映画館とポップコーンとシスナの好きなもの



金曜の夜は週休二日の社会人にとって、ちょっとばかり特別で、幸せを感じる時間だと思う。
ミキも週末の休みを待つ普通の社会人で、でも、ちょっとだけ違う。
ちょっとだけ違うのは今は置いておいて、金曜の夜となれば明日と明後日は休みだから普段よりウキウキしながら仕事を終えて会社を出る。週末だと言う事もあって少しばかり残業をしたけど、会社を出たのが七時なので早いほうだと思う。同僚や先輩達に軽い挨拶をして、駅が一緒の数人と喋りながら歩いて、アパートのある駅で降りる。

ミキの住む辺りは閑静な住宅街で、大きな店はない。駅も都内にしては小さくて人は、まあそれなりだ。帰宅時間と言う事もあってそれなりに賑わっていて、でも、今夜は家路を急ぐ人達の中にやたら目立つ人がいた。
駅の外、待ち合わせなんかに利用される事が多い辺りに長身で、長髪の金髪の人がいる。
きっと目立つ自覚があるんだろう、金髪の人は黒い帽子を目深に被って、黒くて大きめなトレーナーと同じ感じのパンツと茶色のブーツ。それだけじゃ寒いからと厚手の、裾の長いカーディガンとマフラーもしている。腰まで伸びた金色の髪は帽子を被っているからか、いつもみたいに縛っていなくて、海色の瞳が改札口を出たミキを見つけてふわりと細まる。シスナだ。

「ミキ、お帰りなさい。待ちきれないから来ちゃった。えへ」

シスナの前に立てば若干注目されるけど気にしない。気にした方が目立ってしまうのだと前に教わったからだ。誰にって、シスナに。白い息を吐きながらにこにことしているシスナは、違う世界ではとても偉い人で、目立つ人でもある。なので、自覚もあるからいろいろと教えてもくれる。ミキにはあまり関係のない話だけど、シスナと一緒にいる時は役に立つ。
喋りながら連れだって歩いて、ミキのアパートに向かう。そうそう、シスナの着ている服は半分はこっちで買ったもので、半分は向こうから持ち込んだ物だ。今日の服だとカーディガンとブーツは向こうの物だと思う。

「来るのは別に良いんだけど寒かったでしょ?無理しなくて良いのに」
「私、寒いのも結構好きだよ。あとね、見てるのも好きなんだ」

シスナはこっちの世界を見るのが好きだ。お互いに違い過ぎる世界だから見ているだけでも楽しいのは頷ける。ミキだって向こうに行ったら宮殿とか街とか、一日中だって見ていられるし、実際に見ていてシスナに呆れられた。

「それ、俺はついでで見学したかったんだろ〜」
「ばれた。でもミキを待ってるのも本当だよ。あのね、あんまん食べたいの」
「やっぱり俺はついでじゃんか。いいけど。だたいま、シスナ。あんまん買っていこ」
「うん」

こっちの世界を見るのを好きなシスナだけど、食べ物もだいぶ好きらしい。特にむこうにはない安価な菓子とか食べ物なんかを好んでいる。本当は一人で買いできるし、対した金額ではないけどある程度のお金は渡しているけど、ミキと一緒の方がいいのだと言ってくれる。お望み通り、途中にあるコンビニエンスストアであんまんと、ミキの分のピザまんを買って、食べながらゆっくりと歩く。

「この時間に食べるピザまん美味しい。シスナ、一口食べる?」
「もちろん食べる、ありがとミキ。ミキは?」
「じゃあ一口貰う」

お互いにあんまんとピザまんを囓りあいながら歩いていればアパートに着くのは直ぐだ。 コンビニエンスストアでは、他にもシスナが興味を示したお菓子とジュースを買ったから、カサカラしながらアパートに帰って、そのまま一緒に異世界へのドアを開ける。 お風呂へと繋がるドアを右手で開けると異世界に。これはミキでもシスナでも一緒だ。

ドアを開ければ真冬の寒い空気がなくなって、お風呂の温かい空気に包まれる。思わずはーと息を吐いてしまうのはミキもシスナもだ。

「今日も寒かったものねえ、ミキの方は。魔法で氷を出すから寒いのは分かるんだけど、世界全部が寒いのって中々に身体が辛いよね」
「そうだろそうだろ。はあ、お湯が温かい。でも明日は映画見るんだろ?」
「もちろん。だって映画感は暖かいもの。それにね、やっぱり私、嫌いじゃないし」
「俺はイヤ。でも映画は好きだよ」
「ポップコーンも!」
「はいはい。一番大きいのね」

