畑ウサギと世話焼き魔族の楽しい日々、サンプルです(だいたい半分くらい掲載しています)





垂れ耳ウサギのハルリは畑仕事が趣味で仕事だ。
海の上にぽつんとある孤島で毎日せっせと畑仕事に精を出す。

麦わら帽子にウサギの耳をぎゅっと入れて、ちょっと痛いけど慣れれば気にならない。お日様の下での畑作業には必需品だし、首に巻くタオルだってそうだ。
服もお洒落さのカケラもない完全防備なやつで、まあるい尻尾もズボンの中に入れている。

孤島にはハルリの家とちょっとした作業小屋の他には畑しかない。
一面に広がる畑ではいろいろな植物を育てていて、今はぎゃあぎゃあと鳴くちょっと変わったヤツに肥料をあげている所だ。
地面から茎が伸びて、その上に楕円形のぎゃあぎゃあと鳴く実がついている。
通称、うぞうぞ君だ。
なんでうぞうぞ君なのかと言えば、ぎゃあぎゃあ鳴きながらうぞうぞと実を揺らすから、である。
お世辞にも綺麗とか可愛いとかなんて言葉の出ないうぞうぞ君は、ハルリ以外にはもっぱらグロいだの不気味だのとの評判である。
「ちょっと黒くてぎゃあぎゃあ鳴いて手足みたいな実の一部があるだけなのにね。はい、肥料だよ。美味しいよ~」
うぞうぞ君は植物だけど勝手に自分の茎を折って脱走したりもする。ついでに口みたいな穴もあって、小さく丸めた肥料を根気よく何度も放り込むと実が熟す。
これでもかなり高値になるし、最終的には魔導具の一部になるのだ。製造方法はちょっとアレだし出荷するまでに早くても数十年かかるけど。
しゃがみ込みながらせっせと肥料を放り込んで、面倒なのでそのまま移動しながら放り込んで。
偶に脱走しそうなうぞうぞ君を捕まえて茎に縛りつけたりしていたら、あっと言う間に日が暮れてくる。普通なら疲れてくるけど、ハルリは亜種と呼ばれる種族だから平気だ。
亜種だったら二、三日、それ以上食べなくても寝なくても問題ない。
うぞうぞ君と遊んでいるのが楽しいので全く苦にならない。
「あ、また脱走しようとしてる~。もう、ダメだよ。クロールで海を渡ったら人間の偉い人にすっごく怒られるんだからね。刺激が強いとか何とか言われちゃうんだから」
しかし器用な植物だ。意思も感情もないハズなのに勝手に自分の茎を折って脱走しようとするなんて。たぶん肥料の所為なんだろうなあとは思うけど、脱走されると困るので、しゃがんだままもそもそと移動してむぎゅっと捕まえようとして。
「はーい、そこまで。ハルリ、音信不通五日目だかんな。ったく、まーた遊んでただろ、その不気味植物と。泥だらけ出しどうせまた飯も風呂も・・・って、まさか帽子に耳入れてんのかよ!尻尾まで、信じらんねー!」
いきなり怒られた。もちろんうぞうぞ君にじゃない。ハルリの前で逃亡したうぞうぞ君をむぎゅっと掴みながら仁王立ちをしている人、ロスにだ。
ハルリの視界には黒いブーツしか見えないので、視線を上に持っていけばとても綺麗で格好良いロスがぷりぷりしている。
少し伸びた金色の髪に夕焼け色の瞳と、びっくりするくらい綺麗な顔が怒っている。
もったいない。怒っていても綺麗だけど。
「捕まえてくれてありがと、ロス。音信不通だった?」
「だったから俺が来たんだろーが。その様子だと手入れもしねーでずっと遊んでたな。ハルリ、本当に亜種か?時々疑うぞ」
「たぶん亜種だと思うよ。耳と尻尾があるし」
「でもって一日五回の手入れをするんだろ、亜種のヤツらって。手入れしねーと気持ち悪いって騒ぐのに、ハルリは平気だもんな。ほれ、今日はもうお終いだ。風呂入って飯だ飯」
「五回もお手入れしないよ。三回だよ」
「回数だけ訂正すんな」
だって五回もお手入れは大変だ。
しゃがみこんだまま上を向いて訂正すればロスが肩を竦めながら笑って、捕まえてくれたうぞうぞ君を渡してくれる。どの茎から脱走したかは分からないので、その辺の茎に適当に縛りつけておく。後は自分で何とかしてもらおう。
「いつ見ても最悪にグロいよな、そいつ。なのに干した一株に金貨一枚。そいつみてーにナマだったら三枚。どーなってんだか」
「魔導具の一部になるからだよ。あとグロくないもん。可愛いじゃない」
「ンな訳ねーし、今日はもうお終いって言っただろ」
「えー、まだ遊んでたいのに」
「風呂と飯と手入れが先だっての」
「はぁい。うぞうぞ君、魔法でお休みさせるからちょっと待っててね」
「おう」
ロスが来てくれてご飯を思い出せばそれなりにお腹が減ってくる。
小さく詠唱してうぞうぞ君を眠らせれば畑が静かになった。ハルリが魔法で起こすまではずっと眠ったままだ。
「寝っぱなしで何年放置でも大丈夫ってのが、また・・・ま、いっか。ほれ、ハルリ。どうせ立てないんだろ」
「よく分かったね」
静かになった畑で、しゃがみこんだままのハルリにロスが少しかがんで両手を差し出してくれる。ずっと立たないでもそもそと移動していたのは身体が固まって動けなかったからだ。
ロスはすごいなと感心しながら両手を伸ばして捕まって、引き上げられたと思ったらそのまま抱っこされた。子供みたいにロスの片手に乗るやつだ。
ロスはハルリよりだいぶ大きい人だから割とよくこの方法で運ばれる。
そして、抱っこされたからロスの綺麗な顔が近くになった。
「ったく、何百年の付き合いだと思ってんだよ。つれない恋人さん」
「んー、確か三百年くらい?」
「阿呆、五百は超えてる。泣くぞ」
「ええ、泣かないで。ごめんねロス。あのね、ロスからすごく良い匂いがするの。お腹が減る匂いが」
「俺の匂いで腹を減らすなってーの。そりゃあ良い匂いがするぞ。ハルリを捕まえるのにカップケーキ焼いて持ってきてるからな。どうだ、頼もしいだろ」
「カップケーキ!大好き!」
ロスに運ばれながら畑を後にして家に向かう。
ここにあるのはハルリの家で、ロスも一緒に住んだり住んでいなかったりする。
ただハルリは何日も畑で遊んでしまうので家の管理は概ねロスの仕事だ。

