太陽のカケラ/番外編...食堂にて

基本的に食堂では朝昼晩の食事を提供している。が、そこは育ち盛りな男子高生のみの学園だ。
朝は4時から営業していて、夜は11時までやっている。至れり尽くせりだ。


「だってお腹空いちゃうじゃない。どうせならお菓子よりもしっかりご飯食べたいし」


いつもの昼食時、相変わらずなメンバーに囲まれつつ、ふとテーブルにあったプリントを読んで目を半分にする瑛麻にサチが今更何を呆れるのだと首を傾げている。
大層可愛らしい仕草で顔も可愛いけれど、ヤツの前には大盛りカツ丼と大盛りざる蕎麦が並んでいて可愛くない。
しかもデザートは別腹でバケツアイスまで注文していた。
バケツアイスとはその名の通り、バケツサイズの容器にアイスが山盛り入っている見るだけで胸焼けできる一品だ。


「どうしてそんなに食って肉にならねえんだサチは。どっかオカシイんじゃないのか?」


食の細い瑛麻としては呆れるしかない。
そもそも身長だって低い部類に入るサチなのに無駄な肉は一切ない。
その隣で同じく大盛りのカツ丼を平らげつつデザートのパフェをつつくカオルと遊佐の方がまだマシだと思う。
少なくともあの二人は身長もそこそこあるし、家の畑で動き回っているらしいので納得もするのだが。


「あ、今カオル達と比べたでしょ!酷いよ瑛麻君。あと1年したらボクだって兄さんくらいに伸びるんだからね」
「・・・まあ、頑張れよ」
「絶対ウソだって思ってるでしょ!」
「はいはい。思ってねえよ」


思ってる。あからさまに思ってる。
ぷりぷりと怒るサチだが瑛麻よりも目の前の食事が大切なのか、怒りながらもがつがつと平らげていく。
そんな姿に和む、訳はなくて少々うんざりする瑛麻だ。
食が細いだけではなくて、他人が力いっぱい食べている所を見ているだけでお腹いっぱいになりそうだからだ。
自分の注文したサンドイッチセットは既に半分以上残して満腹気味である。


「兄ちゃん、もうお腹いっぱいって思ってるでしょう。せめてあと1切れは食べてよね。サチ先輩は食べ過ぎかもしれないけど、兄ちゃんの方が異常なんだからね。育ち盛りの高校生がサンドイッチの2切れでお腹いっぱいだなんておかしいんだよ?」


テーブルに肘をつきつつサンドイッチも指先でつついていたら和麻に怒られた。
しょうがないのでサンドイッチの一切れを和麻の口に突っ込んでみる。
いやだって、見ているだけで満腹なのだ。ある意味お得だと思うのだが。


「全然お得じゃないからね。僕より食べないって変だと思うよ。サンドイッチセットくらい完食しようよ」


溜め息を落としつつもう一切れをまた和麻の口に突っ込もうとしたらナオにまで怒られた。


「しょがねえじゃん。腹いっぱいだし。サチ、サンドイッチ食うか?」
「食べないよ。それくらい食べなきゃボクより体重軽くなっちゃうでしょ瑛麻君は。だいたいその身長でその体重はないと思うんだ。ダイエットでもしてるの?」
「してねえよ。カオル、遊佐・・・」
「食わないよー。皆に怒られてるんだから頑張ろうぜ、それ全部食ったって別にどうにもなりゃしないって」
「そうそう。あ、パフェ食うか?」
「食わねえよ。なんだそのパフェ、何でバケツみたいな容器なんだよ、何キロあんだよ」


味方が誰もいない。そればかりか遊佐にパフェを勧められてしまった。
うんざりと見上げるパフェはなぜかバケツみたいな大きな容器にアイスと生クリーム、果物が山ほど入っていてどう見ても4人分くらいの量だと思う。


「学食名物タワーパフェ1号!旨いぞ」
「何そのネーミング。1号って事は他にもあるのかよ・・・」
「今は5号まであるぜ。中身が違うんだぜ。これは普通だけど、2号は果物オンリーで3号がアイスだけとか。瑛麻も食うか?」
「だから食わねえっての。もう勘弁してくれ」


