛らしい少女に腕を握られる。
「可愛い衣装がいいなあ。太股とか見たいよね。色は明るい方が似合うかなあ」
少女に捕まればフィナの負けだ。抵抗らしい抵抗もできずに立たされて、服の上からだが次々と細い手が伸びてきて採寸される。その間に見物しているレノカが勝手なことを呟いて、違う従者が真面目にメモを取っている。
「おい、俺は護衛だったろ。いや、同行者でもいいけど太股は止めろ!」
「フィナの太股、綺麗だよ。撫で回したくなるよね」
「やかましい!」
採寸はかなり細かい上に、なぜか髪を梳かれている。それは採寸じゃないだろうと言っても誰にも聞いてもらえない。レノカは楽しそうに従者にありったけの希望を言っては護衛に何か文句を言われている。フィナには直接言ってこないが、どうもこんな細いのが同行者で、しかもどこの馬の骨か分からないヤツを、との言葉がつらつらと聞こえる。全く持ってその通りで、睨まれてもしょうがないなと思えばレノカが反論している。しかし、反論の内容にがっくりと肩を落としてしまう。なぜフィナの強さではなく身体の良さで反論するのかこの馬鹿は。
「・・・レノカ、俺だってどこの馬の骨がって思うぜ。だからその反論は止めろ。いい加減に身体から離れろ。せめてシプシンティくらいで反論してくれ」
「あ、そうか、そうだったよね。って、それはもう知ってるから反論の材料にならないんだよ」
「シプシンティでもお気に召さないんじゃもう俺は何も言わねえよ。アンタらも気にいらねえのは分かるんだけどよ、仮依頼は受けちまったから取り消すのも大変だぜ」
昨夜から睨まれ続けているが、どうしても気に入らない様だ。だったら直接文句を言えばいいのに、それはない。変なヤツらとは思うが既に仮契約が終わった今、依頼の取り消しにはかなりの金額がかかり、信用問題にもなる。仮契約の拘束力をレノカがのんびりと説明して、泣きそうな顔になったから知らなかったのだろう。
「ごめんねえ。後でお説教しておくから」
「いや、別にいいんだけどよ。何で俺は手入れされてるんだ?採寸が終わったんなら帰るぞ」
「だってフィナ可愛いんだもの、お手入れしたくなるよね」
レノカが護衛達を泣かしている間に採寸は終わっていて抵抗できないフィナは指先の手入れに移動していた。皆楽しそうに触れてくるからどうにも逃げられず、レノカに助けを求めると言うか、見ていて分かるだろうに頼りにならない。
「俺、昨日セグラに入ったばっかでまだ荷物整理もしてねえんだよ。もう勘弁してくれ。どうせ視察の移動中に弄るんだろ」
今から想像できる内容だ。どうせレノカにも従者にも弄られまくるんだろう。ぐったりとするフィナにレノカが笑って、やっと解放された。



フィナの取った宿は王城側でギルドも近い所だ。中の上くらいの宿であまり考えずに決めたから価格の割に部屋が狭い。別の場所に移動しても良いのだが滞在期間も少なくなりそうだから変えるつもりもない。
宿に着いた頃は既に昼前で、封印された部屋を解除して入れば解いてもいない旅の荷物が床に放り投げられたままだった。
「片付けねえとなあ」
セグラに入って二日目。たった一日の間にいろいろあった気分だ。埃っぽい荷物を床に広げ、点検していれば時間は直ぐに過ぎていく。
静かな時間はあっと言う間に過ぎ、夕暮れの光が窓から入ってようやく時間に気づく。ついでに朝しか食べていなかった腹も鳴く。
「着替えて飯だな。今日はメシだけにしとくか」
腹が減っているからか、何となくまだ昨夜の怠さが残っていると感じてしまう。昼前から部屋から一歩も出ず動かないでいたが休息ではない。
やれやれと頭を掻いたフィナは一応衣装の埃を払ってから外に出ることにした。折角の貰いものだし、動いていないから多少着崩れてはいるもののまだまだ綺麗だからだ。けれど従者に手入れされた指先は既に汚れていて、念入りに洗ってから出かけることにする。

腹が減ったから今夜は酒場より食堂の気分だ。性欲はすっきり解消されているから、かもしれないが。
昔から酒が好きなフィナは街に入れば酒場に通うのが普通だ。夜の相手を探すのは気が向いた時くらいだが、街に入った夜でもない限りそうそう溜まらない質だから昨夜は偶然が巡り合い過ぎたのかもしれないと思う。