ここはとある港町から少し離れた所にある孤島だ。
島全体がハルリの持ち物で、あんまり大きくはないけど二人の住む家と不思議植物を育てる畑だけがある静かな場所だ。
周りは海に囲まれていて、港までの船はないし、向こうからもこの孤島へは船を出せない。ハルリとロスの二人で島全体を見えなくする魔法で封印しているからだ。
でも二人とも人間とは違う種族だから船がなくても空を飛んで港へ行けるし、ロスは街の方にも家とお店を持っている。

「食が細いのにカップケーキだけは好物だよな、昔っから。甘いものはそーでもないのに」
「ロスの作るカップケーキ、美味しいよ?」
「ありがとさん。で、もう日も暮れたし、その麦わら帽子は脱ごうぜ。ウサギの耳が泣いてるぞ」
「泣かないけど、もう脱いでも大丈夫だね」
「うっわ、髪も耳もボサボサじゃねーか!ひっど!亜種が泣くぞ!」
「だから泣かないって。でもぬたぬたしてて気持ち悪いかなあ」
「当たり前だろーが!」

ハルリはウサギの耳と尻尾を持つ亜種と言う種族だ。
亜種、精霊亜種は精霊として生まれる時に別の力が混じってこの姿になるらしい。
他にはネコとかイヌの人もいる。
人間よりだいぶ数が少ない種族で、基本的にハルリみたいに人から離れて暮らすのを好んでいる。街に住んでいる亜種もいるけど、そっちは変わり者だ。
特徴としては分かりやすい耳と尻尾の他に、とても長生きで人間には使えない魔法も楽に使える。この世界では人間よりも上の位に位置する種族だからだ。

「ロスは器用だよね。何でもできるし、カップケーキも料理も美味しいし。でも人間の街で喫茶店してる魔族って珍しいよね」
「珍しいもなにも、たぶん俺くらいだろーな、店やってる魔族って。あ、街では炎の精霊で通してるんだから言葉にすんなよ」
「分かってるよ。でもね、言っても信じてもらえないと思うんだ」
「そりゃあまあ、そうだろうな。でも作るの楽しいぜ。ハルリが美味そうに食ってる所見るの好きだし、そのまま食っちまいたくなる」
「食べるじゃない、いっつも」
「風呂入って飯食って食後のデザートと酒飲むまで我慢して待ってるだろ」

ロスはハルリとはまた違う、人間でも精霊でもない、魔族だ。
魔族は存在そのものが伝説になるくらいに数が少ない種族で、そもそも魔族はこの世界の住人じゃあない。例外なく人間の魔法によって召喚された他の世界の住人で、魔力の塊でできているらしい。
ハルリにはよく分からないし興味もないけど、この世界に住んでいる魔族は好奇心旺盛で世界や人が気に入って滞在しているみたいだ。
ロスも人の暮らしと街、それにハルリを気に入ってくれてずっと一緒にいる。
そうそう、魔族も亜種も見た目の年がある程度で止まったりゆっくりになったりして、寿命がとても長い。
ハルリは十代後半くらいの少年で、ロスは二十代前半くらいの青年の姿だ。
亜種も魔族も綺麗なのが普通なので、今は泥だらけのハルリもお風呂に入れば、まあそれなりにはなる。

