next will smile...君の小さな頃には03




バタンと大きな音を立てて入ってきたのは顔を真っ赤にして肩で息をしている綾宏だった。

ふわふわの少々癖っけな茶色の髪の毛に、色素の薄い茶色の大きな瞳。
颯也よりも格段に小さく華奢な身体付きで、颯也の可愛らしさが男の子らしい可愛らしさだとすれば、綾宏の可愛らしさは本物の女の子顔負けの可愛らしさだ。

そう。本物の、女の子にも負けない、むしろ勝っている可愛らしさを持つ綾宏の服装は、ふわふわでレースがたっぷりのピンク色のワンピース。
少しだけ伸びたふわふわの癖っけの髪の毛には同じくピンクの髪留めがしてある。
どうみても、どこから見ても女の子。

けれど本人は自分の格好よりも大切な大切なお友達を探すのが重要な事で、部屋意入るなり和久に抱きついて泣きじゃくっていた颯也を見つけて、真っ赤な顔をさらに真っ赤にさせると、ぱぁっと微笑みを浮かべて走り出した。

「そぉちゃんっ」

その甲高い声に泣きじゃくっていた颯也が和久から離れて綾宏を見る。
すると、颯也もぱぁっと、あっという間に表情を変えて和久の膝から勢い良く降りて駆け出した。

「あーちゃんっ」

大きな声で綾宏を呼んだ颯也はだっしゅで駆け寄ってくる、自分よりもさらに小さくて華奢な身体を抱き締めた。

ほんのちょっと前までべそべそと泣いていたのに今は満面の笑み。
あまりの変わり身の早さに上のお兄ちゃん2人は呆れ顔になるけれど、それよりも今はふわふわのワンピースの方が気になってしまって、和久と駿は綾宏のワンピース姿に目を丸くするとお互いの顔を見合わせてしまった。

「あれ、綾宏、だよね、駿」
「う、うん。そうだよね、和兄」

だって颯也のお友達の綾宏はちゃーんとした男の子だったハズ。確かに見かけは女の子と思える程に可愛らしいけれど、ちゃんとした、男の子だったハズ。と首を傾げる和久と駿は同時にいやぁな予感を覚えて、2人同時にきれいな眉をひそめてしまった。

「母さん、ピンク色のドレス買ってたよね」
「うん。父さんも好きだって言ってたよね」

それは数日前の両親の姿。
澤里さん宅の両親は一人も女の子がいないからと、随分前から顔見知りに女の子のお子様が居るとこぞってドレスだのワンピースだのを買い与えているのだ。
本当は自分の子供に着せたかったのだけれども、幸か不幸か、自分達のお子様は皆小さい頃からとても男らしくて似合わなかったので、涙を飲んで諦めたのである。
そんな両親から見れば、綾宏はたとえ男の子だと言えどもかわいい女の子み見えてしまうのだろう。

「・・・ちょっと行ってくる。後よろしくね、駿」
「いってらっしゃい。でも喜んでるんだからいいんじゃないの?2人とも、あ、4人ともかな」

苦笑する駿にはぎゅっと抱き合いながらきゃっきゃと喜んでいる颯也と綾宏。
そして、そんな2人のご機嫌な様子を見てにこにことしている青と海がいて。

「あーちゃんふわふわでかわいいのっ」
「そーちゃんもかわいいよ?」
「そーや笑ってる」
「笑ってる。よかった」

ハタから見れば非常に微笑ましい光景で。思わず駿は笑ってしまっているのだけれども、長男である和久の表情は非常に複雑だ。

「分かっていたけど、随分現金だよね、颯也は」
「そうそう。もう俺達なんかいらないって言うよ。絶対」

ついさっきまではぐずぐずと泣きじゃくっていたのに、もう笑顔全快だ。
確かに笑顔はかわいいし、泣いている時だっておこっている時だってかわいい弟だけれども、あの綾宏に対する執着っぷりには近い将来確実に一波乱あるのではないかと、まだ小学生の年長組にも思わせるのだ。

「ともかく。父さんか母さん探してくる。絶対犯人だし」
「うん。それは分かってるけど、楽しそうだからいんじゃないの?」
「一応綾宏は預かりものだから、言うだけいってくるよ。確かに可愛いからね」

小学生だと言うのにもはや悟りきった様子の和久に駿は苦労性ってあーゆー人の事を言うんだろうなぁと思いながらもひざに抱えた双子をよいせと抱き直した。




「こんなに可愛い頃もあったのになぁ・・・」

そうして現在。
すーっかり大きくなった、と言うよりは育ち過ぎて伸び過ぎたお子様の成長に深々と溜息を吐いたのは和久だ。
目の前には何処か照れくさそうに苦笑した綾宏とそっぽを向いた颯也が控えている。

「和兄、久々に呼び出したと思ったらそれかよ。つか、何だその写真はっ」
「そうだよー。見せたい物があるなんて呼び出されたと思ったらそれなの?」

どうやら実家に呼び出された理由が昔のアルバムを一緒に見たいから、なんて理由だった事に颯也も綾宏も呆れながらも照れくさい様子だ。
まあ、それはそうだろう。何せ和久の手にあるアルバムはまだまだ颯也も綾宏も小さかった頃の物で、何より綾宏に至っては何枚ページを捲ってもそのほとんどの衣装がピンクや黄色やら赤やらのドレスや着物だったりしているのだ。

「いいじゃないか。最近すっかり家に戻らない様だし、私も父さんも寂しかったんだぞ」

ふわり、と。颯也があと数年良い具合に年を重ねたらこんな男になるだろう位にそっくりな和久は既に結婚もしており、子供も居る。けれど、何年経っても可愛い弟とそのお友達には違いなく、目の前でむすくれて座っている2人をとても優しい微笑みで眺めている。

「もー、勘弁してよ、和兄。僕も颯也も流石にこの年になると恥ずかしいんだってば」
「そうだそうだ。何もそんなに小さい頃の写真じゃなくてもいーじゃねーか!」
「えー。でもこれ、可愛いんだよ。駿も青も海も見たいって言って私に探させたんだから」
「・・・勘弁してくれよー」
「せめて僕のドレス姿は止めてよぉ」
「でも、これ可愛いんだよ。そう言えば父さんも母さんも見たいって騒いでたんだよ」

たまーに実家に呼び出されてみればこんな恥ずかしい物を見せられて、その上他の兄弟も両親までもが見たいと騒いでいるなんて、と。

恨みがましい視線で和久を睨みながらも颯也と綾宏はやっぱり実家には近付かない方が身の為だと心の中で盛大に溜息を落としたのだった。






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