見ているだけ以下同文。がっくりしながら和麻に寄りかかれば支えてくれる。
これも既に食堂では当たり前の光景になっていて、まだ一週間も経っていないのに瑛麻兄弟がいちゃついていても誰にも驚かれなくなりつつある。


「かーずまー・・・」
「もう、しょうがないなあ兄ちゃんは。夕ご飯はちゃんと食べるんだよ」
「食う食う。ちゃんと食うから」


これも、もう毎日のやりとりになりつつある。
和麻を片腕に抱えたままでぺろりとサンドイッチの残りを食べる和麻の方が兄みたいだ。


「もう、ダメだよ和麻君、瑛麻君甘やかしちゃ」
「そうだよ。全然食べてないのに午後から体育があって泣いてもしらないんだからね」


そんな和麻にナオとサチが怒るけど、呆れが大きくて本気でもない。
瑛麻はすっかり食べ終えた気持で和麻に懐きつつ珈琲を飲んで欠伸なんかしている。


「まーた食う食わないでモメてるのかお前ら。飽きないな毎日」
「何だ瑛麻は食わないヤツなのか。ダメだぞそんなんじゃ、大きくなれねえぞ」


ようやく食後の珈琲を楽しめる瑛麻の上からまた新たな火種が降ってきた。
会長と鏑木だ。
この2人は仲が良いのか時間が一緒になる事が多いのか、良く一緒にいる所を見る。
遅めの昼食なのだろう、周りの空気が会長の出現でざわついて、早速親衛隊のメンバーがいそいそと飲み物を運ぶ準備をしているのが視界の端に入ってご苦労様だ。


「いいんだよ、これ以上でかくならなくても・・・って、会長はともかく鏑木先輩には言われたくねえっての。何だそのメニューは!」


それぞれトレイを持って当たり前の様に同席した会長と鏑木だが、昼食のメニューを見て瑛麻一人が唖然とする。
会長はまだ良い。サチと同じ量で、しかもなぜかカツ丼には七味唐辛子が山盛りかかっていても、まだ良い。


問題は鏑木だ。何でトレイに乗っているのがデザートだけなんだこいつは。
しかも量がハンパない。ケーキ3種類にパフェが2つにプリンが数種類・・・どういう事なんだ。


「そう言えば鏑木先輩とご飯って瑛麻君ははじめてか。新鮮だよね、その反応」
「もう皆慣れっこだしなー」


唖然とする瑛麻を指さして(失礼な!)サチとカオルが笑っている。
と言う事はこれで普通なのか・・・いや、普通じゃないだろう、どう見ても。


「昼飯は甘味って決めてるんだ。朝夜は普通だぜ。それにサンドイッチで音を上げてる貧弱者に驚かれてもなあ」


鏑木もにやつきながらケーキを食べて旨い!とゴージャスな花を咲かせつつ良い笑顔だ。


「・・・驚くのは普通だと思うよ。僕も驚いたもの」


そんな瑛麻にナオだけが味方になってくれたけれど、当たり前の様に鏑木からプリンをお裾分けして貰っているから味方ではないと思う。


「なんか、疲れた・・・和麻だけだ俺の味方は」


鏑木の食事で本格的に胸焼けがしてきた。
匂いも甘ったるくてうんざりな気持でもぞもぞと和麻に抱きつけばしっかりと抱き返されるものの。


「食事の件に関しては僕、味方にはなりたくないからね。ちゃんと夕ご飯は食べるんだからね、兄ちゃん」
「うー・・・」


ダメだしされてしまった。




感想等はメールフォームか↓へお願いしますですー。




>>ご飯はいっぱい食べなないとダメです。
瑛麻は基本的に食事に関してはどうでも良くて細い。あんまり食べなくても動ける。
和麻は至って普通。甘い物はそんなに好きでもないけど食べる。
サチは真逆。沢山食べてもすぐお腹が空いて授業中にこっそりお菓子もりもり。
ナオは普通。若干甘い物、それも砂糖たっぷりの甘すぎるのが好き。
カオルと遊佐は普通の食べ盛り。遊佐は身体が大きいので量も多い。
会長はサチと一緒。そして授業中も一緒。
鏑木は甘い物大好き。昼食が命!になってる。朝晩は普通。



ブラウザを閉じてお戻り下さいませー。