何となくあの綺麗な笑みを思い出しながら食堂を目指して街を歩く。夕暮れから夜になった街は王都らしい賑やかさを保ったままだ。
セグラは気候が穏やかだから夜も過ごしやすい。夜空も綺麗で、旅の途中ではあまり見ないから今夜はテラス席でゆっくり酒と食事にしようかと思う。あの夜空が誰かさんの髪みたいだな、なんて少しは思うがそれはそれ。折角の綺麗な夜空だ。旅の間は方向の確認にしか見ない空を鑑賞するのも良いかもしれない。
「テラス席、かあ」
ぐるりと辺りを見れば希望通りの店が結構ある。どこにしようかと歩きながら選んでいたら建物の暗がりから有り得ない声が聞こえた。
「結構目立たないでしょ、私。フィナ、ご飯なら一緒に行こうよ」
「っ!?」
レノカだ!この人の多い街の、丁度闇が溜まる場所にひっそりと立っている。あの露出の高い恰好ではなく、貴公子みたいな衣装で驚くフィナに笑いながら出てきた。
通りに出ればやはり目立つから気配を消してまで潜んでいたのかコイツは。
「な、何やってんだよアンタ」
「名前呼んでよ、寂しいじゃない。フィナを待ってたんだよ。フィナも目立つから直ぐに宿が分かったんだ。夕ご飯を一緒に食べようかなって、心配しなくてもあんまり待ってないよ」
「・・・レノカ、いや、何でもねえ」
驚きが呆れに変わったフィナがじいっとレノカを見上げるが嬉しそうに微笑むだけ。街行く人々も目立つレノカに何やら話しているし立ち止まる者もちらほらといる。立ち止まっていると囲まれそうだからレノカの腕を取って歩く。しかし、レノカを連れてのテラス席は無理だろうなと、折角の気分を邪魔された仕返しに一応睨んでおくが、効き目はなさそうだ。
「メシ食いに行くのはいいんだけど、食えるのか?」
「フィナはどこで食べるつもりだったの?」
「適当な食堂のテラス席で。もう無理だけど」
「う、ごめん。お詫びに美味しいお店に案内するから」
「・・・個室だろ」
「うう。だ、大丈夫。テラス席を用意できるよ。食堂じゃないけど、ちょっと建物が違うけど」
「は?」
レノカのことだから街の食堂ではないと思っているが、何か変だ。今度はレノカが先導して、注目されながら程なくして到着したのはフィナも知っている建物だ。確かに食堂ではない。しかし、テラス席もない。
「ここって、ギルドって言うだろ」
「うん。三階のテラスで夕ご飯にしようよ。いや、ホントはね、夕ご飯のお誘いを兼ねて書類ができたから見て欲しいんだ」
「そう言うのは先に言え。ま、テラスはテラスだしなあ」
想像していたテラスとは違うが。

セグラ王都のギルドは三階建てでテラスのある造りだ。それだけ規模が大きいと言えるのだが食堂ではないし恐らくあのテラスで食事をする者はいないだろう。そもそも普通は立ち入り禁止になる場所だと思うのだが、レノカならば何とでもなると素直に思う。何せ依頼者でセグラの王子だ。あまり宜しくない特権の使い方ではあるが、たわいもない部類に入るので了解も得ているのだろうか。
「今からお願いしてくるね。食事はもう用意してるんだ」
「許可降りるのか」
「うーん、どうだろ。ギルドのテラスでご飯食べたいですってあんまり聞かないよね」
「俺は初耳だ。用意した部屋でいいぜ。重要書類を外で見る訳にもいかねえし、三階でもレノカは目立ちそうだ」
「フィナだってだいぶ目立つよ。えーと、ごめんね」
「いいって。また奢ってもらう訳だし。俺、朝から食ってねえから腹減ってるし。酒はあるか?」
「もちろんあるけど、朝から食べていないってダメだよ。早く行こう」
恐らくギルドにある部屋を借りたのだろう。ギルドは重要依頼の為に幾つか個室があるのが普通だ。依頼の受け渡しの他に相談事も多いから食事を提供することも多い。わざわざ食事を移動してもらうのも申し訳ないし、何より街を一望できるあのテラスでの食事は見晴らしは良さそうだが少々遠慮したいし、腹も減っているからあまり待てそうもない。