「家に灯りが入ってるし美味しそうな匂いがする。ロスがやってくれたの?」
「ハルリが来ないからどうせまた遊んでんだろーなと思って、掃除洗濯料理、いろいろやったぞ。感謝してくれな」
「ありがと。えーと、じゃあ、後でいっぱい食べても、いいよ」
「まじか。言ってみるもんだな。明日は休みにしてるし、今夜はゆっくりハルリを食うか」
「ご飯は食べさせてね。お腹が空いてきたよ」
「五日も食ってないんじゃ当然だ。飯もできてるよ」

畑から土の道をゆっくりと進んでハルリの家が見えてくる。
平屋の、二人で住むには大きいけど、そんなに豪華でも立派でもない石造りの建物だ。普段はハルリが一人で住んでいるけど、ロスの部屋もあるし、二人で溜め込んだ長年に渡る荷物があちこちに詰まっている。
この家に住む様になってから、確か数百年くらいだから荷物だって沢山だ。

「ご飯は何を作ったの?」
「煮込みシチューとステーキ。街で買ったパンと美味そうだった酒。カップケーキはイチゴとチョコ、それと、マンゴーの三つな」
「わあ、豪華だ」
「でも、その前に風呂だ風呂。全部洗ってメシ食って、そしたら手入れだかんな」
「はぁい」

泥だらけのハルリを嫌がりもせずに運んでくれて、家に入ると真っ直ぐにお風呂に向かった。確かにだいぶ汚いし汗臭くもある。
だから口付けもなかったのかなと思えば脱衣所に降ろされて、だいぶ高い所からハルリを覗き込むロスがにんまりと微笑む。
「今したら我慢できねーからオアズケしてんだよ。なんだかんだで一ヶ月はヤってねーんだからな」
「そんなに?」
「そんなに、なの。ほら、早く洗ってこい」
そんなに、だったのだろうか。
首を傾げればロスが笑いながらハルリの背中を軽く叩いてキッチンの方へ行った。
確かに畑で遊んでいたり収穫したうぞうぞ君と戯れていたり、ロスだって街で遊んだりしていたけど、ああ、だから一ヶ月も経っているのか。
二人とも長く生きる種族だから時間の感覚がおかしくて、でも抱き合う欲は一ヶ月を長く感じさせる。
思い出せばハルリもうずうずしてくるので、手早く汚れた服を脱ぐとお風呂に飛び込んだ。








泡をたっぷり作って、頭の天辺から足の先まで洗ってすっきりした。耳と尻尾もぬたぬたから解放されて気持ち良い。
お風呂から出て脱衣所にある鏡を見れば五日ぶりの綺麗なハルリが映っている。
てれんと垂れた真っ黒いウサギの耳と、同じ色の髪と瞳。鏡に映っていない尻尾も真っ黒で、身体は真っ白だ。亜種はある程度の年齢で成長が止まるのだけれども、恐らくハルリの見た目は成人前の少年で固定されている。亜種の中でもこんなに若い姿で固定されるのは珍しいらしく、ハルリは変わっているみたいだ。
身長も高くはないし身体もガリガリしている。食事をサボるからじゃなくて、どんなに食べても体型も固定されているから変わらないのだ。

「んー。すっきり」
耳についている水分を飛ばすのにぶるぶると頭を振って、耳が隠れるくらいの長さの髪をかき上げてバスローブを着る。お風呂上がりはちょっと暑いから、冷えるまではこのままだ。
喉が渇いたしお腹も減ったから早くロスにご飯を貰おうとサンダルをひっかけてリビングに出る。
二人で暮らす家だから玄関からリビング、キッチンまでが一つの大きな部屋になっている。全ての窓は開けっ放しで夜風が気持ち良いし、美味しそうな匂いが鼻を擽ってお腹が鳴く。
「わあ、良い匂い。ロス、お腹減ったよ」
「もうちょい待て。それまでカップケーキ食ってていいぞ。一個な」
「ありがと~!」
「どうせ水も飲んでねーんだろ。そっちに買ってある。飯の前だから果実水にしとけよ」
「愛してる~!」
「はいはい、ありがとさん。あ、こら、酒はまだ駄目だっての!」
「ちぇ」
キッチンの側にあるテーブルの上には美味しそうなカップケーキが三つ。隣に街で買ってきたお酒と果実水の瓶が数本ずつ並んでいる。瓶から直接飲むやつだ。
カップケーキは全部食べたいけど夕ご飯もあるからと、ウサギの耳をふらふらさせながら考えてマンゴー味を手に取る。果実水は適当に。