いつもなら直ぐに脱衣所に行くけど、身体の芯から冷え切っているから少しだけ浴室を歩いて、床を流れるお湯で温めてからこっちの衣装に着替えて寝室に行く。 これもいつも通り、荷物は寝室に置いて、二人で一緒に従者の人達が忙しく働く廊下に出る。

今日は金曜日。なので、夜もいつもより長く過ごせるからのんびりと夕食を取って、お風呂に入って、お酒を飲みながら身体を重ねたりなんかして。

そうして、朝になって、先に起きるのはいつもミキの方だ。 昔から朝に強くて目覚ましのお世話になった事もない。でもシスナはミキの逆で、まだ気持ち良さそうに眠っている。 眠る時は抱き合っているけど、起きるときは大抵寝相の悪いシスナが大きなベッドの端っこで変な格好になっている。さて今日はどんな姿になっているのかなと、ううんと起き上がって確認してみたら。

「ぷっ、シスナ、それでよく眠れてるよね・・・シスナ、おはよー、おきてー」
「・・・・んん」

大きなベッドの、下の方でシスナがまあるくなっていた。横向きでまるまってるんじゃない。なぜかベッドの上にちんまりと正座して、上半身をくるりとシーツにつけているのだ。 これ、起きたらあちこち痛いんじゃないのかなと少々心配になりつつ、起きる様子のないシスナの所までにじり寄ってつつく。

「シスナってば。おーはーよー」
「・・・う、ん・・・んん、み、き?」
「そう、俺。ほら、起きて。てゆーか、起きないと身体痛くなるよ・・・もうなってると思うけど」
「ぅえ?い、いた・・・え、わたし、なに?」
「はいはい、良いからまずは転がろう?そしたらマシになるから。でも寝ちゃダメ」

やっぱり足が痛くなってる。 笑いながらまだ寝ぼけてるシスナの身体を押してベッドの上にころりと転がす。

「い、いたいよ・・・?え、わたし、あれ?」
「うん、少しそのままでいた方がいいよ。朝ご飯もらってくるから」

転がってもあの格好じゃあ足が痺れていて暫く動けないと思う。こっちの人達は正座をする習慣がないし、習慣があっても足は痺れる。 寝ぼけながら足を抱えて不思議がっているシスナを見ているのも、申し訳ないけど楽しい。でもお腹が空いたので朝ご飯をもらいに行こう。


ほぼ毎日こっちに帰ってきているミキは、朝食を食べてから出社する事が多い。と言うか、朝に強いので、よっぽどシスナが酷く寝ぼけない限りはだいたい朝食を食べてからになる。 しかもこっちは常春だから朝の空気がとても気持ち良い。寒くないって最高だ。
転がりながら痛がっているシスナを横目にさくっと着替えて、ここだと室内着になる、大きめのシャツとハーフパンツになる。これに綺麗な刺繍のある帯みたいなのを腰に巻けば一応はちゃんと着替えた事になる。 本当は従者人に手伝ってもらいながら着替えるのが正解なのだけれども、ミキは遠慮している。 その代わりにではないけれど。

「おはよー。シスナ、ベッドで転がってるからよろしくお願いします。足痛がってるけど、変な格好で寝てただけだから大丈夫です」

寝室の隣にある、シスナの私室になるリビングで待ち構えている従者の人にお願いする。 彼らはあくまでシスナの従者だからミキは違うのだ。・・・うん、ここの人達はみんな良い人達ばかりだから隙あらばミキの事もあれこれ手伝ってくれようとするけど、シスナが主人だと言うのを理由に逃げていたりもする。だって慣れないのだから仕方がない。 従者の人達もミキの気持ちを考えてくれて、今の所は手出しはしてこない。それにミキだって手伝ってもらえる事はお願いしているので多めに見てほしい。 例えば今からもらう朝ご飯だってミキなら自炊で何とでもなるけど、ちゃんと専門の人に作ってもらうし、準備だってしてもらう。