素直に朝から何も食べていないと告げればレノカの笑みが消えて睨まれた。美人が睨むと凄みがあって思わず見とれていたら腕を引っ張られて真っ直ぐギルドに入れられる。入り口ではなく、個室に行く用の裏口からだ。顔を見られたくない依頼も多いからギルドには裏口もあり、一定の手続きと魔法による自動認証で勝手に部屋まで行ける。夜は営業時間外だが裏口は例外で、重要依頼を受ける為に実は二十四時間やっている。
「お腹が空いてるならもっと用意しておけば良かったね。私は間食しているから全部食べてもいいよ」
「食べ切れそうなら遠慮なく。でも全部は無理だな。少し分けてくれれば嬉しい」
「いいよ。フィナの食べられるだけ取ってね。飲み物とお酒はご自由に」
「サンキュ」
誰もいない部屋に案内され、レノカの言う通り広くない室内にある簡素なテーブルの上にまだ暖かい料理が乗っていた。ギルドの個室は流石に造りは良くないし狭いが依頼の受け渡しと相談だから狭い方が良い。この部屋には防音防御の魔法があるからだ。テーブルと椅子も頑丈なだけのもので調度品は一切ない。椅子も四脚のみで、もし人数が増えたとしても足されることはない。部屋に入らないからだ。
当然ながら給仕もなく飲み物は自ら注ぐ。レノカも自分のグラスに酒を注いで、フィナは早速とばかりに料理にかぶりつく。少し冷めているが美味い。
遠慮なく二食分を腹に詰めている間、レノカは特に喋ることもなくフィナを観察している。酒を片手にご満悦そうだ。
「ふう。食った食った。結局レノカの分まで半分くらい食っちまった。今度、俺で良かったら奢るぜ」
「いいよ、食べっぷりを観察してたし、私はあまりお腹空いてなかったからね。ちょっと狭いけど、これが書類だよ。ギルドの了承は得ているから後はフィナのサインだけ」
「分かった」
食器で埋められているテーブルだ。書類を置くスペースを作るのに空いた皿を適当に重ねて無理矢理場所を作る。視察の同行と護衛と聞いていたが渡された書類は結構厚い。重要書類だけ、と言う訳ではない。依頼内容が紙の厚さに反映されているのだ。

「・・・ったく、しょうがねえな」
「ありがと。良かったあ。視察がとても楽しみだよ」
分厚い書類を挟んで依頼の詳細を確認し、ぐったりとしたフィナだが受けることにした。

確かに同行と護衛だが、いろいろ違う。それでも受けることにしたのはフィナ以外では難しいと思われる内容だったのと、レノカの懇願だ。根負けした感があるが既に仮契約をしているのだと、腹を決めてサインをして、契約の印を重ねる。これは偽造防止の為で、プレートに仕込まれた魔法の印が契約書に焼き付く。
これで依頼が成立し、フィナはレノカの同行と護衛をすることになった。





視察は遠く離れた西の外れにある街、ミヴァトで行われる。街道沿いに進み、途中の街や村も視察するとのことでかなりの大人数になる。従者や騎士団も同行し、人を襲う魔物を中心に街道沿いの討伐も兼ねる。人数が増えれば準備期間も長くなるのだが、今回はある程度決まっていたから一週間の準備期間で出立となった。

王宮から盛大に出立し、王都を出るまでに数泊を要し歓迎と歓声の大通りを練り歩き、夜になれば宿ではなく屋敷で宴となり日付の変わる頃にやっと終わる。

護衛ではあるものの騎士団がいるからフィナの出番はなく、そもそもまだ街道にすら出ていないから馬車の中でレノカと共に過ごすだけ。しかも宴が終われば当然の様に同じ部屋に案内される。見かけもあって僅か数日ですっかりフィナはレノカの恋人扱いだ。
「明日から街道だから大きな宴はここでお終いだよ。毎日じゃ疲れちゃうしね」
「その前にいい加減俺の衣装を変えてくれ。頼むから普通にしてくれ!」
「似合ってるのに。みんな褒めてるよ」
「それが嫌なんだよ!何でレノカとお揃いなんだ!」
「だってお揃いにしたかったんだもん。可愛いよ、フィナ」
「うるさい。とっとと普通にしてくれ。寝間着も普通のにしてくれ頼むから」
「どうせ脱いじゃうのに」
「気分の問題と脱ぐ以上に変だろこの寝間着は」
このやりとりも毎日のことである。出立の朝に突然衣装を渡され、従者によってあれよあれよと着替えさせられたフィナは露出の高い、レノカと同じ種類の衣装になっていた。かろうじて腰の剣はそのままだが、装飾の美しさもあって誰もが飾りだと思って疑わない。装飾品もレノカと同様、毎朝従者達が有無を言わさずフィナを飾り立ててくれる。
全く嬉しくないものの従者を攻撃することもできず、されるがまま。寝間着に至ってはレノカの一方的な好みであの部屋で着た生地の透けているローブだけ。
「フィナ、そろそろ諦めようよ。お風呂も入ったし、ね?」
「ホント、毎日元気だよな」
「フィナだって何だかんだ言って元気じゃない。ほら、灯りを落とすよ」
「・・・ちっ」
そして、夜になればレノカに抱かれる日々でもある。確かに街道に出るまでは動くこともないし思った以上にレノカとの相性が良くて断るに断れないフィナだ。