両手を塞いでいそいそと向かうのは開けっ放しの窓の外にあるテラスだ。
だってまだお風呂上がりで暑いし夜風を全身で浴びたい。ぱたぱたとテラスに出て、置きっぱなしにしている石の椅子に座ればひんやりと気持ち良い。小さいハルリにはちょっと背の高い椅子だから足をぶらぶらさせて、魔法で果実水を冷やして飲む。とても美味しい。それからマンゴー味のカップケーキに齧りつく。幸せの味だ。
ロスの作るカップケーキは人間が作るやつより大きめで、クリームがたっぷり乗っている。カップケーキの中には味の元になっている果肉が入っている。五日ぶりの食事が幸せの味でとてもご機嫌だ。
「ねえねえ、ロス。テラスで夕ご飯にしようよ。気持ち良いよ」
「最初からそのつもりだぜ。もうちょいでできるからそのまま待っててくれ。手入れもしねーとな」
「ご飯食べてからでいいよ」
「洗い晒しで平気な亜種ってハルリくらいだよなあ」
確かにお手入れは大切だし艶々の耳と尻尾は良いものだけど、ハルリはあんまり気にしていない。五日も洗わないのは駄目だろうあなとは思うけど、今はきちんと洗ってあるから良いのだ。ちょっとぼさぼさだけど。
カップケーキを食べながら軽く首を振ればてれんと垂れたウサギの耳もぶるぶると夜空に舞う。洗剤の匂いと夜風の気持ち良さがあれば満足だ。
「俺もそのぼさぼさ結構好きだけどな。ほい、夕飯の完成だ。煮込みシチューとステーキとパン。好きなだけ山盛り食え。もう酒飲んで良いぞ。俺も飲むし」
「わあ、美味しそう!ありがと、ロス。大好き!」
「そのセリフはテーブルじゃなくて俺を見て言おうぜ。ま、後で嫌って言っても俺を見つめながら言ってもらうけど」
「早く乾杯しよう?シチューが冷めちゃうよ」
「へいへい」
今のハルリはロスも大事だけどテーブルの上のほかほかしたご飯の方が気になっているのだ。カップケーキも食べ終えたし、残っていた果実水を一気に飲み干してからキッチンに走る。ロスが運んでくれるけどハルリもお手伝いだ。二人だけだからお手伝いも直ぐに終わるけど気持ちが大事。
取り皿とお酒の瓶を運んで、いそいそと乾杯だ。
「久しぶりのあったかいご飯にかんぱ~い!」
「ぼさぼさのハルリに乾杯。久しぶりって何だ久しぶりって。五日ぶりじゃねーのか」
「ん?んー、半月くらい?オレ一人の時は何でもいいし」
「俺が作らなくてもせめて暖めて食えって言ってんだろー。また乾燥食材そのまま齧ってたな」
「えへ。お酒美味しい。シチューも美味しいよ」
「ったく。美味そうな顔しやがって。肉も食え」
「もちろん」
料理上手なロスだから何を作っても美味しいし幸せになる。
にこにこと暖かい食事を頬張ってロスも笑いながら一緒に食べて、久しぶりの二人一緒の時間だ。
長い時を過ごす種族だから時の経過を気にしないと言うのもあるけど、ハルリもロスも自分の時間も大切だからだ。ハルリは畑で遊んだり家に籠って作業をしたり、ロスは街で気まぐれに喫茶店を開いたり普通に遊んだりしている。
こんな風に二人一緒に食事をするのも多くても週に一度くらいだ。
もうだいぶ長い付き合いで変化のない日々だけど、それが良い。
「ふふ、夕ご飯は美味しいしロスがいるから、幸せ」
「もう酔ったのかよ、早いぞ。俺も、もさもさのハルリが美味そうに飯食ってるの見てると幸せだよ。でも酒は程々にしてくれよ、後があるんだからな」
「わかってる~」
「その返事が既に駄目だと思うんだけど、ま、いっか。ほれ、デザートのカップケーキ。全部食っていいぞ」
「やった。ありがと。だいすき」
「だから俺を見て言えっての」
大きなカップケーキが二つもあってハルリの笑顔がふにゃりと崩れる。

五日ぶりの食事でもハルリは問題なく沢山食べられる。唇の端についたクリームをロスの指先に拭われながら幸せな夕食はのんびりと続いて、食後のデザートになれば次の幸せが待っている。ロスが耳と尻尾のお手入れしてくれるのだ。

耳と尻尾のある亜種は一日最低でも三回のお手入れが必要で、大抵は自分でやる。
耳と尻尾はとても敏感な場所だから他人には絶対に触らせない。触らせても良いのは家族と大切な人だけだ。
もちろんロスは大切な人なので、専用の椅子に座ってお手入れしてもらう。