朝食は寝室の隣にあるリビングで取る事が多い。今朝も既に準備がされていて、給仕の人もいる。リビングは床に座らずにちゃんとテーブルで取る朝食だ。

「おはようございます、ミキ様。シスナ様は、またですか?」
「おはようございます。うん、また。それも変な格好だったから足が痺れてる。少し時間かかるんじゃないかな、あれ」
「おやおや。では朝食は先に取られますか?」
「ううん、今日は休みだからゆっくり待ってる。珈琲だけもらっていいですか?」
「もちろんですとも。それと、一口分になりますがクッキーも一緒にどうぞ」
「美味しそう。ありがとうございます。頂きます」

給仕には専門の人がいて、穏やかでしゃきっとした、ミキから見ると執事みたいなおじいさんだ。 にこやかにお喋りをしながら珈琲を煎れてくれて、側にはミルクと小さなクッキーを数枚置いてくれる。お腹が減っているから嬉しい。
ありがたくクッキーを囓りつつ、珈琲を飲みながら給仕の人とお喋りを続ける。 ミキがシスナの事をいろいろと知っているのは、主にこの給仕の人や従者の人達が教えてくれるからだ。部下の人達も教えてくれるけど、彼らとはあまり遭遇しないので身近な存在になる従者の人達の方が親しい。
いわく、シスナは国でも上位に入るくらいに強い人だとか、王族とも血の繋がりが濃い大貴族の一員だとか。後はたわいもない世間話なんかも多い。今日も良い天気だね、とか。朝食のメニューとか。街で話題のお店とか。そんな事をお喋りしながらシスナを待っていたら思っていたよりもだいぶ時間を空けて寝室から疲れた顔で出て来た。
既に従者の人達にお世話されて、長い金色の髪を綺麗に梳かしてハーフアップにして、衣装もミキよりやや豪華できっちりしている。でも顔はお疲れだ。

「おはよう。ああ、酷い目にあったよ。足がまだ痛いの」
「変な格好で寝てるからだよ。おはよ、シスナ」
「おはよう、ミキ。お腹も減ったよ。沢山食べたいな。食べたら出かけようね」
「うん。俺もお腹減った」

今日は映画館に行く予定だ。食べて直ぐ出かけるのにまた着替えなきゃいけないけど、深く考えてはいけない。
そうそう、ここの従者の人達はミキが違う世界からお風呂を通って来ていると知っている。ミキの事をいろいろと考えてくれた殿下が説明してくれたからだ。もちろん突拍子もない事だけど、実際に違う世界からお風呂を通って来ているので、だいたいは信じてくれているみたいだ。あときちんと箝口令もある。やっぱり混乱させてしまうので。

「沢山食べて下さいね、シスナ様、ミキ様。それでは私はこれで。またお呼び下さい」
「うん、ありがとね」
「ありがとうございました」

給仕の人は一端ここで離れて、お代わり等があれば来てくれる。なので、周りに人はいるけどシスナと二人きりの食事で、こんな毎日を過ごしているから周りの視線が気にならなくなっているのだなあと思う。

「どうしたの?」
「何でもないよ。早く食べよ。今日も美味しそう」
「そうだね。いただきます」
「いただきます」

食事の挨拶はいただきます。それは異世界でも変わらないと言うか、一緒で驚いた。 どうやらミキの暮らす日本と、こっち側、ワルム国は全てが全く違うのに、似ている部分もあるみたいだ。まあその辺の難しい事は殿下に任せているので、ミキとしては美味しい朝ご飯を食べるだけである。


美味しい朝ご飯をたっぷり食べて、いそいそとミキのアパートに来て、着替える。 春から真冬に変わる速さが数秒なので結構辛い。流石にシスナも辛そうなので、とっとと着替える。 こっちの服は元々ミキが買っているものと、シスナが来る様になってから買い足したもの、それから、むこうから持って来たものでだいぶ増えた。
ミキはいつも通り、厚手のトレーナーに細身のジーンズ。これに黒のダウンジャケットと模様の入った毛糸の帽子と、むこうから持ち込んだブーツで完了だ。 シスナも同じ様な服を着てもこもこになる。あ、帽子がお揃いだ。

「えへへ、ミキとお揃い」
「ホントだ。あれ、お揃いで買ったっけ?」
「これは私の方から持って来た帽子だよ。だからお揃いなの」
「そっか。毛糸の帽子なんてあったんだ」
「向こうだって寒い国はあるもの。ワルムは暖かいけど、上に行けば寒いよ」
「それもそうか。うん、お揃い。いいね。じゃあ行こう」

シスナが嬉しそうにほわほわ微笑んでくれているのでお揃いでも気にしない。シスナが外を歩くだけで目立つし、お揃いなのは、ミキも嬉しい。
着替えが終わったらお出かけ、デートだ!