明かりを落とした寝室で呼ばれればふらふらと乗ってしまう。抱き寄せられれば同じ匂いになったレノカがにんまりと笑んで口付けて、程なくしてフィナから甘い吐息が漏れる。一応防音の魔法で寝室を覆ってはいるが護衛と従者の兼ね合いもあって完璧ではない。隣室には数人が控えているが、こうなったらもう止められないし外を気遣う余裕もなくなる。
「あ、や、レノカ、そこ、ダメだって」
「フィナは喜んでる、よ。もっと、見せて」
「ひぁ、あ、あ・・・!」
この毎夜の行為もフィナがレノカの恋人だと認識される原因だ。昼間も何かとフィナを抱き寄せて触れている上に夜はこれ。恋人と言われれば全くその通りで反論できない。

しかしながら気持ちは違う。身体は気持ち良く鳴いていてもレノカが恋人かと思えばそうではない。依頼者であり、フィナよりイイ身体でも守るべき対象であり、全く違う世界に住む人だ。友人にしては出会いから濃密で、かと言って焦がれる気持ちはない。ただ、一日をほぼ馬車に監禁され狭い空間で過ごして触れられていても気にならない。それだけだ。
「気がそれてるね。フィナ、気持ち良く、ない?」
「ん、気持ち、イイ・・・もっと」
「可愛いよ。ほら、もっと」
「んぁ、あ!」
正面からレノカの指で後ろを深く弄られる。この刺激にも身体が慣れてきていて貪欲なフィナは次を急かすが進んでくれない。フィナの乱れる姿がそそるらしく、毎晩乱されて時には泣いて懇願することもある。今夜もそのパターンになりそうだ。
焦らしながらフィナを弄るレノカは満面の笑みで中々進もうとしない。フィナから動こうとしても止められて鳴かされる。身体は気持ち良さを感じていても過ぎれば苦痛だ。泣き出すまで散々弄られて、挿れられる頃にはもうぐちゃぐちゃで気づけばすっかり夜も更けて疲労困憊だ。
毎夜のことながら確かに元気だと思う。レノカもフィナも。
「ホント、意地悪りぃよな」
「だって可愛いし。最中のフィナも可愛いけど、今のフィナも可愛いよ」
行為も終わり疲労困憊したまま軽く風呂に入ればやっと眠る時間だ。日中、動いていないから体力が有り余っているとは言え酷い生活だ。しかも風呂から上がる頃にはいろいろと汚れたベッドが綺麗になっているのも違う意味で酷いと思うし申し訳ない。


