フルムーン・シフォン

番外編1/夜の宮殿では


春になったこの季節は夜になってもまだ暖かい。すっかり日の暮れた宮殿は静まりかえっていて、間接照明と昼間に比べればとても少ない夜間勤務の者達だけがひっそりと宮殿を守っている。

そんな静かな宮殿の奧、国王の執務室はとっくに暗くなっていなければいけないのに、まだ灯りがついていた。

「昼間遊びほうけるからですよ」
「猫は夜行性だ」
「減らず口を叩かない」
「ちぇ」

執務室と言ってもここは小さい執務室の方で、部屋の中にいるのは緑夜と李織だけだ。

李織は上級騎士としての職務をこなしつつ国王の警備にもあたっている。

「陛下が風莉を気に入って下さるのは嬉しいのですが、構い過ぎです」
「だって可愛いだろ、あれ」
「可愛いのは認めます」
「真面目な顔で言い切るし・・・」

むう、と少し頬を膨らませた緑夜が書類を捲る。昼間は割とサボってばかりの王様だが、一応やる事はやるのだ。でなければ国が動かなくなってしまう。そんな緑夜に付き合いつつも補佐をする李織は優しい視線を緑夜に向けていた。

「何だよ、その目は」
「いえ、夜の貴方も綺麗だと思っただけです」
「・・・・ぐ」

これだから困る。何てことのない時にさらりと緑夜の弱い言葉を吐く。嫌な男だ。書類を捲る手も止まって、頬を染めた緑夜は李織を睨みつけて。

「李織、こっちこい」
「はい?」

ちょいちょいと手招きをする。素直に近づいてきた李織の、騎士服の胸の辺りを掴んで引き寄せる。

「お前はタチが悪い。でも、だから李織なんだよな」
「何ですかそれは。言葉になっていませんよ」
「いいんだよ、分からなくて」

至近距離で見つめ合いながらも凪いだ雰囲気のまま、唇を寄せたのは緑夜か李織か、それとも二人ともか。重なる唇は口付けとなり、そのまま深くなる。李織の手が緑夜の長い髪を梳きながら口付けは深くなり、けれど程々の所で止めた。

「まだ仕事が残っています」
「分かってるよ、でも、もうちょっと」
「眠る時は一緒です。早く終わらせてしまいましょう」
「ちぇ」

「大丈夫、そう焦らなくとも後で可愛がってあげますよ、緑夜」

「っ・・・ンの!」
「何ですか?そんな顔を真っ赤にして」
「・・・も、いい。早く終わらそうぜ」
「はい、陛下」

顔を赤くした緑夜に対し、李織はそのままだ。けれど視線だけは優しくて、それだけでも恥ずかしいものだと、照れ隠しに顰めっ面をする緑夜はまた書類を捲った。