専用の椅子は尻尾のお手入れをするから背もたれのない丸くて、よくある木の椅子だ。
ロスも後ろ側で同じ椅子に座ってぼさぼさの耳と尻尾にクリームを塗り込んで、丁寧にブラッシングをしてくれる。
ハルリは食後のデザートを味わっている所なので何もしない。そもそもロスがお手入れしている時はやる事がなくて割と暇だったりする。
カップケーキを齧りながらお酒も飲んで程よく酔っ払いだ。
「こーら、頭ぐらぐらすんな。耳引っ張るぞ」
「やーだー」
「嫌なら真っ直ぐ座ってろって。ほらまた揺れ・・・ウサギの尻尾も振れるんだな」
「振れるよ~。ちょこっとだけだけど・・・ぁ、駄目だってば、根元の方触ったら・・・」
ご機嫌なまま、まあるい尻尾を振っていたら気づいたロスに握られた。とても敏感な所だから根本は駄目だって分かっているのに、わざとだ。
くにくにと尻尾を弄られてしまったら身体から力が抜けて座っていられない。
持っているカップケーキも落としてしまうじゃないか。
「ああ、悪い悪い、ケーキはテーブルに置いて、酒もだ。俺に寄りかかれ、な?」
「ゃ、まだ、お手入れ」
「終わってるぜ。だから、今度はハルリのお手入れだ。そもそもこんな格好なのが悪いんだぞ」
「だって、お風呂・・・んっ、も、外なのに」
「誰もいないから良いだろ」
この島にはハルリの家しかなくて、港町まではだいぶ遠いし近くの島も見える場所にはない。例え外だって何をしても人目を気にする必要はない。
弄られっぱなしの尻尾はもう気持ち良くて震えているし、後ろからロスの片手に軽く抱きしめられてカップケーキもお酒も取り上げられてしまった。
お風呂上がりのバスローブだからお腹の前の紐を緩めれば直ぐに肌が見えてしまう。
「ゃぁ、んんっ、ん・・・ぁ、ロス、ね、部屋に」
「少しくらい外でいいだろ。ほら、気持ち良くなってきた。足、開いて」
耳元で囁かれて素肌に触れられて、慣れた言葉に身体が勝手に期待してゆるゆると足を開いてしまう。期待に震えているのは身体だけじゃなくて小さな性器もで、もう勃ちそうになっている。正直者め。
「口も開いて。ハルリ、こっち向いて」
「ふぁ、ぁ、ん・・・」
久しぶりの気持ち良さに程よく酔っぱらっている心が口付けでくにゃくにゃになる。
尻尾を弄られて身体に触れられて、口付けの合間に耳の根元を刺激されたらもうハルリはロスに身を委ねるしかない。
口の中から聞こえる水音は夜の風の中に消えるけど、次第に大きく聞こえてくる。
夜になれば寒くなるくらいなのに身体はしっとりと汗ばんで、バスローブを身体に引っ掛けるだけになる頃には大きく開いた足の間にロスの指を咥え込んで不安定な体勢でゆらゆらしていた。
慣らす為の道具なんか魔法でいくらでも出せるし、ハルリを弄るロスは手を抜かない。じっくりと丹念に、根をあげたって許してくれない。
「も、でちゃ・・・ロス、も、うしろ、ぁ、やぅ・・・ぁ、ん、んんっ」
「一回出したら、ベッドに行こうぜ。そしたら、明るい場所でハルリの泣き顔をたっぷり拝むからな」
「あかるいの、や、ぁ・・・あ、あ、や、も・・・っ、いっちゃ」
ぐちぐちと後ろに指を入れられて弄られて、ゆるく開いた足がぶらぶらと不安定に揺れる。背中だけをロスに預けているから、後ろを弄られる動きに合わせて身体が揺れてしまう。
震えながら必死にロスの腕を掴んでも力は入らなくて、なのに性器に触れられたり乳首を摘ままれたりして、もう本当に無理だ。
目尻に涙が浮かべば舐められて、ついでとばかりに垂れた耳の根元を軽く齧られて、後ろの気持ち良い場所を指先で刺激されて呆気なく達してしまう。
びくびくと震えながら呼吸を止めて後ろを弄るロスの指を締め付ける。身体の内側にある存在を強く感じてしまって、達しているのにまた震えてしまう。指を抜かれても感じてしまう。
「ふぁ、あ・・・ぅん、ん・・・ゃ、まだ・・・」
「ふふ、かーわいい。さ、ベッドに行こうぜ。一ヶ月ぶり、たっぷりと、な」
震えるハルリから指を抜いたロスがとても楽しそうに耳元で囁いて、抱きしめられる。大きいロスに抱きしめられるとすっぽり腕の中に入るのが好きだ。

軽く持ち上げられて寝室へ運ばれて、長い長い夜がはじまった。


◇ ◇ ◇


一ヶ月ぶりにたっぷりとロスに触れて触れられて弄られて、くてくてになって気絶して、目が覚めたら夕方だった。
丸一日も寝ていたなんて駄目な生活だ。
もぞもぞと掛布から顔を出せば開けっ放しの窓から気持ちの良い潮風と一緒に、美味しそうな匂いもどこからか混ざって飛んできた。
ふんふんと匂いを嗅いでお腹を鳴らしたらリビングからエプロン姿のロスが来た。
そうか、ずっといてくれたのか。
「おそようさん。言っておくけど朝日だかんな。ハルリが寝てから三日目の」
「・・・え、そんなに?」
「そんなに。ま、その前まで寝てなかったし俺がトドメ刺しちまったしな。待ってろ。果実水持ってきてやる」
「ん、ありがと~」
もそりと起き上がればロスが近くに来くるから顔を上げて軽く口付ける。
おはようのキスだ。ちゅ、と触れて直ぐに離れてリビングに戻っていく。
「ふぁあ。よく寝たあ。んん、朝日かあ」
ベッドの上で両手を上げて伸びてから窓の外を見る。今日も外は良い天気で快晴だ。
潮風がてれんと垂れたウサギの耳を揺らす。