多少ふらつきながらも自力でベッドまで辿り着いて倒れ込めば上からレノカが覆い被さって重い。まだ敏感な箇所が身体中にあるのに触ってくるから遠慮なく叩いて止めさせて、重い身体も何とか横に転がして向き合う。
暗がりでもレノカは美人で、瞳を細めてフィナを眺めている。
「可愛いって聞き飽き気味なんだけど、そんなに可愛いとは思わねえぞ、俺は」
「そりゃあ自分のことを可愛いって言われても・・・いいかも」
「嫌だ。ぞわって来ただろうが」
「そう?でも自覚はあるんだし可愛い路線で行くのもありだと思うよ」
「何の路線だ何の。俺はしがないギルド員で可愛さは武器に持ってねえよ」
「その割に礼儀作法とかしっかりしてるよね。まだ数日間だけど、私と一緒に行動してて自然過ぎるけど?」
まだレノカの体力に余裕があるのか、軽く抱き寄せられて髪を弄られながらたわいもない話しが続く。
この数日でしっかりと従者に手入れされた髪は毛先の傷みもなくなり艶々になりつつある。レノカより負担の多いフィナはすっかり眠くなっていて話してはいるものの髪を弄られるまま、何度か額や頬に口付けされても反応がない。
「教わったってゆーか、ちっさい頃は宮殿暮らしだったんだよ。宮殿て言っても小さいけどな」
「へえ。ひょっとしてご両親が宮殿にいたの?」
無防備なフィナの姿と声にレノカの笑みが深くなる。イイ顔で笑ってやがると分かってはいるが自身に隠す事もないから聞かれれば大抵のことは答える。もちろんある程度の人選はするが、レノカは喋っても構わない部類の人間だ。
撫でられる頭も気持ち良く大きな手の平に懐けば柔らかい声で笑われる。
「言っただろ。北の方って。地図に乗らないくらいのちっさい国の王様が俺の父親。母親がカラレアで、成人する少し前までは宮殿で暮らしてた」
「そうなんだ。じゃあフィナも王子様だね」
意外な言葉がフィナから漏れてレノカがひっそりと驚いている。礼儀作法は努力して身につくものではあるが、中々難しいものだ。なのにフィナはレノカと共にいても見劣ることがない。言葉は荒くとも仕草や身のこなしが自然なのだ。荒くなく、かと言って媚びているものでもなく、ごく自然に美しい仕草を見せる。多少荒っぽいのは大目に見る範囲だ。
「違う、って言いてえけど、生まれだけだったらな。最も宮殿にいた頃も旅ばっかしてたし、遠出ができる様になったら母親と一緒に国を出て旅を続けてた。それから行ったことは一度もねえし、記憶も結構曖昧だな。手紙のやりとりはしてるけど」
「そっかあ。フィナは旅人だものね。眠い所をありがとうね。そろそろ寝よう。おやすみ、フィナ」
「ん・・・」
喋っている間にも眠いフィナは船を漕いでいたからこの辺りが限界だろう。フィナにも一応意識はあるが気が抜けている状態で、レノカから見れば大変可愛い姿になっている。
あっと言う間に寝息を立てはじめたフィナを抱き寄せてレノカも程なくして眠りに落ちた。


馬車の移動は暇だ。しかも派手な視察とあって王都では窓から外を見ることもできなかった。だいたい馬車で王都を通り過ぎるのに数日もかかるとは遅すぎだろうと思うのだが、王族の馬車が大人数に囲まれて通るとなれば移動は徒歩より遅く、大通りの封鎖等の調整も多い。

そんな遅い移動もようやく終了だ。
無事、王都を出て街道に入り、人も少なくなって窓から景色を眺めることもできる様になった。移動は相変わらず早くないが。
「この人数だし視察には馬車と強そうな騎士団を見せる意味もあるんだよ。見栄もあるし途中で何かあったら解決しなくちゃ進めないしね」
「大変なんだな、いろいろと。で、街道に入ったら俺の衣装が変わるんじゃねえかって期待してたんだけどよ」
「それはもう諦めようよ。太股が思わず舐めたくなるくらいには可愛いよ、フィナ」
「褒められた気がしねえ」
馬車はレノカの、王族の乗る専用の物と体力ない従者の物の他に数台が馬に引かれている。そのまわりをぐるりと騎士で囲み街道をゆっくりとした徒歩の早さで進む。

馬車は王族専用のものだけあって豪華だが狭い。但し、そこらの馬車と違って乗り心地は良く揺れることも少ない。
そんな中でほぼ一日を過ごすレノカとフィナはカードゲームをして過ごすことが多い。話しもするが、依頼に関するものではなくたわいもないもので数日の間でいろいろと知ることができた。
レノカの衣装である露出の高いものは両親と兄弟オススメのもので実はあまり好みではないこと。王は一人でも側室制度がある為、正妃を筆頭に十三人の王妃がいて家族がかなり多いこと。レノカは第五王子だから年齢としては上の方になり、今年で二十四歳とのことだ。
「俺と同じなんだ。見えねえなあ」
落ち着いているからもっと上だと思っていた。カードをテーブルに並べながら素直に感心すればレノカの表情が変わる。はじめてみる驚きの表情だ。
「フィナ、まさかとは思うけど、二十四歳、なの?」
「そんなに驚くなよ・・・どうせ十代で見てたんだろ」
フィナにとってはいつものことだ。若く見られるのが当たり前で、驚かれても溜息しかでない。このやりとりに若干飽きてもいるから年齢は聞かれない限りは言わないフィナだ。
「いや、その、成人したばかりかなあって」
「それじゃ十六歳くらいじゃねーか。サバ読みすぎだろ」
「・・・身体だって私と同じ年とはとても」
「うるさい。レノカはもっと年上に見えたぜ」
「それも酷いよ。まあ、どうしてか年上に見られることが多いんだよね。でもそんなに変わらないかな。フィナは年齢を聞いても・・・ごめんって怒らないで」
「怒ってねえ。呆れただけだ」
並べていたカードの一枚をレノカに投げて溜息を落とすだけだ。いつものこととは言え、そろそろ二十歳以上には見られたいと思うのだが無理らしい。
お詫びにとレノカ自ら珈琲を入れてくれるが元々怒ってもいないので有り難く頂く。
馬車には従者を乗せるスペースがないから、いつもレノカ一人だったらしい。フィナがいるだけで嬉しいのだとにこやかに言われれば悪い気はしないし、笑みを浮かべるレノカが少々可愛くも見える。