映画館はシスナが好きな場所だ。ミキはそれ程でもなかったけど、大画面と大音量が良いらしい。確かにむこうにはない施設だし、シスナの場合は甘いポップコーンとドリンクも好きの中に含まれていると思うけど。 映画館はミキのアパートから一駅先の大型ショッピングモールの中にあって、土曜日と言う事もあってまだ午前中なのに人が多い。
建物の中に入れば暖かいから毛糸の帽子とダウンジャケットを脱いで映画館のフロアに入って、予約しておいたチケットを引き取ってから食べ物の店に並ぶ。 どことなく甘い匂いが映画館のフロアを漂っていてシスナが楽しそうでご機嫌だ。 店の列に並びながらあちこちの大きなモニタで流れる予告編もシスナには楽しいものだ。 でもシスナの好みは一貫している。

「ミキ、楽しみだね。面白いよね、アクション映画。みんな良い動きしてるんだもの」
「好きだよねえ。ええと、今日のはバイクアクションかあ。シスナ、アクションも好きだけど、乗り物系も大好きだよね」
「うん。とても楽しいよ」

そう、戦う人であるシスナの好みはアクション映画。それも車とかバイクなんかの乗り物があれば尚良し、なのだ。 正直ミキから見ればシスナの方が映画の人達よりも強いと思う。魔法があるから派手だし、ワルム国でも上位に入る、教えてもらった所によると剣技では限りなく最強に近い、シスナなんだから映画の戦いなんてと思うけど、違うらしい。あと乗り物は向こうにはないので、まあ惹かれるんだろうなあとは分かる。 むこうの乗り物は馬車かドラゴンと言う、ミキからすれば究極の二択みたいな感じだ。 逆にファンタジー映画や恋愛物は好きじゃない。ファンタジーは、ほら、あっちがそのものなので、どうしても偽物っぽく見えるみたいだ。こっちにワルム国みたいな映像があるのに最初は驚いていたけど。 そして、恋愛物は数ヶ月前に失恋したばかりなのでまだ見るのが辛いらしい。シスナは何も言わないけど、察するところがあるのでミキも勧めない。折角映画を見るのだから純粋に楽しんでほしいからだ。

「ポップコーンは甘いので良いんだよね。一番大きいのにする?」
「一緒に食べよ。飲みものはね、前に飲んだの美味しかったよ」
「分かった、コーラね。俺も一緒にしよっと」

甘いポップコーンが山になって入った大きなバケツっぽい紙の器と、大きなコーラを抱えて嬉しそうにしているシスナを見ると微笑ましい気持ちになる。可愛いなあ。

うきうきと座席に座って小さな声でお喋りしながら映画を待つ時間も楽しい。 ポップコーンも美味しい。バケツみたいなポップコーンを抱えてにこにこするシスナにあーんとしてあげれば嬉しそうに食べてくれる。ミキの恋人は今日も綺麗でとても可愛い。映画館じゃなかったら頬にキスの一つでもしたい気持ちだ。

今日は休みとあって、もう公開して暫く経つ映画だけど、座席は半分くらいが埋まっていた。大画面と大音量の迫力は流石で、中身も結構面白かった。 バケツみたいなポップコーンも頑張って食べた。映画が始まると、どうしてもシスナが集中しきって画面に釘付けになるからミキが頑張った。とても。

「面白かったねミキ!やっぱり迫力があるよね。バイク、すごかったあ」
「うん、面白かった。お腹いっぱい」
「えへへ、いつも夢中になっちゃうね、私。次は頑張って食べるよ」
「大丈夫だよ、映画見に来てるんだから。そうだ、ちょっと買い物あるんだ。シスナの好きなのも買うけど、他にもちょっとね」
「いいよ、お店見るの好き。お祭りみたいで楽しいよ、こっちは」
「俺からしたらシスナの方もお祭りっぽいなあって思うよ」
「ああ、あれは半分お祭りなんだよ。ほら、私の所って一番賑やかな所だから」
「え?そうなの?」
「そうか、まだ詳しく説明してなかったよね。あのね・・・」