もう一度欠伸をしてぼけっとしていればロスが果実水を持ってきてくれた。
既に魔法で冷やされていて、瓶に直接口をつけて一気飲みする。
沢山寝ていたから水分がとても美味しい。
「イイ飲みっぷりだ。朝飯作ってるから、できあがるまでこれ食っとけ」
「カップケーキだ!ありがとロス、愛してる!」
「寝起きでもテンション高いよな、ハルリは。俺も愛してるぜ。朝飯はテラスで食うから適当にうろちょろしとけ。食ったら手入れな」
「分かった。収穫したいうぞうぞ君がいるから畑に行ってるね」
「おう。程々で戻ってこいよ」
「はぁい」
飲み終わった果実水の瓶はロスが受け取ってくれて、ハルリはカップケーキ片手にパジャマのままベッドから降りる。

サンダルを引っ掛けて、ぺたぺたと歩いてキッチンに向かうロスの背中に抱きついてから出かける用意だ。
用意と言っても日避けの麦わら帽子と収穫用のハサミを持つだけで、開けっ放しの玄関から外に出て畑に向かう。
「ん~、メープル味美味しい~。朝から幸せ、んふふ」
カップケーキを齧りながらのんびりと歩けば直ぐに畑に到着だ。
うぞうぞ君の区画は畑の中でもそんなに大きくなくて、今はまだ魔法で眠ったままで静かだ。
「おはよ~、うぞうぞ君。さて、起きたら収穫しようね。肥料はまた後で」
うぞうぞ君は魔法で眠ったり起きたりするけど立派な植物だ。けれどこの植物、栄養を土や肥料だけじゃなくて魔力からも取る。だから魔法が効くのだ。
眠りから目覚める詠唱をすれば一斉にぎゃあぎゃあと賑やかになる。小さい区画でもうぞうぞ君は百株以上植わっているので結構な騒音だ。
ハルリにとっては可愛いさえずりだけど。
「さてさて、熟したうぞうぞ君はどこかな~。んー、よし、君にしようかな」
自力で茎を折ってハルリに縛られていたうぞうぞ君が丁度良い具合に熟している。
収穫時だ。
熟したうぞうぞ君の前にしゃがみこんで、実のお尻の方にチョッキンとハサミを入れる。
うぞうぞ君は自力で茎を折って脱走するけど、実は見えない糸みたいな魔力で繋がったままだ。なのでハサミで繋がりを切ると静かになる。
但し、実に蓄えた肥料と魔力があるので直ぐに袋に入れないと脱走してしまう。
元気な植物だ。
「あ、袋忘れちゃった。しょうがないから手で握らないとだね」
ハサミは持ってきたけど袋はない。しかも片手にはまだカップケーキがあるからハサミをパジャマのポケットに無理矢理入れてうぞうぞ君をぎゅっと握る。
握ると直ぐにうぞうぞしはめた。肥料をたっぷりあげているからハルリの作るうぞうぞ君はとても元気だ。
「あ、こら、カップケーキ食べちゃダメ。これはオレのなんだから」
元気なうぞうぞ君にカップケーキをちょっと齧られてしまった。
握っているのに元気過ぎる。

食べられない様にうぞうぞ君を持つ手を上にあげる。収穫が終わったから後は家に帰って美味しい朝ごはんを食べるだけだ。
畑でぎゃあぎゃあと鳴くうぞうぞ君をもう一度魔法で眠らせてから、のんびりと来た道を戻る。
「おーい、ハルリ、遅いぞ。って、うーん。何度見てもグロいよなあ、そいつ」
「あれ、もうそんなに経ってたの?グロくなんかないよー。可愛いじゃない」
「可愛くないし飯できたから呼びに来たんだよ。何でそいつ、収穫しても動くんだ?」
「肥料と魔力を蓄えてるから結構動いてるよ。ほら、可愛いでしょ」
「うわ・・・なあ、そいつって、魔導具になるんだよな。その、動いたまま加工したり・・・いや、聞かなかった事にしてくれ聞きたくないわ」
「ロスって意外と怖がりだよね。加工に興味があるなら街で見せて貰うといいよ」
「絶対に嫌だ」
迎えに来てくれたロスが嫌そうな顔でうぞうぞ君から視線を逸らしつつハルリを抱き上げる。自分で歩けるけどハルリを持ち上げるのが好きみたいだ。
お礼に近くにある綺麗な頬にちゅと唇で触れて、朝ごはんが待っているテラスに帰る。