そんなやりとりを経て、街道に入ってから最初の館に着いた。時刻は夕暮れを少し過ぎた頃で、順調に歩いた結果だ。
館は王族所有のもので、周りは小さな街になっている。夜になろうとしている今は王都とは違って静かだ。
ここからはこう言った館に宿泊し、全員を収容できないので護衛を除く騎士は全て館の外、宿を貸し切っての宿泊となる。従者も全て館に入る訳ではなく、高位騎士の従者も混じっているから半数が宿になる。
視察の一団が訪れるだけで街に大量の金が入り、経済も潤うとのことだ。

そして毎夜行われていた盛大な宴も規模が小さくなる。毎日大きな宴では視察に影響が出るし、何より夜を静かに過ごす街中での大騒ぎは頂けない。
夕食を大人数で過ごすくらいの宴になり、程良い賑わいのまま早めに寝室に移動できる。
後は眠るだけ。従者と護衛は相変わらずだが、だいぶ気が楽だ。

この街道に出たはじめの館で護衛や従者もある程度気が緩むらしい。王都の賑わいから離れたからだろうか。
仕事はきちんとするが何となく空気が穏やかになって、夜も早くに訪れる。
毎夜の行為もなく、風呂に入って早々に休んだ二人は音のない深夜に目覚める。

「流石、目覚めが早いね」
「そっちこそ」
まだ朝には遠く、館は静まりかえっている。小声で話しながら軽く口付けされて、でも行為をする夜ではない。素早く用意してあった旅装に着替え、武器と荷物を持てば準備完了。部屋付きの従者と護衛に声を掛け、携帯食料と、日持ちしない朝食を受け取れば後は窓から忍び出るだけだ。
フィナだけでなく、レノカも。
「では行ってくるよ。後はヨロシク。何もないと思うけど気をつけてね」
「メシ、サンキュな。一応強い方に入ってるからそんな睨むなよ。まあ、頑張るって」
従者達は静かに頭を下げるが護衛達は相変わらずフィナを睨んで、レノカを見るときは心配を通り越した泣きそうな顔になる。最初からずっとフィナが睨まれて文句をレノカに訴えていたのは主にこの所為だ。
長話すると他の者に気づかれるから早々に寝室の窓から外に出る。
星空の美しい深夜は静かで、虫と獣の音のみ。
声を出さず行動で合図しながら二人は足早に館から離れ、街も出る。


この夜から視察ではなく、レノカとフィナの二人旅になる。盛大な視察はそのまま進むが、二人は別の用事で先行する為に闇に紛れて離れる。
王子であるレノカが護衛も付けず、フィナと二人。危険が伴う旅に当然ながら誰もが反対し、特に護衛の反対は大きかったらしい。
それもそうかと納得はするが、レノカに限っては危険が少ない。
もちろん依頼書には全てか書いてあった。あの狭い部屋で食事をした夜、フィナは盛大に驚かされて、それでも依頼を受けた。