映画が終わればちょっとした買い物をしてむこうに帰る。 ショッピングモールはお昼と言う事もあってなかなかの人だ。なのでシスナからむこうの、王都の説明を聞いていてもおかしくは思われない。 ふんふんと話を聞きながらショッピングモールの店を眺めてお目当ての商品を探す。 シスナの方は決まっているから、ミキのお目当てだ。

「あったあった。シスナ、これどう?」
「ミキが探してたのって、手袋だったんだ。んー、手袋ならむこうにいっぱいあるよ?」
「そっちのじゃなくて、防寒用の。ほら、今日寒かっただろ。だから、偶には俺が買いたいなって。シスナのも」

見つけたお店は雑貨屋みたいな所で、丁度店頭にあったので手に取ってシスナに見せる。 首を傾げられたけど、そっちにあるのは式典用とか戦闘用のじゃないか。まあ帽子もむこうのだから探せば毛糸の手袋もあるんだろうけど。

「私のも・・・帽子と一緒に、お揃いで選んでもいいの?」
「いいよ。そのつもりだし。駅で待っててくれる時とか寒そうだなって思ってたから」
「・・・嬉しい」

適当に手に取った手袋を眺めながらシスナが嬉しそうにほんわりと微笑む。 うわ、見慣れてはいるけど、すっごい、綺麗だ。 当然ながらここショッピングモールで、長身で長髪の、金髪碧眼のシスナはとても目立っている。ふんわりと微笑めば周りを歩く人達が二度見くらいして見惚れてもいる。でもミキが気になるのは周りの視線じゃなくてシスナの気持ちだ。なにせ向こうでも注目される事が多いから野次馬の視線くらいじゃあもう動じない。

「色違いで模様をお揃いにしてもいいかなって思うんだ。あったかそうなので。いつもお世話になってるから、そうだなあ、値段はこれくらいまでなら大丈夫。どう?」
「うん、うん、嬉しいなあ。あのね、そうしたら色違いで模様を一緒にしたいな。模様、あ、これなんかどうかな、可愛いし、ミキに似合ってる」
「俺だけじゃなくてシスナにも似合うのを・・・シスナは何でも似合うなあ」
「そう?」

見た目の良いシスナは大抵何でも似合う。まあ手袋なのでそんなに派手でも奇抜でもないから余計にだけど。 それに、寒いから選ぶ毛糸だから色も模様も割と何でもいいのだ、シスナが気に入ってくれれば。


毛糸の暖かそうな手袋を二組選んで、シスナの好物も同じショッピングモールで買ってから寒いねえと言い合いながら異世界へと帰る。
二人で選んだ手袋は、ミキが緑色でシスナが青色、模様はお揃いで雪の結晶とトナカイの可愛い刺繍のあるやつだ。 そして、シスナの好きな物は常春の世界に帰ってきても冷え冷えしているアイスクリームだ。 袋の中にドライアイスを入れてもらって、うきうきと中身を取り出しながら二人一緒に浴室に入って持ち込んだ長椅子に座る。 むこうが真冬だからこその楽しみで、床に流れるお湯の温度を楽しみながら冷え冷えとした甘くて美味しいアイスクリームを食べるのが遊んで帰った後の習慣になりつつある。

「はあ、お湯が温かい。今日も寒かった・・・」
「アイス美味しい。暖かい所で冷たいのを食べるなんてミキの考えは面白くて素敵。それにアイスの種類もいっぱい」
「果物でもいいけど、やっぱりアイスかなって思うんだ」

大きなカップに入れてもらったアイスは、ミキがチョコレートとバニラにオレンジ味。シスナはカラフルなトッピングをしてもらった色とりどりの、たぶんラムネ味とイチゴ味、それに珈琲味のアイスだと思われる。 こっちでもアイスクリームに似ているデザートはある。魔法で冷やして作るらしい。 でも種類はミキの知っている数よりだいぶ少ないし、色とりどりのトッピングもないからシスナにはとても楽しい食べ物に見えるみたいだ。映画を見ている時と同じくらいご機嫌でうまうまと食べている。 楽しそうなシスナを見るのは好きだし、ここには二人だけだから遠慮なく触れるしキスだってできる。
口の中にあったオレンジ味のアイスを飲み込んで、横に座るシスナの頬にちゅう、と触れる。そうしたらアイスを食べているよりも嬉しそうに微笑まれて、お返しのキスをもらいつつ唇にも口付けられる。
シスナのアイスはラムネ味だと思っていたけど、違った。すうすうするミント味だった。

おわり。
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