気持ちの良い潮風を浴びながら美味しい朝ごはんを堪能して、お手入れもしてもらって艶々になった。
洗いざらしでも平気だけどお手入れしていればそれなりに気持ち良いし、ロスは丁寧にブラシをかけてくれるからとても良い気分だ。
「ほーら、艶々ふかふかイイ匂いだろ。このふわふわが良いんだよな~」
「くすぐったいよ。でも気持ち良い~。ありがとね、ロス」
「こうやって甘やかすからいつまで経ってもハルリは洗いざらしなんだよなあ・・・ま、いいけど」
「ふふ。甘やかされるの好き~」
「へいへい。どれ、俺は街に戻るけどハルリはどうすんだ?」
「オレも街に行くよ。うぞうぞ君をお店に届けて、ロスのお店にも行きたいんだ。今日は開店するの?」
「ハルリが来るなら開店するぜ。じゃあ一緒に行くか」
「うん」
お手入れしてもらったハルリは亜種らしく綺麗に整った子供になった。艶々だ。
ふかふかのウサギの耳をふるふると振ってみれば気持ち良くて、見ていたロスに笑われる。

それから二人で一緒に着替えた。畑仕事じゃないのできちんとした服じゃないとダメだ。ハルリは気にしないけど、街の同族やロスがとても気にするので、一応それなりに見える服を選んでみる。
「ロス、これでどお?」
「イマイチ。ちょっと待ってろ、俺が選ぶから」
「いまいちかあ。ロスは厳しいよ」
「ハルリが気にしなさすぎ。これとこれと、こんな感じだな」
結局ロスに選んでもらって、白いチュニックとリボンタイに丈の短いズボンになった。足元はショートブーツで靴下は長いやつ。見た目が幼いハルリだからいつもこんな衣装ばかりだ。
ハルリとしては着れれば何でも良いので特に気にせず素直に着替える。
ロスも白いシャツに黒いズボン、ブーツになってとても格好良い。
「ロスは何を着ても格好良いよね」
「一応魔族だしな。ハルリは可愛いぞ」
「ありがと」
見た目が整ってる種族だからもあるけど、ハルリから見ればまた別の意味で格好良いのだ。
ふふ、とまあるい尻尾を小さく動かしながらロスに抱きつけば、抱き返されて額に口付けしてもらう。そのまま唇にも口付けて、ついもっとと欲しがってしまう。
ロスも同じ気持ちみたいで、つい口付けが長くなる。
いつの間にか口を開いて舌を絡めて、くちゅくちゅと味わっていたら身体が熱くなってしまった。
「ん、これでお終い。もったいないけど、いや、一回くらいならヤってもいいか」
「ふぁ、ん・・・着替えたから、お出かけしよ」
「だな。あれも店に預けねーと、ずっと動いてて気味悪りぃしなあ」
「うぞうぞ君は可愛いんだよーだ」
ぴったりと抱き合ったままロスが嫌そうに見るのは玄関に置いてある麻の袋だ。
さっき収穫したうぞうぞ君が中に入っていて動いているし鳴いてもいる。うぞうぞ君がいるから集中しきれなかったらしい。
はぁ、と溜息を落とすから背伸びして顎の辺りにちゅ、と口付ければ恋人らしくない微妙な顔で見下ろされる。
「ハルリは可愛いけど、そのセンスは全く理解できねぇ。何百年経っても俺には無理な世界だ」
「そんな事ないと思うよ?ほら、お出かけしよ。オレ、ロスのお店久しぶりだから楽しみなの。カップケーキ食べたい」
「へいへい、とびっきりのカップケーキを作ってやるよ」
「ありがと~。へへ、嬉しい」
朝も食べたけどお昼にだって食べたいし夜にだって以下同文だ。
嬉しいなあと笑顔を浮かべるハルリにロスもちょっとだけ笑って、頭を撫でてくれる。ついでにウサギの耳も軽く撫でてから先っちょを指で弄って、ハルリを抱き上げる。
このままお出かけ、空を飛んで行くからだ。
抱き上げられたハルリはロスの首に両手をまわして、ふわふわと外に運ばれる。玄関に置いてあったうぞうぞ君の袋も嫌そうなロスが足先でちょいちょいと引っ掛けて空に飛ばしてハルリが受け取る。
「わ、もう、ロス乱暴」
「触りたくねーんだよ、察してくれ」
「もう」
畑にいる時は触っても平気なに収穫したやつはダメだと言う。変なの。
「どうもそいつの魔力が苦手なんだよなあ。畑のはまだマシなんだけどよ、収穫後が何て言えばいいのか、微妙に変わるんだよな。おぞましい感じに」
ああ、それは肥料の所為だ。ロスの嫌そうな顔に納得するけど言わないでおく。言ったら畑のうぞうぞ君にも触れなくなってしまいそうだからだ。
じっと無言でいればロスが何かに思い当たったらしく、軽くハルリの額を自分の額で小突いてからふわりと空に浮かぶ。街へ出発だ。