数日前の、ギルドの個室を思い出す。
狭い部屋で少々冷めた食事を腹一杯詰め込んで、分厚い書類を受け取ったあの夜。

「ギルドの個室にしちゃイイ酒だな。持ち込みか?」
「もちろん。フィナに快く受けてほしいなって言うのは・・・建前で、これからいろいろごめんなさいしなくちゃいけないから、そのお詫びを先払いしてるの」
「は?」
狭いテーブルには食べ終えた食器が重なり、レノカの出した分厚い書類を前に酒を舐めていた時だ。
正面に座るレノカが見慣れた鎖を胸元から出す。首から下げる、珍しい鉱石で作られた鎖と、その先にあるのは同じ素材の、ミスリルのプレートだ。
「・・・おい、ちょっと待て」
「だからごめんなさい。私、ギルド員でもあるんだ」
「マジでか」
意外過ぎる見慣れたプレートは剣の文様が掘られている、剣士のものだった。そのまま首から鎖を外し、フィナに渡してくれるから遠慮なく見て、裏返して。がっくりと肩が落ちてしまう。
「ギルド員だけでも意外過ぎなのに、なんで二十九って掘ってあんだよ」
「だって貰っちゃったし。ちなみに、武具は大剣なんだ」
「そこは聞いてねえけどよ・・・俺より上だし。どうりでその身体な訳だ」
「鍛えてないとあの衣装は似合わないって言ったでしょ。でもね、まだ話は終わらないの」
申し訳なさそなレノカがテーブルに伏すフィナの、その下にある分厚い書類を指で突く。そうだ、まだ依頼の話まで進んでいない。しかしレノカの様子からすると、依頼も裏がありそう、いや、あるのだろう。
「簡単に言っちゃうとね、ミヴァトの領主邸に泥棒しに行くのが本当の依頼なの」
そして告げられる言葉がフィナに止めを刺して、分厚い書類を慌てて捲る。同行だの護衛だのと言っていたのはどうしたんだ。既に仮契約をしたフィナだ、依頼を受けることが前提になっているからここで倒れている場合ではない。
「正確には元々王家の物だった宝珠が結構昔に盗まれて、流れに流れてミヴァトの領主邸に保管されてるからこっそりレプリカと取り替えに行くの。その辺りは向こうのギルドとも調整してるし泥棒さんにはならないよ。宝珠も本物だって既に確認してるしね」
「そうじゃねえよ。全然違うだろうが。同行と護衛はどこに消えた」
「消えてないよ。だって泥棒、じゃなくて取り替えに行くのは私とフィナの二人だから。同行で、護衛でしょ?」
「なっ・・・いや、ちょ・・・・くそ」
視察の同行と護衛だと言われていたのに違うと、反論したいが視察も確かにすると書類に書いてある。しかしレノカと共に二人旅。確かに同行と護衛だ。ではなくて。
「何でシプシンティの、俺より強い剣士を護衛するんだっつーの」
「だって私、魔法全然使えないもん。それに宝珠を取り替えるって言っても魔法に詳しい人じゃないと危ないでしょ。腕の良い魔導師で、旅に慣れてる人を探してたんだけどホント、私ってラッキーだよね」
「俺は魔法剣士だ」
「魔法剣士なんて絶対見つからないと思ってたの。私の運ってすごいよね」
「・・・ちっ」
確かに魔法剣士の数は少ない。武具と魔法、その両方に精通してはじめて魔法剣士となるからだ。
ギルド員の中でも数は少なく、シプシンティにまで上り詰める魔法剣士はフィナを入れても五人いるかいないか。そう言う意味ではレノカの運はかなり良いだろうが、フィナの運は微妙だ。
「ミヴァトの領主ってセグラの管轄下にはあるんだけど、あんまり評判が良くない上に繋がりも弱くてね。おまけにその宝珠ね、盗まれたなんて言えないで偽物が今も神殿にあるんだ。もう数え切れないくらい偽物で式典をしてるから本物が見つかりましたーとも言えないんだって」
それはもう偽物が本物になっても良いんじゃないかと思う。レノカの話を聞きつつ書類を読み込むフィナの表情は顰めっ面だ。
「父上達に泣きつかれちゃって困ったよ。私、ギルド員でしょ。本当は宮殿にいるより旅してる方が多いのに呼び出されてね。レプリカと交換しようって計画は私じゃなくて父上達が計画したんだよ。言い訳だけどね」
「ホントだな」
「そこだけ返事されるとちょっと凹んじゃうよ」
「うるさい。で、続きは?」
書類を読みながら全くレノカを見ないで返答すればあからさまな泣き真似をされるからテーブルを蹴って続きを促す。
「ごめんって。それでね、領主側も本物の宝珠だって知ってるみたいで、内密で脅しみたいな書状が届いたんだ。まあそれが発端なんだけどね。だから視察団って言って派手に盛大にミヴァトに押しかけて、その前にレプリカと交換して、偽物じゃないかって領主にお説教するついでにいろいろとまあ、その辺は私達じゃなくて専門の人の仕事になるけど。そんな感じの薄暗くて性格悪いなあってのが今回の視察の目的なんだ」
「確かに根性悪りぃやり方だよな。まあ宝珠は神殿にあった方がいいから交換には賛成するけどな」
まだ書類は読み終わらないがレノカの愚痴を流しつつ突っ込む所はちゃんと突っ込む。
「そうなの?」
「ああ。神殿にあったヤツなんだろ。そう言うのは大概が何らかの力を持った魔球だ。本来の使用目的じゃねえ所に置いておくと汚れるぞ。盗難して結構経ってるならまず確実に汚れてるだろうけどな。まあ領主側が宝珠だって脅迫してきてんならまだ大丈夫だろ」
「ええ、何か怖いなあ。そんなこと誰も言ってなかったのに」
「だから言ったろ、まだ大丈夫だろって。よし、やっと読み終わったけど愚痴の方が分かりやすいってのも問題だな」
「愚痴じゃないよ、説明だよ」
「俺には愚痴に聞こえたんだよ。ったく。そんな顔で見んな」
読み終えた書類を纏めてテーブルに置けばレノカが縋り付く様な表情でフィナを見つめている。どうしても依頼を受けてほしい様だ。
「だって、一緒に旅するならフィナみたいな人がいいんだもん。ねえ、一緒に行こうよ。ミヴァトで泥棒する以外は普通の旅だし、いっぱい魔物を剥いで遊ぼうよ。フィナにもまた触れたいし、一緒に旅するの楽しそうだし、ね、お願い」
美人の困った顔が迫ってきて、手も握られてしまった。どうあっても同行者をフィナにしたいのだと切ない声色で訴えられれば揺らいでしまう。
確かに館に忍び込む以外は普通の旅で、しかもシプシンティになる剣士と魔物を狩るのは楽しそうだと思ってしまう。それと、相性の良かった身体も少々思い出してしまって。

「・・・ったく、しょうがねえな」
「ありがと。良かったあ。視察がとても楽しみだよ」

思い出せば早まったかも、と思わないでもないのだが実際に視察での旅は順調だったし、身体の相性も良かった。そこは素直に認める。
「どうしたの、フィナ」
「いいや。旅装と大剣が似合うなって思っただけだ」
夜の街は静かで、人目を避けて獣道に向かう。
レノカは露出の多い衣装から丈夫で上質な旅装に衣替えをしている。渋い色でまとめていて、背には大剣を背負い首からミスリルのプレートを下げている。レノカはプレートをそのままにしておく方かと思いながらひっそりと関心もする。
旅装にギルド員のプレートと大剣。こうして見れば美人なのは変わりないが大国の王子には見えない。旅慣れているのも本当だったらしく、肩から提げる魔物袋は使い込まれたもので、荷物も少ない。
「えへへ。ありがと。フィナは魔法弓も使うんだね。実物ははじめて見たよ」
「俺は魔法弓のが得意なんだ。剣も使うけどな」
対するフィナもようやく慣れた旅装に戻って、少ない荷物と腰から提げた剣に、肩からは魔法弓と呼ばれる弓を提げている。これは魔法で作った矢を射る専用の弓で習得の難しさから滅多に使うもののいない特殊な武具だ。フィナの生まれ故郷がこの魔法弓を得意とする地だったので自然と覚えたものである。
「剣じゃなくて魔法弓が本来の武具なんだ。早く使ってる所を見たいな。あ、街道は目立つから獣道でいい?」
「俺もその大剣が気になるから獣道だな。灯りは俺が出す」
「魔法が使える人がいると心強いよね」
「だったら覚えればいいんだよ。つか、灯りくらいできるだろ?」
「うーん、魔法って面倒臭いよね」
剣のみを得意とするヤツは魔法が苦手だ。使えないのではなく苦手。これは簡単な魔法でも習得する為には膨大な魔導書を読み込むことからはじまるからだ。もちろんフィナも旅をしながら膨大な魔導書を読み込んで今の強さがある。
例えば夜道を歩く時に便利な淡い光を放つ魔法球を出すにも分厚い魔導書を十冊は読み込み、その全てを理解した上で詠唱しないと発動しない。理解度により詠唱は若干変化し、フィナの出した魔法球は短い詠唱ながら数個がふわりと浮き、使用者の身体を追尾する。
「お見事。綺麗だね。いつ見ても突きたくなるんだよね、この灯り」
「別に突いても良いけど火の魔法だから熱いぜ」
「これくらいだったら大丈夫。わあ、楽しいな」
フィナには簡単な部類に入る魔法球だが、レノカは違う。綺麗だねえ、なんて関心しつつ魔法球を指で突いて遊んでいるから軽く背中を押して先を促す。旅はこれからが本番だ。




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