ここは孤島で船着場も船もない。移動するのは今みたいに空を飛ぶか、ロスだけなら魔力だけになって瞬間移動をするだけだ。
ロスは魔族だから魔力だけになって、世界に溶けて全ての場所を好き勝手に移動できる。ハルリは亜種だから姿を変えられないけど、魔法で空は飛べる。
ロスに抱き上げられて飛んでいるのはただ単に楽しいからと、ロスが運んでくれるからだ。
空を飛ぶ魔法は人間には難しくて使えないらしく、精霊も魔族みたいに世界に溶けて移動できるので使うのはもっぱら亜種だけだ。今は魔族も同じ魔法を使っているけど。

すいすいと空の旅を楽しみながら綺麗な海を眺める。この辺りの海には魔物がいないからとても平和だ。
透き通った青の底には大昔に沈んだ遺跡も見える。魚の巣になっている遺跡は陸地までずっと続いていて、島から二時間くらい飛べば港町が見えてくる。
港町は国の要所らしくて、いつも人間達と大きな船が沢山だ。
「今日も賑やかだね~。見た事ない船がいっぱい」
「航路に魔物が出ないからな、この辺りは。賑やかで良い街だよな」
「オレには賑やか過ぎるけど、沢山人がいるのはいいよね」
「だな」
もう何百年も見続けた街だ。今日も賑やかで平和そうで嬉しい。ロスの店もあの街の中にある。

空を飛んで偶に人間たちに注目されながら商店街の裏に着地する。
ここにはハルリが通う、行きつけの魔導具屋があるのだ。
「ありがとね、ロス。また後で~」
「おう、待ってるぜ」
ロスの腕から降りてばいばいと腕を振れば軽く頭と耳を撫でられて、ロスの姿がぱっと消える。瞬間移動だ。
消えた空間にはもう何も残っていないので魔導具屋の扉を叩く。
開店していても閉店でもお構いなしなのは店が住居にもなっているからだ。
トントンと扉を叩けば少ししてから内側で音がした。
「ああ、ハルリか。いらっしゃい。今日は開店しているよ」
「ゼレス、久しぶり~」
「そう久しぶりでもないよ、半年ぶりくらいだからね。どうぞ、入って入って」
かちゃりと開いた扉から魔導具屋の店主で、ハルリの友人でもあるゼレスが出迎えてくれる。
ゼレスはまだ若い風の精霊だ。若いと言っても百歳は超えているし、見た目はハルリよりだいぶ大人になる。
見た目だけならロスよりやや年上に見えるゼレスは綺麗な白い髪を腰まで伸ばしているとても綺麗な人だ。

出迎えられるままゼレスと一緒に店の中に入って、カウンター前の椅子にぴょんと飛んで座る。ゼレスも長身だから椅子が大きい。
「相変わらずぎゅうぎゅうに詰まったお店だよね。すごいなあ」
「魔導具屋なんてみんなこんな感じだよ。加工もしているから余計にね」
魔導具を扱っているゼレスの店は加工もやっている。小さな店だけど棚がみっちり並んでいて、中身もぎゅうぎゅうだ。店の奥にはカウンターがあって、奥が加工所だ。
抱えていたうぞうぞ君を袋に入れたままカウンターの上に置く。まだ動いているから袋から出すと逃げ出してしまう。
「はい、うぞうぞ君だよ。朝に収穫したばかりだから一週間は動いてると思う」
「ハルリの所は活きが良くて助かるよ、ありがとう。肥料をあげればもう少し動いてるかな?」
「たぶん一ヶ月くらいは持つと思うけど、どこかに運ぶの?」
「夜の街の同族が欲しがっていてね。あそこにも同じ植物はあるけど品種が違うでしょう?それにハルリの方が良いから持って行こうかなって」
「夜の街かあ。あそこのうぞうぞ君は大人しいものね」
「そうとも言うかな。ああそうだ、納品ありがとうございまいました。はい、お金」
「ありがと」
ゼレスがうぞうぞ君入りの袋を店の壁に引っ掛けて、奥から金貨を持ってきてカウンターの上に置く。枚数を確認したらゼレスが小さな皮の袋に入れてくれるのでそのまま受け取ってポケットに入れる。
「お茶でも出せたら良いのだけれど生憎切らしていてね。ハルリはこれからロスの店に行くの?」
「そのつもり。忙しくなかったら一緒に行こうよ」
「残念ながらこの後ちょっと用事があってね。お茶を出せなくて申し訳ないのだけれど、ロスの店でたっぷりと楽しんできてね」
「そっか、残念。また今度、一緒に行こうね」
「ええ、その時を楽しみに。ありがとうね、ハルリ」
「オレもありがとうだよ、ゼレス。じゃあね~」
うぞうぞ君の受け渡しが終わればハルリの用事は終わりだ。魔導具は必要ないのでゼレスに手を振って店を出る。




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